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そして伝説へ  作者: 中島 遼
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聖なる光の塔1(ナイト)

 一般的に、塔は外から見ると大体どれも同じ高さに見えるが、入ってみると広いもの高いものと様々である。

そしてこの塔はナイトが今まで見たうちで最も広く、そして複雑だった。

「あっ!」

エルデが大声を上げる。

「あれはっ!」

銀色に輝く楕円のスライム。

ソーラが魔法攻撃を素早くかけたが、そのモンスターには効果がない。

ナイトは跳躍し、頭から切り下ろす。だがダメージは1だ。

エルデは弓を槍に持ち替えて攻撃したが、それも効かない。

そうして何もしないうちに、モンスターはカサカサと逃げ出した。

「だめじゃないか、ソーラ。あいつが来たら、とにかく物理攻撃だからな」

「ごめん」

ナイトは肩をすくめる。

「あっさり逃げるし、閃光魔法の軽いやつぐらいしか使えんのだ。そんなにムキになって追い回す必要はあるまい」

しかしエルデは何かを革表紙の本に書きつけながら、ちらりとナイトを見る。

「あいつは見つけたら、とにかくやっつけないければならない」

「何故だ? 高く売れるのか?」

「買い取り価格は18Gではあるが……」

「では次回からは無視しよう」

「金じゃないんだ!」

エルデはぶんぶんと首を横に振った。

「あの逃げ足の速さ、カサカサという特徴的な足音、何度叩いてもなかなか死なない強靭な身体! 奴を倒したときの達成感は、エリアのボスキャラに勝るとも劣らない。ひどく自分が強くなったような気もする」

「台所に出没する虫と何が違う?」

「台所の虫は黒光りだが、こっちは銀に鈍く光る」

「似たようなものだろ」

「馬鹿な、なぜ、この違いがわからない?」

二人の言い合いを他所に、すたすた歩くソーラに続いてナイトたちも階段を昇った。

最近わかったことだが、ソーラは運が良く、先頭を歩くとモンスターに出会う確率が減る。

「それにしても高いな、この塔は」

彼らはすでに七階に到達していた。

ドラゴン系の炎を吐くモンスターをやっとの思いで倒した後、ナイトはちらりとソーラを見る。

「休憩するか?」

「いや、いい」

LPとMPは依然として低いが、ソーラのパラメータは確かに高レベルだ。

素早さや身かわし率はダントツだし、賢さもエルデと僅差の二位だ。身の守りも案外高くてナイトに次ぐ。

今はボスキャラ対策で、エルデが特に指示したモンスター以外はMP消費をセーブしているが、剣技も冴え、特技も多いので別に困りはしない。

「ソーラは敵の攻撃をかわすから、回復魔法をかける頻度が激減してる」

エルデも感心したようにうなずく。

確かにトロルの一撃など、ソーラに当たったためしがない。

「……ならこのまま行くか」

彼らはそのまま先に進んだ。

「思いの外、ここまで早く来られたのが逆に気になってな」

ソーラがふっと笑う。

「それはね、エルデがいるからだよ。三階の見えない床とか、五階にあったボタンを押して床を動かして階段への道を作ったりするのだって、全然悩まなかったでしょ?」

確かにこの塔は、他に比べてモンスター出現率が低い。

トラップさえ破れば正直攻略のたやすい塔だと言えた。

「僕ら、最高のパーティだよ」

「その通りだな」

エルデが同意した。

「やはり俺たちは勇者だ。性格も能力もばらばらなのにそれがうまく噛み合ってるなんて、最初からそのために作られた存在だとしか思えない」

「……俺は別の次元では、普通の十五歳の少年として平凡に生きているような気がするが」

ナイトの言葉に他の二人が押し黙ったので、辺りは一瞬深閑とした。

そこに微かに聞こえる涼やかな音色……

「何だ?」

三人は会話をやめて耳を澄ます。

そうしてその音色が聞こえる方向にゆっくりと歩む。

「……ドアがあるよ」

しかしそれは開かなかった。

エルデがしばらくその鍵穴を調べ、そして溜息をつく。

「この鍵は普通の鍵とは違う。何か魔力を使って開かないようにしているようだ」

エルデは背を伸ばし、そして少し横に退いた。

そのため、ソーラがドアの鍵の正面に立つことになり……

「え?」

エルデが声を上げた。

ソーラがつけていた光のブローチから一筋の光線が出たのだ。

それは扉の鍵穴に入り、そして瞬時扉全体に虹色の波動が広がる。

「!」

扉は何もしていないのに開いた。

ナイトは瞠目する。

ドアの向こう、部屋全体が虹色のオーラに包まれている。

その中央、神々しいまでの光の中に、祈るように両手を合わせた女性の姿が見えた。

「これは……」

目を細めてその女性を見つめ、ナイトはそれが間違いなくソーラの姉だと確信する。

何故なら年齢こそ上ではあったが、よく似た顔立ち、そして全く同じ髪の色をしていたからだ。

「よくここまでたどりつきましたね……」

美しい女は顔を上げ、その眼を開いた。

ソーラと同じ、琥珀の瞳が輝く。

「姉上?」

ソーラの声は震えている。

「僕が生まれる少し前に、モンスターに捉えられたっていう姉上?」

「……私は確かに貴方の姉だけど、モンスターに捉えられたというのは間違いよ。私は自らあの城を出たのだから」

「え!」

ソーラの血相が変わった。

「それはないだろ? 父上がそれをどれだけ悲しんでいたか。せめてそれが自分の意志だと言ってから旅立ってくれれば……」

「そんなことを言ったら、あの父上のことだもの、私をきっと塔に軟禁してしまったわ。それだけはどうしても避けたかったの、時間がなかったこともあるし。書置きは一応したけど、多分敵が処分してしまったようで、誰にもこのことは伝わらなかった」

ソーラは押し黙った。

姉の言葉に納得したのだろう。

「ソラ、ごめんなさい。そのために貴方を辛い目に遭わせたことを、ここにいて私は全部見聞きした……許してもらえるとは思ってないけど、せめて謝ることはさせてちょうだい」

目を伏せた姉にソーラは首を振る。

「ううん、謝るのは僕の方だ、僕こそ何も考えずに勝手なこと言った」

そうして一歩前に出る。

「姉上は目的があって、それでどうしても出なければならなかったんだね?」

一の姫はほのかに笑った。

「小さい頃から私は私の役目を知っていた。それはこの場所で、魔王が復活するのを抑えること」

エルデがうなった。

「預言の書の通りだ」

「そう。魔王は十五年前に目覚めた。そうして、モンスターを地上で暗躍させて、闇の力をずっと蓄え、元のように復活しようとしている。だから私はその闇の力が魔王の元に行かないように、ここで少しずつそれを削っているの」

「でも、モンスターに掴まって連れ去られたって……」

「あれは私の使い魔。私の願いで私をここに運んだだけ」

「それじゃあ……」

しかし、ソーラは次の言葉を発せなかった。

「やっと見つけたぞ、空の城の第一の姫よ!」

突然、黒いマントを翻した青い顔の男が、三人と一の姫の前に立ちふさがる。

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