表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして伝説へ  作者: 中島 遼
2/9

聖なる光の塔2(ナイト)

「何だお前は!」

エルデの声に男は笑った。

「貴様たちと会うのは初めてだが、姫様はよく私のことを存じていらっしゃいますな?」

「そうか、ベリアル、お前が……」

一の姫の片眉がキッと上がる。

こういうところは姉妹でそっくりだ。

「父や母が信頼していたからつい油断していた」

一の姫は悔しそうな顔をする。

「お前が闇の者だと気づいていれば、きっちり始末してから出て行ったものを!」

綺麗な顔だが、言ってることは荒っぽい。

「ちょっと待って!」

ソーラが驚いた顔で待ったをかけた。

「それってどういうこと?」

すると男は腰に手を当てて笑い出した。

「貴様が生まれてすぐ、その足かせをつけて女にしなければ夭折すると嘘をついたのはこのわしだ」

「え!」

「その足輪自体にはお前を女にするという効果はない。死ぬまで外れず、死ぬまで悪夢を見続けるというだけのものだ。だが、近親者の強い思いと血の契約があれば、更に別の呪いを付加することができる」

ソーラは目を見開いた。

「まさか」

「思惑どおり空の城の王はわしと契約し、それに反対した老ウィザードは城を追われて貴様は呪われた。そしてこの世の調和は乱れた」

「なんだって……」

「そう、それはあのお方が復活なさるためには必要なこと。勇者三人がそろわないように欠けさせる。大地の城に勇者が生まれたとき、そいつを毒で殺そうとしたが、聖なる守りの加護のためか、そいつは毒が効かなかった。海の城に勇者が生まれたとき、そいつを斧で殺そうとしたが、どうしてか危機を察してそれを避け、殺すことができなかった。空の城に勇者が生まれたとき、そいつを魔法で焼き殺そうとしたが、結界に守られてそれが能わなかった」

男がばさりとマントを翻すと、顔がみるみる歪んで悪魔将軍の姿になる。

「最後の手段としてつけた足輪。それ自身は我々とは関係のない過去の呪いの結晶ではあるが、それ故、魔をよせつけない結界の中でも働いた」

今や全長が二倍近くになったモンスターは高笑いをした。

「ここがお前たち四人の墓場だ」

音響とともに、モンスターが超爆発魔法を発した。

「うわっ!」

それはかつて、ソーラが爆竹と称した魔法と同じものだ。

「今まで戦ったモンスターとはレベルが違う!」

ソーラが真大火球を投げつけたが、いつものようには効かない。

ナイトも跳躍して斬りつけたが、相手は平然と受け流した。

(……強い)

片目ではやや劣勢かも知れない。

そう思ったとき、激しい炎が彼らを襲う。

「気をつけろっ! こいつは一度に二度攻撃してくるぞっ!」

エルデの悲鳴に似た声にナイトは唇をかんだ。

さっきの攻撃でエルデは一番ダメージを受けている。

ここに激しい炎が来ては……

「お待ちなさい!」

だが、彼ら三人とベリアルの間に、突然一の姫が立ちはだかった。

「私が相手よ」

周りの気温が急激に下がり、氷の刃がモンスターに突き刺さる。

それは激しい炎の熱を中和し、そして弾けて消えた。

「こざかしい真似を!」

肩をやけどしたエルデが強力な回復魔法でそれを治療している間に、既に次の攻撃が来る。

ようやくのことでソーラはかわしたが、次の激しい炎は再び彼らに大きなダメージを与えた。

と、一の姫が手に持った石を天にかざす。

「あ、あれは……賢者の石?」

エルデの呟きと同時に、全員の傷が癒えた。

素早いソーラは既に攻撃態勢だ。

「行くぞ!」

ソーラが氷の刃を投げつけると、真大火球よりは効いたようだった。

ナイトもその後ろから二連攻撃をした。

と、今度はこちらに大爆発が二発。

「一の姫、賢者の石を俺にっ!」

どうしてかわからないが、意志があるもののように賢者の石はエルデの手に渡る。

「守りのベール!」

一の姫が呪印を切ると、三人の周りに断熱効果のある空間ができた。

「ソーラ! 攻撃力をアップさせろっ!」

エルデの声と同時に、ナイトの腕に力がみなぎる。

それは、ソーラが最近覚えた味方の攻撃力を二倍にするバッファー魔法だ。

「えいっ!」

ナイトが撃った一撃は、会心の一撃だった。

さすがのベリアルも顔に苦渋を浮かべる。

しかし、それからが長かった。

同様の攻撃、賢者の石による怪我の治療を何度繰り返したことだろう。

途中でエルデが、以前宝箱で拾った魔法の聖水をソーラに使ってマジックポイントを甦らせるなどして、持っていたアイテムもかなり使った。

そうしておよそ四十分も経った頃だろうか。

「貴方たちはお逃げなさい! こいつは何か隠してる!」

一の姫の叫びにベリアルが獣じみた笑いで応えた。

「さすがは我々が最も恐れた精霊の申し子よ。その通りだ。さっきこの塔が爆発するような仕掛けをした。ここでわしを倒しても、お前たちは全員死ぬ」

「なに!」

その言葉が終わるや否や、大音響がして下への階段が崩れた。

「魔王様! どうか復活してこの世を暗黒の地に……」

両手を広げたその身体に、一の姫が最後の氷冷魔法を撃ち込む。

すると悪魔将軍は白く凍り、そしてそのまま砕け散った。

同時にまた爆発音がして、塔が揺らぐ。

「いかん、煙が充満してきた」

エルデが一の姫の手を引いて駆けだした。

「とにかく外に出よう! 造りからすると、一つ昇れば塔の天辺だ!」

しかし、それでは逃げられないのではないかとナイトが思ったとき、

「それが一番いいわ」

一の姫が頷く。

「私の使い魔がいる。それで逃げられるはずよ」

それを聞いて、全員に生気がみなぎった。

揺れ、そして煙が充満する中、必死で走る。

「あ!」

外への扉を開けた途端、強い風と日光に、一瞬手で顔を覆う。

そしてその指の隙間から見えたものは、倒れ伏したブラックドラゴンたちだった。

それらは一の姫を見て安心したかのように目を閉じ、全て濃紺の石に変わる。

「なんてこと!」

一の姫も絶句した。

恐らくあのボスキャラが、先にここでドラゴンたちを倒したのだろう。

「くそっ!」

また地面が揺らいだ。

最早この塔は崩れようとしている。

このまま自分たちも藻くずと消えてしまうのか……

だが、

「あれ、何?」

遠くから何かがこちらに近づいてくる。

かなり側に来てからナイトは驚きの余り目を見開いた。

それはまごうことなき紅孔雀だったのだ。

「くうっ!」

紅孔雀は嬉しそうにナイトの側で羽ばたいた。

「貴方に逢えて嬉しいと言っているわ」

一の姫の言葉にナイトは首をかしげる。

「俺はこいつを知らない。以前、戦った奴とは違う。あれはもっと大きかったし、そもそも空など飛べなかった」

「くう、くうっ!」

一の姫は少し笑った。

「貴方のことをお母さんと言っている。生まれて初めて目にした貴方、それが忘れられなくて今までずっと探していたって」

(……え)

「鳥類大図鑑によると、紅孔雀は幼鳥時代は空を自由に飛ぶが、繁殖能力を得るとともに地面で生活するようになるらしい」

ようやくナイトは紅孔雀の巣にいたときに、割れた卵から顔を出した雛のことを思い出した。

エルデが本を閉じ、怯えた顔でナイトを見る。

「どうでもいいが、せっかく来てくれたんだから、背中に乗せてくれるよう頼んではもらえないか?」

切羽詰まっていたのでナイトはうなずく。

「それは可能か?」

鳥は頷き、背中をこちらに向けた。

「よし、行くぞ」

全員が乗り込んだのを見届けて、ナイトが合図すると鳥は飛んだ。

そして、まるでそれを待っていたかのように塔は根元から下に向かって崩れていく。

本当に間一髪だった。

エルデがほっと息をつく。

「精霊の加護って奴だな」

だが一の姫の顔は暗い。

「魔王が復活するまであと十日」

「え?」

「……今までずっと魔王復活を阻止しようとしてたけど、積み立てできたのはその程度」

一の姫は唇を噛む。

「魔王に流れ込むエネルギーを削るのは、この場所だけ。それができなくなった今、残された時間はほとんどない」

エルデが指折り数える。

「ということは、魔王復活は二月二十八日だ」

ソーラが一の姫の肩に手を置く。

「大丈夫だよ、姉上」

「え?」

「それまでに僕が男に戻りさえすれば、きっと何とかなる」

エルデが深く頷いた。

「そう、預言の書にはあります」

一の姫の顔に生気が戻った。

「……そう、それしかない、でも……いえ、それならきっと」

言いながら彼女はソーラの足輪を見つめた。

「だけどその前に、貴方はそれを外さなければならない」

「うん。」

「手がかりは?」

「……ない、けど」

トーンの下がったソーラをしばらく見つめていた一の姫は、ふっと眉をよせた。

「少し触らせて」

彼女の手がソーラの足輪にそっと触れる。

そしてしばらくの沈黙。

「洞窟が見えたわ」

「え?」

「逢魔の、洞窟」

「……それが?」

「それだけ」

それでは手がかりにならない。

残念そうなソーラに視線を移しながら、ナイトははるか地平を見つめる。

「マーズ大陸だ」

声に全員が前方を見つめた。

朧気ながら、マーズの港が姿を現し始める。

「そうね、とにかくできることからしましょう」

「……って?」

「封印の鍵をもらいに行くの」

「……え?」

エルデが頷いた。

「封印の鍵はマーズ皇国に伝わる伝説の宝だ」

「リヒターくんもそんなこと言ってたね」

エルデは少し悔しそうな顔をしたが、すぐに何事もなかったかのように言葉をつなぐ。

「しかし、それだけに簡単にもらい受ける訳には……」

「大丈夫。とりあえず、首都に降ろして」

ナイトが合図をすると、鳥はゆっくりと高度を下げた。

「賢いわね、この子」

ナイトが一の姫を見ると、彼女はにこりと微笑んだ。

「貴方が名前を付けていいのよ。ラーミアでもチロルでも」

地上が迫る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ