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そして伝説へ  作者: 中島 遼
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魔王の黒い城(ナイト)

「呪いは解けたようだな」

ナイトを見て笑う紫竜に、彼はうなずく。

「狭かった視野が広くなり、色んな事がわかりました。人として成長させていただいたと思います」

「具体的には?」

ナイトは少し逡巡したが、素直に言葉を繰り出す。

「本来、方法でしかないモラルを、目的とはき違えておりました」

「己から逃げず、本質を見極めよ、じゃ」

勇者の資格7項目が紫竜の口から出たことに驚き、ナイトは目を見開いた。

「真面目で誠実なのは美徳だが、それだけでは勇者にはなれぬ。それがわかれば十分じゃ」

次に紫竜はソラに目を向けた。

「初めまして。空の城から参上いたしましたソラと申します」

ソラの優雅な挨拶に紫竜はうなずく。

「そこの椅子に腰かけるがいい。少しよもやま話でもしようじゃないか」

「紫竜!」

ナイトは叫んだ。

「そんなことをしている時間はありません。今にも魔王が復活するかもしれないんです!」

「本当にお前はくそ真面目じゃな」

老婆は笑った。

「お前たちが来るのが遅すぎた。最早、魔王復活は避けられぬ時間となっている」

エルデが青ざめた。

「そ、それでは手遅れということですか?」

「それも含めてお決まり事じゃ。焦るでない」

紫竜は玉座から立ち上がった。

「ま、若者がせっかちなのは仕方ないことか。……では問うぞ、空の城の王子よ、そなたの望みは何だ?」

「LPとMPの上昇を阻害する原因を取り除きたいと思っています」

事前にエルデに教わった通り、ソラは紫竜に願った。

「わかった」

老婆は手に持った太い杖をソラの頭に載せた。

「これで叶った願いは二つ半」

「二つ半?」

紫竜はうなずく。

「前回、出し惜しみをして言わなかった知識がある」

エルデが目を見開くと、相手は笑った。

「全部言ってしまったら興ざめだろうが。それ、最後の預言の書じゃ」

ズーンという音とともに、壁の一部がはがれ、そこにむき出しの石板が現れた。

「これは……」

目の前の文字を食い入るように見つめたソラが、ナイトのためにそれを音にした。

「全て十五になるその日、魔王は彼らの前に姿を現す。

嗚呼、そのとき空と海と大地の霊は、我が子に力を与えたもう。

二度と魔王が甦らぬよう、強い絆を封印の鍵に」

老婆は右手に持った太い杖で、大地を一度強く突く。

「あと、もう一つ。お前の弓をお見せ」

一瞬躊躇したエルデだったが、すぐに背の弓を紫竜の前に出した。

「……大地の力よ、太古のマグマよ、古の力を我が子に与えよ」

するとエルデの弓は夕焼けのように赤く光った後、夜に土が冷えるようにすっと黒ずんた。

「……信じられない、攻撃力がアップしただけでなく、火属性と土属性が付与された……」

「それだけではない、大地の女神はお前たちにわからぬことがあったとき、その知恵を惜しみなく与えることだろう」

紫竜はうなずく。

「これで預言は全て形になった」

「え?」

エルデが首を横に振る。

「し、しかし、力をもらったのは俺だけでは?」

「いや、俺は老ウィザードに剣を渡されている」

老婆は笑う。

「いや、ナイト。そなたの剣は別の次元の贈り物じゃ。とりあえず、ここで言う古の力は水鏡の盾と考えるがよかろう」

「ではソラは?」

「その時になればわかる」

周りが見えなくなるほどの暴風と雷鳴がとどろいた次の瞬間、老婆は巨大な竜に変化していた。

「それでは用意はいいか?」

エルデが慌てて革表紙の本にペンを走らせ、今までの冒険をセーブすると、紫の竜は左の翼を地面につけて三人に乗るようにと促した。

背に乗ると、竜は咆哮を上げ、力強く羽ばたく。

「うわっ!」

思わずエルデが叫ぶほど、強い風が彼らを包み、加速度が重圧となって彼らを後ろに押しつぶそうとした。

まるで、音と同じぐらいの速さで竜は飛ぶ。

あっという間に彼らがかつて歩いた大陸が後ろに流れた。

そうして、彼らが航海した海の上を飛び続け、空の城の一の姫が祈りをささげていた塔の傍、丈高い山に周りを囲まれた黒い城の上に到着する。

「ありがとう、紫竜」

そっと彼らを地面に降ろした竜は一度うなずいたあと空に向かって咆哮し、階段を見つめた。

「空と海と大地の子らよ、ここまでよく頑張った。残るクエストはただ一つ」

エルデが弓を握った。

「すぐにここに戻ります。それまでしばしご休憩を」

「よく言った」

既に彼らは死霊に囲まれている。

ナイトは黙って鞘から剣を引き抜いた。

が、

「!」

驚いたことに、ナイトが剣を構えただけで、黒い剣から発した黄金の光が死霊を消滅させた。

(……どういうことだ?)

しかしそれからも、似たようなことが続いた。

そして、それはソラも一緒である。

MP発動以前に、ソラの覇気で魔物は逃げ出した。

「……唯一、変化がないのは俺だけか」

もちろんエルデは大地の加護を得た弓で、数段パワーアップしていた。

しかし第三者的に見ても、エルデの上がり方と他の二人の上がり方には大きすぎる差があった。

しかも、

「わからぬことがあれば知恵を貸す、と紫竜は言ったが、何を尋ねても弓は一言も答えない」

ソラが微笑む。

「聞いたことを何でも教える弓なんて、うるさいばかりでありがた味がないじゃない?」

「それはそうだが」

「今は君の知識があれば問題ないから何も起こらないだけさ。ほら、さっきも行き止まりだったときに、僕らが元来た道を引き返そうとしたら、君は5分たっぷり考えて抜け穴を見つけたじゃないか」

ナイトもチームの士気を盛り上げるために頷いた。

「その通りだ。あれを見過ごしてうろうろしていたら、敵の先制攻撃などで多分、それなりにライフは削られてしまい、今のような状態にはない」

言われてエルデも気を取り直し、再びポジティブに先を進む。

魔王に会うための最終局面とは思えぬほど、さくさくと彼らは敵を倒し、そうして最深部と思われる場所に到達した。

見上げれば、そこには高さ百メートルはあろうかと思われるような大きな扉。

「扉はどうやって開けるんだろ?」

「その情報はないな」

エルデが言った時だった。

突然、弓が光りだす。

「え?」

弓から二筋の光が差した。一つは鍵穴に、一つはソラのリュックに。

慌てたようにリュックをまさぐったソラは、ティアラを取り出した。するとそれは揺れるように光を発散しながら、矢の形に収束していく。

手を出したエルデに金の矢を差し出すと、彼は弓をつがえて一気に撃った。

「……開いた」

鍵穴に矢が刺さると同時に、扉が音を立てて開いていく。

そうして完全に開ききったとき、鍵穴に刺さった矢が、再び光の粒になった。

「望め!」

エルデが叫んだ。

「弓がそう言っている。お前の望む形を命じろ!」

言われてソラは若干あたふたしながらも、右手を高く上げた。

「レイピアに」

すると光の粒はそのままソラの手に集まり、一振りの細身の剣となる。

「……色々と弓は教えてくれたね」

「ああ」

感慨深げにエルデがうなずいた。

「……舞台は整ったな」

その視線の先に、真黒な何かがうずくまっている。それは渦巻き、分かれ、そして雷鳴とともに一つになる。

「あれが……」

無音の広間に、黒い塊が立ち上がった。

「ようやく我はよみがえった」

もう一度雷鳴が轟くと、吸い込まれそうなほど黒い色をした人型の輪郭があらわになる。

「……魔王」

エルデの呟きに呼応するように魔王の目が赤く光り、こちらを見据えた。

「ちょうどよい、永い眠りから覚めて腹が空いている。われの贄となるがよい」

ソラがエルデを見る。

「どこが弱点?」

「先の戦いの記録では、腱に千を超す剣戟、目に千を超す魔術とあった」

それを聞き、ナイトはついっと前に出て、魔王の足首を1秒に百回程度の速さで十秒間切りつけた。

同時に腕を高く掲げたソラのレイピアに集まった雷が、そのまま魔王の目にいかずちの針を無数に飛ばす。

「ぐわあああ」

魔王が咆哮を上げ、そのまま地面に膝をつく。

「ま、待て」

エルデが顔を真っ青にして体を震わせた。

「こ、これはまずい、魔王をワンパン、だと?」

「……ワンパンって何?」

「一回の攻撃で倒すことだ。ここまで来て、そんなあっけない話で終わるなんて、永久に語り継がれる笑い話にしか……」

「おい、お前たち、油断するな、まだ息の根を止めていないぞ」

剣を構え直したナイトに、エルデは弓を持ったまま両手を左右に幾度も振った。

「魔王は死なない。膝をつかせた瞬間に、封印するのが通例だ」

「そんなまどろっこしいことをするから、何度も蘇って後で困るんだ。今、ここでやってしまおう」

「空気の読めない奴だな。そんなことしたら俺の存在意義はどうなる? 役立たずと後世に語り継がれるのだけは御免だ」

エルデはソラの方に右手を伸ばした。

「レイピアを矢の形に変えてくれ」

「どうやって?」

「望めばいい」

ソラがレイビアをじっと見つめると、金と銀の光がたゆたい、レイビアはその輪郭を徐々にぼんやりとしたものに変えた。

そしてそれが空気に溶けるように見えた瞬間、再び収束して金色の矢に変化する。

「はい」

ソラから矢を受け取ったエルデは、弓にそれをつがえた。

「封印の鍵よ、空と海と大地の精霊よ、どうか力をお与えください」

エルデは初めて聞く呪文を唱え、そして弓を引く。

それは目標である魔王の額に放物線を描きながら突き刺さった。

「ぐわああああ」

雷が轟き、魔王の周りにいくつも落ちる。そしてその光はそのままカーテンのように魔王の周りを囲み、虹色の輝きを発しながら縮んでいく。

「すごい!」

虹色の輝きは更に縮み続け、やがて掌に載る程度の大きさになり、地面にコトリと落ちた。

エルデがゆっくりと歩み寄り、そして宝石のようなそれを拾う。

「とりあえずはマーズの皇后陛下にこれを預ければ、良きに計らってくれるだろう」

「ではいくぞ」

既にナイトは歩きだしていたので、慌ててソラも小走りになって横に並ぶ。

「本当に、ロマンとか情緒とか感動とか、そういうとこが欠落しているよな」

仕方なさそうにエルデも彼らに続いてその場を離れた。

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