美女と野獣
お待たせしました。新シリーズです。美女と野獣シリーズは幽霊探偵シリーズより本格推理だと思います。犯行時刻を照らし合わせてみたり、アリバイを崩してみたり……その分アクション成分は控え目です。さらに、このシリーズは細かい章段ごとにわかれているのでちょっとずつ読めます。スマホ版で読める方は移動時間に少しずつ読み進めていくのがおすすめです。
美女と野獣
『からくり人形界の巨匠、木瀬川 直人の日本人形展―近日公開!』
廊下の掲示板の前に立つ一人の女子生徒。その名を宇治川 綾女という。
「事実は小説より奇なり……私の日常もそうなればよろしいのに」
と、綾女は物憂げに呟いた。道行く人が振り返る。彼女が絶世の美人だからか、否、彼女が校内で着物を着ているからか。はたまた、そのどちらもなのか。ただ一つ、彼女がこの学校の有名人だということは事実と言えよう。
彼女は楽都島流謳高校に通う高校三年生。才色兼備な大和撫子で、誰もが憧れる学園の花。そして、たとえ授業中であっても着ている着物を手放さないという不思議な特徴を持った茶道部の部長である。
ここまではいい。ここから先が問題なのだ。
「複雑で……怪奇で……摩訶不思議な謎が私のことを呼んでいる気がするのです」
と、綾女は掲示板に向かって言った。そう、綾女は極度のミステリーマニアなのである。
シャーロック・ホームズ、ネロ・ウルフ、エルキュール・ポアロ、コーデリア・グロウ――読破した推理小説は数知れず。謎を見つけては推理する。それが綾女の日課だった。しかし、最近謎が足りない。
「奇怪な 数多の謎が 待っている」
ついに、禁断症状が出始めたようだ。今日もまた一つ、ミステリー俳句が完成してしまった。そんな綾女のもとに一人の男子生徒―失礼。一人の女子生徒が近づいてくる。どうやら、綾女の同級生のようだ。
「綾女、もう部活は終わったのか?」
「六時を過ぎていますからね。京ちゃんは何故この時間まで学校に?」
「日本史の補習。社会の鈴木に呼び出されちゃってさ」
と、京は口の中で飴玉を転がした。彼――いや、彼女は綾女の親友、獣道 京。鋭い目つきにスラッと長い背丈。雑誌のモデルをやっていても不思議ではない美少女だ。しかし、可愛いよりもカッコイイという言葉の方が断然似合っている。
彼女は楽都島流謳高校の女番長をやっている。もちろん、自ら立候補したわけではないが、その外見と言動から自然と皆から一目置かれる存在になってしまった。事実、喧嘩も相当強いので京自身も否定はしていない。
「成績不良だったのですか?」
「いや、出席日数が足りないって言われた」
「授業をサボってばかりいるからです」
「悪い悪い。鈴木にも同じこと言われたよ」
と、京は苦笑して言った。
「あー疲れた。帰ろうぜ」
「ええ」
と、二人は下駄箱で靴を履き替えて、学校を後にした。
二人は自他共に認める親友同士。友達偏差値は優に80を超えていることだろう。そんな二人のことを残念美人コンビ、変人カップルなどと周りの人は呼んでいる。だが、一番世の中に広まっているあだ名は別にある。人は皆、口を揃えてこう言うのだ。美女と野獣、と。