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綾女の閃き

   

   綾女の(ひらめ)


 綾女は飛田達と共に寝室の片づけをしていた。そして、部屋が綺麗になったので日本人形を箱詰めする作業に移った。

「こうしてみると、かなりの量の人形がありますね」

 と、綾女は戦力にならない鍵丘主任を引きずりながら言った。

「そうなんじゃ。今夜のうちに終わるかどうか……」

 と、奥羽は心配そうに言った。

「まだ、九時半だ。四人でやれば何とか間に合う」

 と、赤石は人形を箱詰めしていった。慣れた手つきで次々と人形を仕分けていく。

「そうですね。がんばりましょう」

 と、飛田は初めての作業で戸惑いながらも作業を始める。だが、全然作業が進んでいない。初心者だから仕方がないが、それにしても遅すぎる。

「飛田さん。大丈夫ですか? 手が止まっていますよ」

 すかさず綾女が話しかける。

「何かわからないことでもありましたか」

「いえ、そうではないんです。少し明かりが欲しいなと……」

「明かり……ですか。確かに夜なので少し暗いと思いますが、これくらいの暗さなら見えるはずです」

 言い忘れていたが、寝室の灯りは壊れており(わず)かながらしか光っていない。家の外も真っ暗なので、寝室は薄暗くなってしまっている。

「その……私……鳥目なんです」

「鳥目?」

 綾女は鳥目という言葉を知らなかった。確かにあまり聞きなれない言葉である。

「鳥目とは……夜盲症の別名で……ビタミンA等の不足によって起こる目の病気……普通の人なら見える部屋の暗さでも……鳥目の人は全く見えない」

 と、鍵丘主任がむくりと起き上がって説明する。

「鍵丘さん!? 起きていたのですか!」

「……引きずられてた時から起きてた」

「す、すいません。気が付かなくて」

 と、綾女は慌てて謝る。

「大丈夫。それより飛田さん……鳥目っていうのは……本当?」

 と、鍵丘主任はここ一番で眠たい目をして言った。

「はい。鍵丘さんの言う通り、私は夜になると全く目が見えません。なので、今日の買い物も辺りが暗くなる前に済ませました」

「ということは――飛田さんは停電の時も全く目が見えなかったということですか?」

 と、綾女は片づけをする手を止めて言った。

「もちろんです。ただでさえ暗くなってきて遠くが見えないのに、停電が起きたせいで全然周りが見えませんでした。本当は電気が復旧するまで動きたくなかったのですが、大きな物音が気になったので壁伝いに寝室まで行きました」

 と、飛田は言った。

「懐中電灯とかはなかったのですか?」

「何とか手探りで見つけ出したんですけど、電池が切れてて……」

 と、飛田は申し訳なさそうに言った。すると後ろの方から、

「飛田さんや、こっちの人形を見てくれんかのう」

 と奥羽の声が聞こえた。

「どうしたんですか?」

 と、飛田は奥羽の方に駆け寄って言った。

「皆のおかげでだいたい箱詰め作業が終わったんじゃが……一つだけどちらかわからない人形があってな」

「わからないというのは……」

「この人形なんじゃが――」

 と、奥羽は一つの日本人形を飛田に見せた。青色の着物を着ていて、手元には小さな箱のようなものを持っている。一般的な人形と同じぐらいの大きさだ。

「ただの日本人形なのか、それとも何か仕掛けのあるからくり人形なのか、どちらか見分けがつかないのじゃよ」

「ネジとかついてないんですか?」

 と、飛田は試しに訊いてみる。

「それが、ネジとかゼンマイが付いとるわけでもなく、音で反応したりとかもせんのだ」

 と、奥羽は困り果てた表情をして言った。

「うーん、私も見たことのない作品ですね。どうしましょうか……」

「それはからくり人形だよ」

 と、赤石が言った。

「本当ですか?」

「この目で見たんだ。間違いないよ」

 と、赤石はその人形を『からくり人形』と書かれた箱の中に入れた。

「良かった……どうにか今日中に終わりましたね」

 と、飛田はホッと一息ついて言った。

「そうじゃな。後は夜を徹して人形を展示するだけじゃな」

「おう。そしたら、こっちの箱は全部トラックに積んどくから、後でその箱も持って来てくれよ」

 と、赤石は『普通の人形』と書かれた段ボールを二つ担いで寝室から出て行った。

「奥羽さんは飛田さんが鳥目だという事を知っていましたか?」

 唐突に綾女が奥羽に質問した。

「知っておったぞ。前に飛田さんをわしの博物館でやってる『世界の洞窟展』に招待したら、鳥目だからという理由で断られてしまったんじゃよ」

 と、奥羽は笑って言った。

「……奥羽さん。赤石さんは何であの人形の事を知っていたのでしょうか」

「さぁ、どっかで見たんじゃろ」

「でも昨日はなかったんですよね? あの人形」

「だからわしも飛田さんもわからなかったんじゃよ。恐らく木曽川の最新作じゃろ」

 と、奥羽が言った。その時、突然寝室の灯りが消えた。

「また停電ですか!?」

 と、飛田が慌てる。

「ごめん……電灯の紐に手が引っ掛かった……」

 鍵丘主任の右腕には電灯の紐が絡まっていた。鍵丘主任が電気を再びつけようとする。しかし、

「待って下さい!」

 綾女がそれを制止した。

「……どうしたの?」

「からくり人形の箱の中で何か光ったような――」

 と、綾女は段ボールの中からさっきのからくり人形を引っ張り出した。

「やっぱりこの人形でしたか」

 綾女はその人形を見つめながら言った。

「そうか……わかったぞい! その人形は暗くなると仕掛けが作動するんじゃ!」

「その通りです。そして、この人形が持っているのは――」

 と、綾女は寝室から飛び出した。

「どうしたんじゃ? いきなり走り出して……」

「に、人形持っていっちゃいましたよ」

 奥羽と飛田はア然とした表情のまま立ち尽くす。鍵丘主任が電灯の紐を引っ張って、

「犯人が……判ったの……かも」

 と言った。美女と野獣の答えは同じ。犯人は――

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