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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
第1章 西の街へ
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7.盗賊の洞窟

 俺とニーナとパンドラの3人は、目立たない岩陰にいた。

 すぐ近くにある洞窟には、俺の荷物を盗んだ盗賊が潜んでいる。


 久しぶりに森の外に出たニーナは、辺りの景色をとても懐かしそうに眺めていた。


「本当に森の外に出られるとは……。ありがとうバーン。何かお礼ができることがあれば言ってくれ。手始めに盗賊たちを全滅させてこようか?」


 恐ろしいことを軽く言うニーナ。彼女の魔法なら確かに簡単に済むのだろうが、だがこれは俺の仕事だ。途中であまり人に頼りたくない。


「ありがとうニーナ。お礼も何も、おまえは俺のけがを治してくれたり、フレイムソードを与えてくれたり、こっちこそお礼をしなきゃいけないくらいだよ。そしてこの盗賊から荷物を取り戻すところまでは俺一人でやらせてくれ。いきなり戦場に連れてきておいて言うのもなんけど……」


「分かった。もう貸し借りとかそういう事はいらないって事だな。それじゃ私とパンドラはそこらで隠れて待ってるよ。ピンチになったら呼んでくれてもいいんだぞ。」


「ありがとう。」


「がんばってね~」


 笑顔で手を振るパンドラ。

 二人と別れ、俺は盗賊の洞窟へ襲撃を開始する。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 先にニーナの魔法で中の様子を偵察済みのため、どこに何人いるかは把握済みだ。

 洞窟の入り口には見張りが1人。中には3人の計4人。サクッと倒してサクッと荷物を奪い返して来よう。


 俺は大きな音を立てないよう気を付けながら洞窟の入り口へ近寄り、見張りの盗賊にいきなりフレイムソードで斬りつけた。

 不意打ちに気付かなかった見張りの盗賊は、騒がれる前に一撃で倒すことができた。


 盗賊が死んだことを確認していると、意外としっかりとした装備をしている事が気になった。

 手入れの行き届いた革の鎧やショートソードなどの装備品。

 男の髪型や服装を見ても、なんというか、身だしなみがしっかりしているのだ。

 街道を通る一般人を襲う山賊の類なら、もっとひげが伸びていたり装備品も汚れていたりするものだとおもうのだが。

 どちらかというと、盗賊というより傭兵という感じがする。

 仕事を失って盗賊を始めたばかりとか?

 まあ、そんなことはどうでもいいか。


 俺は静かに洞窟の中へ向かった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 洞窟の奥に3人の盗賊がいて何やら話している。先手必勝、俺はいきなり盗賊のボス(俺を斬りつけたやつ)に斬りかかった。

 例の魔力付与剣エンチャントソードを構える前に斬りつけてやったので、鮮血が飛び散ると共にそのまま叫び声をあげて倒れる。

 あと二人。


 左側にいた盗賊が短剣を投げてくる。

 俺はすぐに反応し、それを叩き落す。

 焦る盗賊。

 俺は一歩踏み込みその男も斬りつけた。

 ラスト一人。

 俺は振り返り最後の一人を見ると……


「アニキこれを!」


 そいつは、さっき切り倒したボスに青い液体の入った瓶を渡し飲ませる。

 それは!


「あああああああ!!!それはああああああ!!!!!」


 俺は思わず大声をあげてしまう。

 それは高回復薬ハイポーション

 俺が西の街まで届ける予定だった、魔法の薬だ!


 高回復薬ハイポーションを飲んだ盗賊のボスの体は一瞬光に包まれ、俺の斬りつけた切り傷が革の鎧ごと再生した。


「ちっ、てめえは昨日逃げたやつだな。生きてやがったのか?今度こそぶっ殺してやる!」


 そう言って、魔力付与剣エンチャントソードを掴み構える盗賊のボス。


「お前……それいくらすると思ってんだあああああ?!!!」


 その高回復薬ハイポーションを西の街まで届けられなかった俺はもう王国での社会的立場が危うい。

 上司に怒られる。

 弁償させられる。

 その高回復薬ハイポーションを買うためには、俺が何か月働けばいいのか分かってるのか?

 そんな貴重な薬を簡単に使っちまいやがってバカヤロオオオ!!!


「俺は今、キレています!」


「キレてんだかなんだか知らねえが、お前は死ぬ運命だ。これは魔力付与剣エンチャントソード。鉄だろうが岩だろうが何でも簡単に斬り裂く剣だ。お前も真っ二つにしてやる!死ねっ!」


「うるせえ!」


 お互いに攻撃動作に移る。

 大上段から斬りかかってくる盗賊のボスを、その自慢の魔力付与剣エンチャントソードごとフレイムソードが斬り裂いた。


 血しぶきをあげて倒れる盗賊のボス。


 このレベルの敵には、フレイムソードに炎を宿すまでもなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 辺りは血の海。俺も返り血を浴びていた。

 最後に残った盗賊はそんな俺の姿に怯えている。

 完全に戦意を喪失している。油断はしていないが抵抗もしないだろう。


 そんな事より俺は空っぽになった高回復薬ハイポーションの小瓶を拾う。


 空っぽだ。


 これを厳重に入れてあった箱は鍵を壊されて開けられてしまったんだろう。

 略奪したなら、そりゃあ高価なものから手を出すよなあ……。

 それにしても失敗した。

 やっぱりニーナの手助けを断るべきではなかったか?

 いや、今さら後悔しても遅い。

 保険にでも入っておけばよかった。冒険者組合にでも行けば強盗に襲われた時の保険とかあるはずだ。

 やっぱりこれは弁償するしかないか?

 それとも逃げてしまおうか?

 王国での立場を捨て、完全に旅人となってどこか遠くの知らない土地へ行って逃亡生活を……。


 あまりのショックに考えることがおかしくなってゆく。


 起きた出来事を話して、素直に謝っただけで許してもらえないだろうか……。


 とりあえずそれがいい。弁償だとかいう話になったらその後で考えよう。


「うわー……盛大にやったなー!」


 と、ニーナの声に振り返ると、ニーナとパンドラの二人が入ってきたところだった。


「きゃー、こわーい!」


 と、驚くセリフが棒読みのパンドラ。むしろ楽しそうだ。


 凄惨な殺し合いになるだろうから女性に見せるものではないという事も思って二人を置いてきたのだが、なんか二人ともこういうの見慣れてそうだな。


 その時、生き残りの盗賊が呟いた。


「おまえたち……何者なんだ?!こんな手ごわいなんて聞いてなかったぞ……?」


 どういうことだ?聞いてなかった?こいつたまたま俺を襲ったんじゃないのか?


「おい、おまえ。『聞いてなかった』って、どういう事だ?誰かから俺を襲うように指示があったのか?」


 慌てて俺は問いただす。フレイムソードの切っ先を盗賊に向けて。


「ヒ…ヒイイ!!!殺さないでくれ!!!依頼されたんだ!俺たちは流れの傭兵だ。金をもらえばある程度どんな仕事でも引き受けていた。黒いスーツの男から依頼されたんだ。ボスにあの剣をくれる代わりにお前を襲って荷物を奪うように。」


「何だと?!」


「おそらくお前が何らかの回復薬か何かを運んでいるだろうから、それを強奪するように言われたんだ。」


高回復薬ハイポーションの転売目的か?!だとしたらお前のボスに使っちゃまずかったんじゃないのか?」


「いや、奪った薬は俺たちの好きにしていいと……」


「はあ?なんであんな高価なものを?なんのために俺を?」


 尋問の途中でニーナが割り込んでくる。


「誰かに恨まれてんじゃないの?」


「やーだー!こわーい!」


 と言いながら、爆笑するパンドラとニーナ。この二人には全然緊迫感をいうものがない。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 その後、生き残りの傭兵に気付かれないようにニーナが催眠スリープの魔法をかけると、傭兵の記憶の中を覗いて映像で映してくれた。

 記憶映像に映る俺を襲うよう依頼した男は、黒いスーツの上から黒い外套を羽織った紳士風の男だった。貴族だろうか?男の顔は黒く影がかかっており、おそらく魔法で顔が分からないようにしていたようだ。傭兵のボスの広刃剣ブロードソードに攻撃力強化の魔法をかけたのもこの男で、魔法使いであることは間違いなさそうだ。

 そしてどうやら俺個人に恨みがあるというより、この高回復薬ハイポーションが届けられることを妨害しようとしていた可能性が高い。

 傭兵は本当にそれ以上何も知らないようだ。


「バーン、お前はその高回復薬ハイポーションを誰に届けようとしていたんだ?」


「西の街の領主のところだ。この話はあまり話してはいけないのだけど、どうも領主の娘が原因不明の奇病で日に日に弱っていっているらしい。そこで領主が娘のために高回復薬ハイポーションを買い、俺がそれを届けるところだったんだ。」


「そんな高価なものなら、もっと護衛を増やして輸送した方がよかったんじゃないか?」


「逆に怪しまれるだろ?それにさっきも言ったけど、これは内密の話なんだ。原因不明の奇病が伝染病かもしれないし、娘の病気に乗じて権力争いが起こる可能性もあるって聞いている。だから剣の腕に覚えのある俺が極秘に輸送していたんだけれど……」


 結果は盗賊に高回復薬ハイポーションを使われて失ってしまって、任務が失敗してしまったんだけれど……。

 はぁ。また現実に引き戻されてしまった。本当に一体どうしよう……。


完全回復薬エリクサーならまだしも、高回復薬ハイポーションなんかで病気がどこまで治るか分かったもんじゃないけどな。」


「そうだな……」


 空になった高回復薬ハイポーションの瓶を、ニーナがつまんで言った。


「領主に恨みがあるものの犯行の可能性が高いな。とりあえずこれを届けに行ってみよう!」


「そうは言ってももう中身が……」


 がっかりとした俺の目の前で、ニーナの手の中で魔法の光がきらきらと光り、瓶の中がみるみる青色の液体で満たされてゆく。


「ぐがっ?!瓶の中の時間を戻したのか?!でたらめな?!そんなん有りか?!」


「さあ、西の街へ行くぞ!」


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