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千年の森の魔女と魔法の剣  作者: 叢咲ほのを
プロローグ:千年の森の魔女と魔法の剣
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6.旅立ち

「女性に年齢を聞くなんて失礼なやつだな。」

 どうやら俺はさっき、思っていることを口に出してしまったらしい。

「あ、ごめん……。」

 一応謝ってみたが、でも多分怒ってない。セーフだ。

 ニーナは寂しそうに笑って話し始めた。

「わたしは時間と空間を操る魔法使い。わたしの体は16歳で時間を止めた。わたしもパンドラと同じく不老不死なのだ。」

「つまり、二人とも古代超帝国の頃から何千年も生きているってことか?」

「そうだ。」

 そうか。俺が住む世界とはスケールが違うのは薄々感づいていたが、本当に果てしなくスケールが違った。

 今日はびっくりすることが多すぎて、もはやなんでも受け入れられる気がする。

「死なないで生き続けるのも大変そうだよな……。だけど、それを知ったらその力を求める愚かな奴らが殺到しそうだな。この森で俺が見た出来事は誰にも話さないようにするよ。」

「うむ。こちらから頼むつもりだったが、察してくれてうれしいよ。確かにただのバカじゃないみたいだな。」

 褒められてるのかバカにされているのかどっちだ?

 その後、もう少しフレイムソードの取り扱いを確認した。

 魔法の剣とは便利なもので、俺が手を放すと異空間へ消失し、剣を意識して柄を握るとそこに剣が発生する。そして異空間から引き抜くとそこにフレイムソードが現れるのだ。大きな剣なので持ち運びが面倒だと思っていたのだが、これなら持ち運びしなくても必要な時に取り出せて非常に便利だ。誰かに盗まれる心配もない。まさに俺専用の剣。

 さて、怪我も治り剣をもらったので盗賊のところへ乗り込む準備はできたが、問題はどうやってこの森から出てゆくかだ。はっきり言って一人で森の外へたどり着ける自信がない。

「ニーナ、その、いろいろとお世話になってさらに頼み事をするのも申し訳ないんだけど、森の外まで案内してもらう事はできるかな?」

「盗賊のところに荷物を取り戻しに行くんだったな?それなら空間の門を開いてやろう。まずは盗賊がどこにいるか確認するか?開け遠視窓リモートヴューイング!」

 俺たちの視線上の高さに四角い窓が現れた。何もない空間に突然それが発生しても、もはやなにも驚きはない。

 その窓の向こうでは、俺の乗ってきた馬車と、その横に洞穴がある。

 洞窟の入り口には見張りの盗賊が一人。この窓は向こうからは見えていないようだ。

「こっちかな?」

 と、ニーナは窓の視点を洞窟の中へ移動してゆく。

 本当便利な魔法だな、これ。

 そして洞窟の中に、やつらがいた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「間違いない。俺を襲ったのはこいつらだ。ありがとうニーナ。中の様子も分かった。」

「洞窟の外の見張りから見えない場所と扉をつなぐわ。転移門ゲート

 目の前の空間に人ひとり通ることができる大きさで、盗賊のアジトの近くと空間が繋がる。

 おそらくここを一歩踏み出せばそちら側に行けるのだろう。

 ここでお別れだ。

「ニーナ、パンドラ、本当にありがとう。」

 何か俺は言い残したことはないか?ここを踏み出せば、もう今後二人に感謝の気持ちを伝える術はないだろう。

「あ……、ニーナはここにずっと住んでると言ったな?この森から出たりはしないのか?」

 何の気なしに聞いてみる。

 たまに外出するのなら、そこで再会できることもあるかもしれない。

 するとニーナの表情が陰った。

 聞いちゃいけないことを聞いてしまったか?

「私は……、ここから出られないのだよ。」

「え?だって時間と空間を自由に操れるって…?」

「私の力は強すぎる。この世界の行く末を自由にできるほどにな。強すぎるが故、私はここに閉じ込められているのだ。迷いの森の奥にあるここは、時間と空間の狭間にある牢獄なのだ。」

「え……?」

「私と外の世界の両方を認識している同じ超越者のパンドラだけが、外の世界とここを行き来できる。だがわたしは見えない結界を超えることができないのだ。」

「でも……俺はここに入ってこれた…」

「そう。それだけが不思議なのだ。でも火焔剣フレイムソードの所有者となった今、お前もこの森の結界を越えることのできる何か特殊な力を持ち合わせていたのかもしれないなと思うよ。」

「千年以上、ずっとこの森に閉じ込められていたのか?ニーナ……」

 千年以上迷いの森の牢獄に閉じ込められた魔女。想像しただけでも狂ってしまいそうだ。同じ永久の時間を生きるパンドラという存在が唯一の救いなのだろう。だとしても……。

「強すぎるって言っても、ニーナ、お前が自分の私利私欲でこの世界をどうこうするようなやつじゃないだろう?だとしたらここに閉じ込めるなんていう罰を与えられる理由がない!ニーナ、お前もここから出たいんじゃないか?」

「出られるものならな。」

 その返事が聞けたなら、俺は一人でここを去るわけにはいかない。

「一緒に行こう。」

「無理だ……」

 無理じゃない。今ならできる気がする。

「フレイムソード!」

「何をするつもりだ?」

 俺の行動に驚くニーナとパンドラを横に、俺は剣を構える。

 見えない結界を切り裂くんだ!!!

「バーニングスラッシュ!!!」

 ニーナが開いてくれた転移門ゲートをさらに広げるよう、フレイムソードの業火で空間を斬った!

 空間が切り裂かれ、転移門ゲートがさらに大きく開いた。

 そしてそこにあった見えない結界も、切り裂かれているのを感じる。

 それはそこにいる3人とも感じていた。

 驚きとも喜びとも思える表情で、ニーナは言った。

「嘘だろ?!」

 パンドラは自分を納得させるようつぶやいた。

「確かに魔法剣はゲートを開く力もあったはずだわ。」

 俺は、理論や理由なんてどうでもよかった。

「さあ、一緒に行こう、ニーナ、パンドラ。」

 そして俺が広げた転移門ゲートを3人で越えた。


 ――これが俺たち3人にとって、何かが始まった瞬間だった。

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