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進化??

 眩しい光が部屋に差し込んでいた。

 東側に向いた窓がある関係で、地平線から昇った朝日が日の出と共に差し込んできている。


 上半身を起こすと、ベッドの足もとで犬……。ではなく『コボルト』が丸くなって寝ている。

 口を開けたまま寝ていて、舌がデロリと口からはみ出している。涎が染み込み、シーツに大きな染みを作っていた。


 顔は犬。と、大雑把な観察しかしていなかったが、こうして見ると洋犬の顔というより、日本犬の表情に近い印象を受ける。秋田犬というより、柴犬といったところか。体格が小柄なので、犬種ではないが豆柴に似ている印象を受ける。

 体の骨格は犬に近く、犬がそのまま二足歩行して物が持てる程に発達した手を持っているような感じだった。体色が黒系なのでまろ眉毛もあるし、耳もピンと立っている。尻尾も見事な曲線を描いたカーブをしており、健康状態は良好そうだ。

 歯は鋭く、確かに魔獣としての雰囲気もあるが、やはり寝顔はただの豆柴だった。


 彼は自身初の召喚獣であり、現段階では唯一の召喚獣。

 ペットというより、大切なパートナーとい表現の方が自分自身にとってしっくり来る。


 だらしなくあまりに無防備な表情で寝息を立てているので、悪戯心がくすぐられてしまう。黒く湿った鼻の穴を指で塞いて、反応を見てみる。犬は体温調整以外では基本的に口呼吸をしないと聞いた事があるが、彼は一応犬ではない。

 例外的に暑い時に口呼吸をしているが、あれは熱を発散するために意識的に行う呼吸であり、寝ている時などの無意識の時、口では呼吸出来ないらしい。

 鼻の穴を閉じられた『コボルト』は、フゴフゴと苦しそうにしている。

 

「くくくっ!」


 笑いをこらえながらの悪戯。

 虐待と言われれば、否定は出来ない。

 ただ、犬と似た鋭敏な感覚を持っている筈の魔獣が、こんなにだらしなく油断しているのが巨大な問題なのだ。

 という事にして、虐待ではなく躾としておく。


 自分が敵対するものであれば、襲われること十分に考えられる理由である訳だし。


「ふっ、ふごぉ!……あっ!?」


 大きく息を吸おうとして吸えずに、苦しさからか目が開いた。

 咄嗟に飛び退き、床に膝を付いて頭を垂れる。

 今の俊敏な仕草は動物っぽさもあるが、犬というより猫の宙返りの様に感じる鮮やかな身のこなしだった。

 ……流石に魔獣なのである。


「マ、マ、マスター。大変失礼致しました。マスターに遅れての目覚めと、そして、何よりマスターの寝床を汚してしまいました。た、大変申し訳ございません」


――もしもし?どちら様デスカか???何その優等生っぽい返答は??


 言葉が出てこない。

 昔からそうであったという程に流暢な言葉を発していますが、『コボルト』さんは言葉を話せないのではなかったっけ?あれ??


「えっと、君は自分が召喚した『コボルト』さんで良いんだよね?」


「はい!その通りです。マスター。それに、私などにさん付けなど不要です。呼び捨てで結構です」


 下を向いたまま、即答の『コボルト』さん。

 勢いに押され、「あ、そう。」と、返事をしてしまった。


「えぇ~っと……。なんか、調子狂うな。この感じ」


 自分はベッドに腰掛け、『コボルト』は膝を付き床に向かって話をしている。

 自分は偉くも何ともない訳で。この状態に違和感があり過ぎるのだ。


「まず、顔を上げて下さい。そして、ここに座って話をしましょう」


 自分が座るベッドの隣の場所を軽く手で叩き、「ここに座って」と、笑顔で促す。

 何か言いたそうな顔をしていたが、言われた通り自分の隣に腰を下ろす。


「それから、もう一つお願いが。話をする時は、相手の目を見て話をして下さいね。これは約束してもらいたい」


 驚いたような表情をする『コボルト』。返事がなかったので「聞こえてる?」と回答を催促すると、慌てて返事をしていた。


「りょ、了解致しました。マスター」


 望んだいた返事をして来た『コボルト』に対し、笑顔で返事とする。



 さてと、……どうしようか。



 何故で急にしかもスラスラと話が出来るようになったのか。

 昨夜の時点では召喚された魔獣としての『コボルト』でしか無く、こういった会話が出来るようには全く感じられなかった。

 命令通りの指示を実行するだけの操り人形のようにも思えていた。


 それが、今隣に座る『コボルト』は、そわそわして落ち着きがない。

 私に対して極度の緊張を示しており、目の焦点が定まらず、何やらモジモジしている。

 顔の表情も驚くほど豊かであり、しっかりとした感情と意志がうかがい知れる。

 動物と人間のどちらに近いか。と、問われれば、即答で人間に近いと回答出来る程に人間味溢れる仕草と表情をしていた。

 成長という言葉程度では言い表せない程の大きな変化。進化という言葉の方が適切なのかも知れない。




「では、一つ質問です。一晩で何故そんなにも進化をしたのか?教えてほしい」


 『コボルト』は、緊張の余り目を潤ませてながらも、しっかりと相手の目を見据えて話そうとしている。

 約束は守られている。素直で良い事だ。


「それは……。マスターがあんな事をしたからです……」


――何かやったっけ??あれ?


 『コボルト』は恥ずかしそうにしながら回答した。何をしたのか全く記憶にないのであるが。

 昨夜は故郷の話を延々と彼に聞いて貰った。それこそ取りとめのない事まで。

 そして会話の最後には……。


「あぁ。あれか!うん、思い出した。友達になってくれないか?って、言った……気がする。そして、フレンドって言葉をもじって「フレド」をいう名前を付けたんだった」




 何もしてなくはなかった。だが、あれが原因……、とすると、召喚した『コボルト』はネームドモンスターとなり、進化し感情豊かに話が出来るまでコミュニケーション能力が向上したって事になるのか?

 考えを口には出さず思案していただけではあるが、目の前の『コボルト』フレドは肯定し首を縦に振っている。


 相手の仕草や表情から相手の考えを予測するようなコミュニケーション能力は、かなりの知能を必要とするはずだ。昨日のフレドの様子からすれば、目覚ましい発達という事になる。

 人間相手と会話をするのと何ら変わりがない程のコミュニケーション能力となれば、彼の得た能力は非常に高いレベルのものなのかも知れない。


 この世界で話し相手や相談相手となれる力強い味方が出来た。

 この事実は間違いないだろう。

 

 この世界に一人で召喚されたという心細さに、彼『コボルト』の境遇を重ねていた自分。

 弱さに負けた事がきっかけではあるのだが、そんな自分に対し想像以上の進化という結果を持って見せてくれたのが彼なのだ。


「フレド!友達として、これからもヨロシク!」


 そう言い、右手を差し出す。

 フレドはその差し出された右手を両手で握り、頬ずりし始めた。


「こちらこそよろしくお願いします。マスター」


 激しく振られる尻尾で、ベッドのシーツはめちゃくちゃにされている。

 常識も含め、色々と教える事は多い……。

 やはり躾は必要。


 右手に涎をつけながら嬉しそうに頬ずりしているフレドを見つめ、そんな考えを巡らせていた。

 世界に一人だけという考えに至っていた自分に、心強いモフモフした仲間が出来た瞬間だった。

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