3.パンドラ
扉を開けて現れたのは、透き通るような銀色の長髪が印象的な女性だった。
年齢はニーナより少し上に見えるが、やはりとても若い。20歳前後というところか?
「パンドラ。ちょうどお前の話をしていたところだ。バーン、彼女がちょうど森で倒れてるお前を見つけてここまで連れてきてくれたんだ。」
パンドラと呼ばれたその女性は、ニーナとはとても対照的だった。
ニーナの漆黒の髪に対しパンドラの銀髪。
ニーナの肌はとても健康的な桜色をしているが、パンドラの肌は少し不健康そうにも見える青白さだった。
また粗野なニーナの言葉遣いに対し、パンドラはとても女性らしい話し方をする。
背の高さは二人とも同じくらい――160cm前後か――、体型は一般的な女性と比べ二人とも非常に細い
「もしかしてエルフか?」
「はい、またハズレ。おまえことごとく間違うな?」
またニーナにバカにされる。
「そうか、エルフなら身長がもうちょっと高いものな。というかそもそも耳が尖ってないし…」
ぶつぶつとつぶやく俺にパンドラがフォローを入れる。
「ニーナちゃん、そんな言い方しなくたっていいじゃない。私たちが人間じゃないってところまで気付いて、それじゃ何者なんだろうって考えてるんでしょう。」
「私は人間だぞ。」
ムスっとした表情でニーナが言う。
私は?
「……というと、パンドラは人間じゃないのか?!」
「そうよ。私の正体分かる?」
自分が人間でないことを隠すそぶりも見せず、パンドラが俺のそばへ歩み寄る。
その美しい微笑は、確かに妖気も感じさせる。
怒られるのを承知で、その青白い肌の色から連想した名称をそのまま呟いてしまった。
「吸血鬼?」
発言して俺は息を飲み込む。
「せいか~い!」
満面の笑みでパンドラが答える。
俺は戦慄した。
「ちょっと待て!吸血鬼だと?!吸血鬼と言えば人類の敵。恐るべき恐怖の魔物じゃないか!」
そう、夜の支配者と呼ばれる吸血鬼。人の生き血を吸い、血を吸った人間をアンデッドの従者とするという。その肉体は不死であり、銀の武器や太陽の光以外で殺すことはできないと言われている。吸血鬼1体で人間の国一つ滅ぼす可能性があると言われている人類の天敵だ。そいつがまさに今俺の目の前にいるだと?!
「そんな……」
驚いた顔の俺を微笑を浮かべ見つめるパンドラ。
俺はそのパンドラの顔を見ながら言う
「そんなバカな?だって……」
俺は感じたことをそのまま言う。
「だって、おまえもいい奴じゃないか」
いい奴と言われて嬉しそうな表情になるパンドラ。そして彼女が答える。
「バーン、あなたの知ってるのは人間の生き血を吸わないと生きられない下等な怪物吸血鬼だけなのね。そうよ。あなたが感じた通り私はあなたたちの敵じゃないわ。私は純血吸血鬼。人間の血なんて吸わなくても平気なの。もちろん人間の生き血を吸う事もできるけど。でもニーナちゃんと約束してるの、私たちは極力人間と関わらないようにするって。」
また知らない単語が出てきました。純血吸血鬼?なんなんですかあなたたちはさっきから一体。
ニーナの魔法といい、パンドラが吸血鬼だという事といい、俺の知識の許容範囲を超える情報が次々の襲ってきたため、俺はただ口を大きく開けるだけだった。