プロットという名の彼女の運命
『すべての世界』のプロットの結末は悲しいものだった。僕の最愛の女性である高橋唯に待っているのは過酷な運命だ。
僕はできれば彼女のそんな運命を書きたくなかった。彼女は普通に何不自由なく生きていくべき人間なのだ。なのになぜ、僕が彼女のそんな運命を書かなくてはいけないのか? 僕が一番この世で彼女を愛しているのに、だ!
しかし、僕が僕の心の中に彼女を作り出した時から、その物語を背負って彼女は生まれてきた。
その物語がないと彼女ではないし、彼女はその物語がないと存在できないのだ。
僕が『すべての世界』を書けないでいるのはそれが理由だった。
代わりに僕は『すべての世界』を書く前に彼女たちを登場させた別の小説を書くことにした。その小説には『春』『夏』『秋』『冬』とそれぞれ名づけた。つまり4つ小説を書いた。
それらの小説のプロットはなんてことのないシンプルなもので、特別な感動をもたらすものではなかった。
しかし、それらの小説を書いていく中で、彼女は僕の知らない一面をいくつも見せてくれた。その一面を知ることによって彼女は以前よりももっと魅力的な女性に映った。
「私は大丈夫、だから私の物語をあなたには書いてほしいの。私はどんな運命であろうと耐えてみせる」
彼女のそんな風に言う声が、僕には聞こえたような気がした。