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彼女は
僕が読む本は純文学ばかりだった。好きな作家は日本人なら大江健三郎、外国人ならフォークナー、ドストエフスキー、ヘッセあたりだ。
エンターテイメントの小説はあまり読まない、それを読むなら漫画を読む、というのが僕のスタンスだった。僕がそんな感じだから、彼女の人格は当然、少しばかり暗いものになっている。
純文学が暗いというわけではないが、エンターテイメントの登場人物は底抜けに明るい。彼らはまるで何も考えていないように、明るい会話をする。
彼女の会話はいつも暗かった。僕の会話もいつも暗かった。彼女は僕であり、僕は彼女だ。
彼女はいつの日か僕から独立した。だから僕は小説を書かなくてはいけない。独立した彼女に対して責任をとらないといけない。