97.後片付け
バーンの一撃で切り飛ばされたゴブリンキングの首は、離れた場所にドサッと転げ落ちる。頭部を失ったその体は血を噴き出しながら崩れ落ちた。壮絶な死闘の結果、バーンは勝ったのだ。
「手強かったな」
そう一言呟くと、残るゴブリン兵たちに向き直る。まだゴブリンたちは数千体残っている。戦いはまだ終わっていない。
「やれるか?」
バーンはインフェルノに尋ねる。インフェルノはダメージを負った体に自ら小回復をかけたものの、万全ではない。だが、だからといって怖気づいている時ではなかった。
「ああ。後片付けといくか!」
そして剣を構える。そうは言ってもこの数である。一体ずつ倒していったとすると、全て倒すまで何時間かかるだろうか。その間ずっと集中力を切らすわけにはいかない。一瞬の油断が命取りになるだろう。一度に大量に倒すことができる剣技も、使いすぎて魔力が無くなるのが怖い。そう考えると依然窮地は抜けていなかった。
二人を取り囲んでいるゴブリン兵たちは、ゴブリンキングがやられた瞬間、その敵討ちをすべきかそれとも逃亡するべきか迷っていた。自分たちの圧倒的大将であるゴブリンキングが倒されたという恐怖感もあったが、どう見ても目の前にはただの人間がたった二人いるだけ、やはり恐れるに足らないと判断したゴブリンたちは、再び二人に襲い掛かろうとした。その時。
(よくやったな!これで課題達成としてやろう)
ニーナの声が二人の頭の中に響いた。ニーナから課せられた、この森の最強種の討伐という課題は、ゴブリンキングを倒したことによって達成したと認めてくれたようだ。だが、だからといってそれじゃあ帰らせてくださいという状況ではない。二人はこのまま戦闘は続けるしかないと思っていると、ゴブリンたちの動きが止まっていることに気が付いた。
「時間停止」
遠隔通話ではなく、ニーナの肉声が聞こえたことに気が付く。声のした方向を見上げると、空中に浮かぶニーナの姿を発見した。
「お疲れ!」
森の外で待機していたはずのニーナだったが、いつの間にか飛行の魔法で空を飛んで近くまでやって来ていたようだ。やはり二人のことが心配だったからだろう。ニーナは二人の元へ、空からゆっくりと降下してくる。
「それにしても……」
バーンは動かなくなったゴブリンたちを見回す。辺り一面に広がる数千体のゴブリンの群れが、今にも動き出しそうな状態で全く動かなくなっていた。ニーナの時空魔法の底が知れない。
「すげえな……」
一瞬で数千体のゴブリンの動きを止めたニーナの魔法に感嘆する。
「それで、どうするのだこいつらは?」
「ああ、お前の国の国王に状況を報告するために現状を保存しておいた方がいいだろうと思って。お前たちはそこのでかいのの死体だけ持って先に帰っとけ。私はこの森の他の魔物を狩っとくから。」
ニーナのその言葉に従い、バーンたちは退散することにした。フレイムソードで転移門を開き、インフェルノの魔法、浮遊によって三百キロを超えるゴブリンキングの巨体を運びながら、二人は離れた場所で待っていたポポロを連れてインフェルノの自宅へと帰宅した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゴブリンキングの死体を持ち帰ると、それを見た者たちは騒然となった。
これまでこの国では魔物による人里への被害はあまりなかったため、魔物を初めて見る者も多かった。たまに森から迷い出たゴブリンくらいなら目撃例はあったが、この死体はそんなゴブリンとは比較にならないほど凶悪な外見だったため、見る者全てが驚いた。
これまで魔物はあまり森から出てくることがなかったわけだが、最近発生したゴブリンたちによる山奥の村の襲撃は、急激に増えすぎたゴブリンたちのエサが足りなくなったためだろうと推測される。それら情報と、今回のゴブリンキング討伐の一報をマインステート国王宛てに早馬を送った。
まもなくしてニーナも帰って来た。
「お帰り。時間がかかったな?」
「ああ。とりあえずはぐれたゴブリンの群れが少しあったので全部狩っておいて、あとは森を切り開いておいてやった。木材は積み重ねてあるから、切断して資材とするのはそっちでやってくれ」
バーンとインフェルノは顔を見合わせる。そう言えばフィックスから山を越える際、一日で山を切り開いてしまったことを思い出す。つまり今ゴーレムを使ってやっている開拓事業をだいたい終わらせてくれたという事だ。
「これで私たちがこの国でやることは終わりだな。次はアルベルトのところに行くって約束があるけど、ちょっと休憩だ。今晩はもう一晩ここに泊めてくれ」
「もちろんだ。開拓まで世話になってしまって何とお礼を言っていいか。せめて今晩はお礼を兼ねた歓迎会を行わせてくれ」
フローレンスを長い眠りの病から呼び覚まし、北方連合王国とバスク帝国の平和条約締結の約束を取り付け、辺境の地で大発生していたゴブリンを討伐、森林開拓事業を手伝い、ニーナはこの国でやるべきことを今全て終えた。




