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SATOH:2165 望郷ー中編ー【不思議の国のアリス】

前回に引き続いて、漁師佐藤の任務出陣までを描きます。宜しくお願いします。

「お父さん。明日からカニ漁に行くんでしょ。頑張ってね。」娘の安珠が言う。


「うん。お父さん頑張って行ってくるよ。帰って来たらとびきり美味しい物を一緒に食べよう。今しばらくの辛抱だ。帰ってくるときには、安珠は就職してるかな。それとも、大学行ってるかな。」

佐藤は自分に嘘をついて明るく振る舞った。


イヤな予感がする。しかし、逃れることは出来ない。帰ってくれば報酬として、死んでしまえば補償金がこの家に入る。学のねえ一人の漁師だがやることはやってきた。

「お父さん。安珠。漁師鍋出来たわよ。」妻の百合恵は言った。


「今日はいやによく釣れた。しばらく本業の魚釣りから離れ、カニ漁に行くことになったが旨い物獲ってくる。安珠、百合恵。この家を頼んだ。頂きます。」

三人で百合恵の作った漁師鍋をつつきながら、安珠が生まれたときの様子や小学校の思い出などいろんな事を語り合った。途中、佐藤は泣いてしまった。家族以外にも涙を見せる男が、家族に嘘を貫いて涙を流さずにいられるはずは無かった。

安珠には早く寝なさいといったが、明日か父が居なくなると言うことで寂しいようだ。彼とは何遍も親子げんかをした。その度に愛情が深くなった。親子の思慕の情が二人をいっそう結び付けたのだ。


三人は夜通し、会話をしていた。UNOやトランプなどもやった。こんなに深く娘と向き合ったのはいつぶりだろうか。漁師という仕事の性質上、朝も早いし、下手すると前日の夜から出ることもある。

おまけに、安珠は思春期を迎え、自室に閉じこもるようになった。クラスメイトとSNSを使ってやりとりをしているのだろう。

日々のすれ違いで、話をしなくなった。日常の有り難みは、それを離れてから分かるモノだとよく聞くが、まさにその通りである。失われそうな状態にある今この時に、娘はコミュニケーションを取ろうとしている。まるで「父」という存在を心の中に刻み込もうとするように。


間もなく朝日が見える。今は12月だから7時くらいか。鍋の残りを食べて、8時には出立することにしよう。

鍋の残りを食べて、マスターから頂いた精油を忘れずに持って、パジャマ類、パンツ類を忘れずに持って行こう。釣り竿も持って行こうか。

そうこうして、7時50分になった。安珠と百合恵と共に、車で30分の船舶港に車を走らせる。

「百合恵。今まで世話んなったな。これから安珠のこと頼んだぜ。」

「あなた。何言ってるの?大丈夫、無事に帰ってこれるから。」

「そうだな。また今度戻ってくる。」

これが乗船なのか…もっと、漁船らしいモノだと思っていた。

彼の眼前に有ったのは、黒い漁船である。黒船とでも言うべきモノがそこには有った。

受付が有った。

「安珠、百合恵。達者でな。父さんは頑張って大物を釣り上げる。」

最期は、笑顔でお別れすると船に乗り込んだ。

「手紙を見せて下さい。照合させて頂きます。佐藤照彦さんですね。お部屋はB12です。そちらにお入り下さい。9時になりましたらお部屋のヘッドホンを付けて、指示に従って人員確認のボタンを押して下さい。」

「分かりました。宜しくお願いいたします。」

ここで受付を済ましているのだから、確認の必要も無いと思うかも知れないが、一応の確認が必要があるのかも知れない。脱走する者がいるということか。

「さて、どんな音楽が入ってるのかな。」照彦は、イヤホンを付け再生ボタンを押した。

その哀愁漂う名曲に心を奪われた。名称を確認すると『不思議の国のアリス』と書かれていた。

「何か、イメージとは全く逆な感じがするけど、なんだかやる気が出てきたぞ。不思議な感じだ。」

曲が哀愁漂うものに格好良さがあるので、厳しいものにも立ち向かってゆく姿を感じる。

先祖、藤原秀郷が大百足と対峙したときの音楽のように壮大だと照彦は感じて、すっかりその曲の虜になった。船は間もなく出立する。曲を聴いて照彦はリラックスした。







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