悲鳴
悲鳴
「からくり人形?」
「今度、博物館で特別展示されるんです。是非、一緒に見に行きましょう」
二人は帰路につきながら取りとめのない会話をしていた。学校帰りの坂道。月明かりだけが畑道を照らし、左右には田畑と背の低い林が広がっている。
「博物館とか苦手だなぁ」
と、京は頭の後ろで手を組む。すっかり暗くなった空を見上げて呟いた。
「人形ねぇ。小さい頃はおままごとより鬼ごっこだったし……」
すると、綾女がきょとんとした顔をして言った。
「京ちゃんが人形遊びをしていたなんて考えていませんよ。からくり人形の事を一から丁寧に教えるつもりで誘ったんです。そしたら、苦手な歴史も得意になるかと思って」
「博物館の中で、アタシが酸欠になりそうな顔で歩いてる姿を見たいだけだろ?」
「その通り。さすが私の親友です」
綾女の毒舌は学校内でも有名だ。しかも、意識していない所がまたその毒舌に磨きを掛けている。密やかに囁かれている通り名は劇薬美女。対して、京は常識人であることから端麗な野獣という通り名がつけられている。
「行くべきです」
「気が向いたら」
「行きましょう」
「時間があったら」
「行きますよね?」
「……わかったよ。でも、歴史の勉強だけは勘弁してくれ」
はぁ、結局こうなる。純粋無垢な綾女には逆らえないのだ。
「嬉しい! では、来週の日曜日に――」
一筋の悲鳴が二人の会話を切り裂いた。近くに民家は少ない。声の発信源はすぐにわかった。
「あちらの家です!」
と、綾女が走り出す。京もそれに続く。
「待てって! 危ないだろ!」
京は内心驚いていた。綾女は着物姿でも速かった。
「どうかされましたか?」
と、綾女は古ぼけた民家の襖に向かって言った。襖が半分ほど開く。
「あ、あ、あの……! 私、この家の家政婦で、その……!」
部屋の中から青ざめた顔をした女性が這い出てくる。涙目になっている瞳は助けを求めていた。
「お気を確かに」
と、綾女は縁側まで素早く近づいて家政婦の女性を支える。
「何があったんですか?」
「大変なんです! 木瀬川先生が!」
木瀬川? どこかで聞いたことがある名前だ。ここで京が合流する。
「綾女!」
と、京は息を切らしながら言った。
「京ちゃん! この方が悲鳴を発したようです」
「どうした?」
と、京が屋敷の庭を横切って縁側に上がる。
「部屋の中を見て下さい……!」
「ここだな。開けるぞ!」
と、京はすぐ側にある和室の襖を開け放った。
「――これは」
そこには、小柄だががっしりとした体格の男性が、日本人形に囲まれて息絶えていた。
「首吊りかよ……」
と、京は和室を見渡して言った。
「ですが、自殺ではないようです」
「え?」
「いえ、ただの独り言です。京ちゃん、警察に連絡して下さい。救急へもお願いします」
「お、おう。わかった」
綾女は携帯電話を持っていない。京はポケットから携帯電話を取り出して、110とタップした。