1.千年の森
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俺の名前はバーン。
俺は西の街へある荷物を届けるために馬車で旅をしていたのだが、旅の途中盗賊団に襲われた。
腕にはそこそこ自信があった俺は、剣を持ち盗賊と抗戦した。
しかし盗賊が振り下ろしたぼんやりと光る広刃剣は、その一撃を受け止めようとした俺の持つ鉄の剣ごと俺の胸元を大きく切り裂いた。
飛び散る鮮血。
馬車から転げ落ちた俺は絶体絶命を感じ、道の横の木々の奥へと逃げ込んだ。
この先は千年の森と呼ばれる迷いの森。奥へ進むと帰って来れなくなると言われる場所。しかしその場にいたら殺されてしまう。逃げるにはこの森の奥へ向かうしかなかった。
どれくらい歩いたのだろう?
盗賊はそれ以上追ってこなかった。が、失血からだんだん意識が遠のいてゆく。
いつしか俺は倒れこみ、そして完全に意識を失った。
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「……目が覚めたのか?」
そう呟いたのは、真っすぐな黒髪の美しい少女だった。
まつ毛の長い少し吊り上がった黒い瞳が、真っすぐこちらを見つめている。
「……ここは?」
俺はベッドに寝ていたらしい。
上体を起こし辺りを見回すと、日の光が窓から部屋の中を照らしている。ここは質素な小屋の中の一部屋のようだ。
ぼーっとする俺に、再び少女から言葉をかけられた。
「おまえ、どうやってこの森へ迷い込んだんだ?あの怪我はどうした?」
ぶっきらぼうな質問に、急に記憶が蘇る……。
ぼんやり光る広刃剣に切り裂かれた事を。
「そうだ、俺は盗賊に襲われて……」
しかし今は胸の傷の痛みがない。慌てて自分の胸を触ってみる。
「?!」
傷跡がない?あれは夢だったのか?いやそんなはずはない。
「君が助けてくれたのか?」
「あまり外の世界とかかわるつもりはないんだけど、血まみれでこの森を汚されても困ると思ってな。」
ニコッと微笑む少女。おそらくその理由は冗談なのだろう。
「ありがとう。……俺はどのくらい寝ていた?」
「一晩かもしれないし、何年もかもね?」
俺は彼女が言ってる言葉の意味が分からず、また別な質問をしてみる。
「ここは、どこなんだ?俺は確か千年の森の奥へ逃げ込んだはずだけど……」
「ここはその千年の森の奥にある私の家だ。」