はじめての召喚★
イラストを描いて頂けましたので、掲載させて頂きます。
(「゜Д゜)「ガウガウ 様、ありがとうございます。
(「゜Д゜)「ガウガウ 様
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場所は変わり、ここはギルド長ガロンの部屋。初めての召喚でもあるので、失敗や暴走の可能性が少しでも低くできるようにと静かな場所で召喚を実施する事になった。
部屋の中心に自分が立ち、背後にガロンが立つ。
彼の存在感は背中越しでもすさまじく、やはり肉食動物のそれに近いのかも知れない。
そんなガロンより召喚術についてのレクチャーを受ける。
魔法の基礎知識も何もないのだが、召喚術自体は誰にでも使える簡単な術式なのだという。
「召喚術式は、高い領域での精神集中が必要になります。
貴殿の場合、余計な情報を遮断する意味でも目を閉じて発動する事が望ましいでしょう」
全くのゼロから、文字通り「手はこう」「足はここへ」などと、手取り足取りガロンから教えてもらう。
召喚術式は様々な形式のものが存在し、呼び出す対象を指定する事も出来るとの事。
今回は対象指定を実行せずに、自身の力量と釣り合う対象を呼び出す術式にしたと話すガロン。
一番簡単で安定しているとの説明があったが、魔法について何も知らない人間が実行可能なのか不安も感じていた。
「意識を集中し、心の中でこう唱えて下さい。
我は、まだ見ぬ汝を此処に召喚すると」
「……我は、まだ見ぬ汝を此処に召喚する」
心の中で呪文を唱えた瞬間、凄まじい疲労感が全身を襲う。
体から何かを無理矢理に抜かれるような感覚。痛みは無いが、嫌な感覚と共に冷や汗が出て来た。
疲労感の発生と共に、遠くで機械的な音声が聞こえている。その声に合わせ段階的に疲労感が増して行く。
「タイショウセンテイ、タイショウテンセイレジストシッパイ、ゼッタイメイレイウメコミカンリョウ、タイショウテンイケンゲンジッコウ」
手を伸ばした先の床に、青白い光を発する魔法陣が顕現。
一瞬の発光の後、その場所にはうずくまる影があった。
召喚されたのは、全身を茶色の体毛に覆われた人型の何か。
鼻は長く伸び犬に似た顔をしているが、二本足で直立している。
手の指は五指あり、人の手に似ている。
全体的に小柄な体躯で、足の形状は犬の足に似た形状である。
右手には、錆びたフライパン握り一応武装している。
召喚自体は完了した様子であった。
体の疲労感が酷く、気絶しそうな程の倦怠感を感じる。
よろめいてしまった所をガロンに支えられ、椅子に腰かけさせてもらう。
目の前には、一体の魔獣が膝を付き頭を垂れている。
自身が召喚した召喚獣なのであろう。その者は指示を待っているようにも感じた。
「顔を上げてくれないか」
そうお願いすると、スッとこちらに視線を向けた。
二足歩行は出来言葉も通じるが、顔は犬と変わらない。
魔獣と目を合わせるが、動物の瞳であり人のように強い意志というものを感じ取れない。
召喚された魔獣は、『ワーウルフ』のガロンや『ワーキャット』のミニア達とは根本から異なっている様子であった。
一つテストを実施してみる。
「言葉は理解出来るのか?」
これに対してコボルトは無反応。首を振っての反応もしない。
「頷いてもらえるか」
すると、コボルトは首を縦に振る。
言葉や文章として話を理解出来るレベルの意思を持っている訳ではなく、命令やお願いについてただ反応するだけである様子。
あいうえお。と、言え。そう命令すれば、そのように言葉を発する事は出来そうではある。
だが、会話としては難しいように感じる。
召喚された魔獣はいわば操り人形のように指示通り機能し、命令指示の理解は可能だが、自ら考えて行動する事は行えないのだと理解した。
「よろしく」
そう語りかけ右手を差し出したが、『コボルト』は反応しない。
そうだった。そして、追加で一つ命令を与える。
「この手を右手で握ってもらえないか」
こうしてようやく『コボルト』との握手が実現した。
掌にある肉球は思った以上に柔らかかった。
――あ、あれ??
突然、激しい目眩に襲われる。
視界は暗くなって行き、あらゆる感覚が鈍くなる。
立つ事はままならなくなり、何とか四つん這いで姿勢を確保していた。
それでも視界が黒く塗りつぶされていく事には変わらない。
そんな最中、床に手を付く左手に何かを握り込まされた感じがした。
視界は既に無く確かめる手段がないまま、意識は暗闇に飲み込まれて行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
頬を撫でる風を感じて目が覚めた。
自分は質素なベッドに寝かされ、辺りは暗く夜になっていた。
かなりの時間、眠り込んでいたようだった。
ベッドから窓の外に目を向ける。そとの街並みはまだ明かりが灯り、人々の声も聞こえている。
まだそれほど遅い時間ではないのかもしれない。
今夜の上空には、赤い月と緑の月が輝きをはなっている。
上半身を起こすと、ベッドの脇にすがりつくような姿勢の『コボルト』がいた。
ただ、その顔は上空に向けられ、月を眺めていた様子であった。
「月が好きなのか?」
答えはない。それは分かっていた。
質問の意味が理解出来ないようで、顔だけこちらに向ける。
「すまない、変な問いかけをしてしまった」
一度言葉を切り、改めて依頼をした。
「話を聞いてもらいたい。ここに座ってくれないか」
そう言いながら、自分の寝ていたベッド脇をかるく叩く。
当然『コボルト』からの返事はない。ただ、お願いの意味は理解した様子で、ベッドに腰掛けて顔をこちらに向けた。
夜はまだ長い。時間は十分にありそうだ。
こちらに来てから時間はまだ余り経過していないが、様々な事があった。
愚痴や文句を吐き出したい訳ではない。ただ誰かに聞いてもらいたかった。
自分の生まれた世界について。自分の生い立ち。呼ばれた時の状況。
こちらに来てからの事。何から話せば良いのか…。
「元いた世界には、桜という花があってさ年に一回、見事な花を咲かせるんだ」
どうでも良い話題から始まったが、『コボルト』は真剣に聞いていた。
「それで、こっちの世界とは違って魔法は存在していなくて…。その分科学技術は発展している世界なんだ。その技術で……」
夢中になって話している内にやはり寂しさもこみ上げて来る。
思い出せるだけ思い出して、それを口にしてしまう事で何かが吹っ切れるような気がしていた。
紐に通され首から下げられている指輪の宝石に、赤と緑の月明かりが反射していた。