SATOH:2165 望郷ー前篇ー 【不思議の国のアリス】
第一話からは、近未来の怪奇現象に立ち向かうことになってしまった某漁師の話である。
この曲はなんとも寂しい曲調であり、陰鬱な気分の小説を書いてみようと思った。
「お客さん。どうしたんですか。浮かない顔して。」バーのマスターは声をかける。
「実は、もうすぐカニ漁に行かなきゃなんねえんだ。」客はため息をつく。
「カニ漁ですか。当たれば一攫千金じゃないですか。」
「そうかも知れんな。だけどな俺には高校二年になる可愛い娘が居る。出来るならカニ漁に行きたくねえ。海は寒いし、男だけの空間は心も寒い。マスター、生きて帰れる保証はない。今日は存分に呑ませてくれ。ホワイトルシアンを頼む。」
彼は涙を零していた。北極海や付近の海域には、流氷の上に立つロシア政府もアメリカ政府も全く知らぬと言う建物があるらしい。らしいというのも、カニ漁から帰って来た者は、皆錯乱していたので幻視と言うことで処理されているからである。
「分かりました。佐藤さんが無事に帰ってこられるようお祈りしております。」そう言いながらマスターは、ホワイトルシアンを振る舞う。
「有り難う。マスターの酒が飲めるのは嬉しいことだな。また戻ってこれると良い。うん…これこれ。いつ飲んでもマスターの酒は旨いな。心に沁みる。」
「大丈夫ですよ。また戻ってこれますから。」マスターはそう言うしかなかった。
カニ漁によって低体温症を引き起こし幻覚を見たということが、フラッシュバックしているというのが政府直属の公認心理師の見解であった。政権もそれを正しいとしていた。マスターには実情が分かりかねていたのだ。
「ああ、マスターと銀行員の松本君とここでいつもの酒を飲みながら、耽りたいものじゃ。出立は三日後、それまで挨拶回りに行ってくる。これは漁師達の赤紙だ。」
「そげんこつ言わんといて下さいよ。先生は、そげな任務で命を落とすようなお方じゃなかじゃろうがね。」
「分かっておる。マスター世話んなったな。しばらく呑んでなかったから酔いが回ってきた。今日はこの辺でお暇するよ。」
彼は自分の船を操縦して、噛み締めるように船を回した。
「せめて最期くらいは恩返しがしたい。大物を釣り上げるぞ。」
千葉の房総沖へ行き、船を下ろして鱸やアイナメを狙った。着実に近づく地獄の入り口が彼の目に幻視を与え、無いはずの群れが見えたりしたが、スズキ、アイナメ、サヨリなどまずまずの釣果を上げた。
「よしこれくらいでいい。俺は幸せ者だ。最期まで魚に恵まれて。」零れそうになる涙を抑え、船を操縦して元の港に戻った。
『Bar 主水』行きつけのバーの名前だ。なんともユニークな名前であった。読み方は「バーモンド」と読む。マスターは二十代後半である。イケメンで優秀な大学を卒業したらしいが、専門職なんか就きたくないとバーを開いたそうだ。
「マスター。今までお世話になりやした。心ばかりのプレゼントです。お受け取り……お受け取り下さい!」
他の客はなんでこんなに泣いているのだろうかという目で見ていた。
「佐藤殿。こんなに有難うございます。でも、全て受け取るわけには参りません。半分だけ客の皆様に振る舞わせていただきましょう。残りは、奥様と娘様と一緒に召し上がって下さい。」
「マスター、こんなこと言われたら切なくなりますよ。分かりやした。最期の晩餐をこの魚で頂きます。」
「道中、ストレスや緊張による発汗などで汗臭くなりましょう。物々交換じゃ有りませんが、私からはAEAJ認定精油をプレゼントすることにします。香りには魔除けの効果があると言われています。難逃れですよ。気を付けて。」
「マスター、こんな高い物、頂くわけには参りませぬ。」
「良いんですよ。貴方は5年前のオープン以来、ずっと来て下さった。そして、色々なことを教えて下さった。その有り難みは何事にも代えがたいものです。」
「有難うございます。マスターから頂いた精油は、肌身離さずお守りとして使わせていただきます。本当に有難うございました。」彼は益々離別しがたい気持ちになった。
http://www.geocities.co.jp/Playtown-Yoyo/1736/t-081-2.html
こちらにある通り、常識に基づいていれば自由に使って良いとの事ですので投稿させて頂きます。
また、歌詞では無く音楽をモチーフにした作品は小説家になろうの二次創作の注意事項に入っておりませんので、設定も歌詞も使っていないものは除外されていると認識し、投稿させて頂きます。
運営側の命令には従い行動する所存です。
モチーフBGM
出典:上海アリス幻樂団(http://www16.big.or.jp/~zun/)様
『東方怪綺談~mystic square』より『不思議の国のアリス』