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京の勘違い

   

   京の勘違い


 京が意気揚々と茶の間に戻ると、例の三人が深刻そうに話し合っていた。

「なんにせよ。明日までに残りの人形を博物館に運び込まなきゃならん」

「でも奥羽の旦那。木曽川さんの最後の作品はまだ完成してないんじゃないか?」

「すでに完成している作品は運んだほうがよいかと……」

 どうやら三人は明日から開かれる日本人形展のことについて話しているようだ。

「そんなに急がないと間に合わないのか?」

 と、京は三人に向かって言った。

「そうなんじゃ。もう夜の九時を回ってしまっておる。博物館は翌日の朝十時に開館じゃから、あまり時間が無くてのう」

 と、奥羽が答えた。すると、赤石が京に、

「寝室にある人形を運び出させてくれないか。現場検証は終わったんだろ?」

 と頼んできた。

「構わないぜ。博物館の展示を遅らせるのも良くないしな」

 と、京は笑顔で言った。

「ありがとうございます! 皆さん、早速寝室に行きましょう」

 と、飛田さんは軽くお辞儀をして寝室へと歩いて行った。続けて赤石と奥羽も茶の間から出て行った。そして、岩井と石田も連れだって茶の間を出て行こうとする。

「ちょっと待ってくれ」

 と、京は宅配業者のタヌキとキツネを呼びとめた。容疑者が誰もいない今が動機について関係者に訊くチャンスなのである。

「なんスか」

「訊き足りないことでもありましたか」

 と、二人は同時に振り向いた。

「ここだけの話……あの三人が木曽川さんのことを恨んでたって話とかない?」

 と、京は声のトーンを少し落として(たず)ねた。

「そうっスね。ぶっちゃけみんな恨んでたんじゃないっスか」

「それマジ?」

 京は驚いた。だが、京が犯人だと思っている飛田さんにも殺害の動機があるなら好都合だ。

「マジっス。赤石先輩なんて前の仕事先、木曽川さんが原因でクビになったんスから。恨んで当然っスよ」

 と、石田は平然とした顔で言った。すぐさま岩井が、

「赤石先輩は前の宅配業者に勤めている時、木曽川さんの人形を運ぶことになったらしいんですよ。そしたら木曽川さんが「赤石っていう乱暴な配達員のせいで私の人形が壊れた!」って文句を言ってきたんですよ。運ぶ前から壊れてたのに……」

 と珍しく感情的になって説明した。

「それで赤石先輩は多額の賠償金を払うことになって、クビになったんス」

 と、石田は言った。

「酷い話だな。木曽川はお金が欲しかっただけじゃないか」

 と、京は適当に合いの手を入れた。速く飛田の話が聞きたいようだ。

「飛田さんもかなり恨んでたと思うっス。相当こき使われてたみたいっスよ」

「赤石先輩から聞いた話だと、暴力を振るわれてたとか――」

「ちょっと待って。あの三人って前から知り合いだったのか?」

 と、京は話を中断させて訊いた。

「そうっスね……奥羽さんが日本人形展を企画した三ヶ月前に、赤石先輩が突然木曽川さんの専属宅配人になったっスから、その時からの付き合いだと思うっスよ」

「僕達も度々赤石先輩と一緒に木曽川さんの家に配達に行ってたんです。その時に毎回見てたんですよ。飛田さんが木曽川さんに「お前は何て無能な家政婦なんだ!」って思いっきり怒鳴られてるのを……」

 京は「やっぱりね」と心の中で呟いた。飛田さんが木曽川さんを殺す動機は十分にあった。しかし、奥羽さんの動機についても気になる。

「奥羽さんの動機については何か知ってる?」

 と、京は言った。

「あの人は博物館の館長で木曽川さんとは昔からの仲らしいですから……三人の中では一番関係が深かったと思います」

「でも最近、あの二人しょっちゅうもめてたっスよ。この前なんて奥羽さんが「わしの人形を勝手に売るな!」とかなんとか言ってたっス」

 と、二人は知っていることを話した。

「木曽川さんが奥羽さんの日本人形を何度か売り飛ばしてたみたいですね。そりゃあ誰だって恨みますよ。自分の大切な物を勝手に売られたんですから」

 と、岩井が補足説明をする。

「つまり――木曽川直人は金の亡者で、どうしようもない自己中親父だったってわけね」

 と、京は軽くため息をついて言った。殺されて当然……とまでは言い過ぎだが、天罰が下ったと言っても過言ではないだろう。

「まぁそんな感じっスね」

「三人に……というより、誰にでも恨まれるタイプの人だったと思います」

 と、二人は木曽川が性格の悪い奴だということをあっさり認めた。

「じゃあ、あんた達が犯人ってことでいい?」

 と、京は半ば本気で言った。

「ちょっと待って下さいよ! 嫌な人だなとは思ってましたがさすがに殺意までは――」

「そうっスよ! 第一、僕らは停電の時二人で作業してたって言ったじゃないっスか!」

 タヌキとキツネはまるで捕獲されるかのように怯えていた。

「冗談だよ。あんた達にはちゃんとしたアリバイが――」

 そこで京は一瞬止まった。十秒経ってから京はこう言った。

「キツ――じゃなかった。石田くん、さっき何て言った?」

「まぁそんな感じっスね」

「戻り過ぎ! その次!」

「すいません! えーっと……第一、僕らは停電の時二人で作業してたって言ったじゃないっスか! だったっスか?」

「それだよそれ! さっき話した時は三人って言ってたのにどうして今は二人になってるんだよ!」

 と、京は問い詰めるように言った。石田が目を丸くして驚いている。

「石田の言う通り、箱詰め作業をしたのは二人です。赤石先輩は少し離れたところで、僕らに指示を出しながら作業してたと思います」

 と、岩井が石田を擁護する。

「停電中にあんた達は赤石さんを見た?」

 と、京は一番重要な質問を二人に投げかけた。

「声しか聞いてないです」

「声しか聞いてないっスよ」

 と、二人は声を揃えて言った。ここに来て、停電中の赤石さんのアリバイが崩れたのである。

「でも、声が近かったので僕らのすぐ側にいたと思いますよ」

 と、岩井が付け加えた。

「そうとは限らない。日本家屋っていうのは壁が少ないから、真っ暗になっちまうと距離感がつかめず、どこで喋ってるのか判らなくなっちゃうんだよ」

 と、京は早口で言った。年中綾女の推理話を聞いているおかげで謎解きの知識が自然と頭の中に入り込んでいた。

「ということは……停電の時、赤石先輩は違う部屋にいたかもしれないって事ですか?」

「その可能性は高いな。確認の為にもう一度、飛田さんの悲鳴が聞こえた時の状況を教えてくれないか?」

 と、京は考え事をする仕草をしながら言った。

「ドスンって音が聞こえて、何だろうなって岩井と話してたら悲鳴が聞こえたんっス」

「それで様子を見に行こうとしたら廊下で赤石先輩に会ったので、一緒に寝室に行きました」

 京は自分が大きな勘違いをしていたことに気がついた。


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