表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

第五話 悔恨

 忠義にあつい武将、周泰は命を懸けて主君を守り続ける。その論功行賞に一部の武将からは不満が出てくるが…。中国の三国時代を舞台に、熱き男達の物語が紡がれる!


 本小説は、三国志を題材としたオンラインゲームをネタにした筆者のブログ「今日も二泉に月は映えて」にかつて掲載したものを再編集したものです。

 しゅうは涼やかな顔を浮かべていた。

「なに、今日は無礼講ですから、遠慮なくどうぞ。」


 しゅぜんしゅうに視線を移した。


「ならば申し上げます。りんにて敗走のそうそう軍を待ち構えていたしゅうたい殿は、ぼうすいの陣形にて突撃したと聞いております。しかしながら、あの局面ではかくよくの陣形にてそうそう軍を完全に包囲し、退路を断ち、完全にせんめつすべきだったのではありませぬか?なまじ退路を残したがゆえそうそうに逃げられたのではありませぬか!?」


 しゅうさわやかな笑みを浮かべた。


「なるほど。貴殿の言うとおり、せきへきを背にしたそうそう軍を包囲することもできたでしょう。では、反対にお尋ねしますが、燃え盛る船団を背に、自軍が完全に包囲され、退路を断たれたとき、しゅぜん殿、あなたならどうなされますか?」


 しゅぜんは当然のことを聞くな、と言わんばかりに目を吊り上げた。


「論ずるまでもない。退路が無くば、最後の一兵になるまで敵を切り続け、ぎょくさいいたす。」


 しゅうは満足したような顔を浮かべた。


「そうでしょうな。さすがは忠義に厚いしゅぜん殿。わかりませぬか?」

「何がですか!?」

しゅうたい殿がもし、かくよくの陣形にてそうそう軍を完全に包囲すれば、そうそう軍は退路を失い、一か八かの突撃に転ずる恐れがあったのですよ。聞くところによると、しゅうたい殿はぼうすいの陣形にて四方八方から突撃したとのこと。なまじ退路が見えるがゆえそうそう軍は我先に逃げようと戦意を喪失したままでした。加えてそうそう軍は、退路が右に左に変わるように見えたでしょうから、ひとたまりもなかったのですよ。」

「あ…。」

「あの乱戦、数十万の大軍の中からそうそうを見つけ出すのはごく困難。逃がしたのは残念ですが、それよりも最小の犠牲で最大の功績をあげたしゅうたい殿はしょうさんに値するでしょう。」


 おぉー…とばくりょうたちから驚きとさんたんの声があがった。


「な、ならば、その後のそうじん軍への攻撃は!?状況も把握せずに戦うなど、早急すぎたのではありませんか!?結果的には勝ったとはいえ…。」


 じょせいが食い下がった。


「それについては、わしが答えようかの?」


 ていしゅうたいがいかに的確に判断してそうじん軍と戦ったかを説明した。


「むむう…ならば!さんえつりんの部族とのいくさのときは!?そんけん様を危険な目にあわせ、しゅうたい殿自身は気絶するというお粗末さだったではありませぬか!」


 じょせいの表情に少し焦りの色が見え始めた。


 不意に、黙していたそんけんが立ち上がった。


 む、無礼講とはいえ、言い過ぎたか…

 そんけんが動いたことで、じょせいしゅぜんは焦り、周囲に緊張が走った。


じょせいしゅぜんよ。」

「は、ははっ!」


さんえつとの合戦については、私から話しておかねばならぬことがある。」

「殿…!」


 しゅうたいは言葉をさえぎろうとした。しかし、しゅうたいあいに満ちた目で見ながらそんけんが言った。


「よいのだ、しゅうたい。今こそ話そうぞ。」


 一呼吸の間の後、そんけんは語りだした。


「皆も覚えておろう?我が身がきゅうおちいり、じょせいの加勢の後、さんえつを壊滅させたあのいくさを…。」

「あの頃、我は駆け出しの君主であった。若さゆえ、さんえつとのいくさでは功を焦り、敵兵の少なさをあなどり、大半の味方を置き去りにして突撃した。あれはしゅうたいせきではない。我がしゅうたいの制止も聞かず、突撃したのだ。」


 ばくりょうたちはざわめいた。しゅうたいはこの一件について、非は自分にあると言っていた。多くの者は「そんけん様が窮地に陥ったのは、しゅうたいの責任だ」と思っていたのだ。


「結果、さんえつの土俵である森に誘い込まれ、罠に落ち、手勢を大半失った。死を覚悟したとき、助けてくれたのがしゅうたいであった。」


 そんけんは、また一呼吸整えた。


「大切な兵を失いぼうぜんとする我に、しゅうたいは提案した。今回の一件は、自分が責を負うと…。君主になりたての我は敗北により皆の信頼を失うことを恐れた。また、先代の君主である兄、そんさくの偉大さに負けたくないというのもあった。そこで、我は命の恩人であるしゅうたいに罪を着せるというぼうきょに出た…。なんとも愚かなことよ。」


 そんけんの目に悲しい色が浮かんだ。

 しゅうたいは目を閉じたまま黙っていた。


「のぅ、しゅうたい。上衣を脱いではくれまいか?」

ぎょ。」


 しゅうたいが上衣を脱ぐと、見事にたんれんされたはがねのような筋肉があらわれた。

 その鍛え上げられた筋肉の美しさにかんたんの声があがったが、すぐに皆、声をつまらせた。

 しゅうたいの体は、そこかしこに切り傷や矢傷があり、ところによっては肉がえぐられ、目を覆いたくなるような傷のあともあった。


 そんけんしゅうたいに近づいた。


「この矢傷…。そしてこことこれも…。あのさんえつとのいくさのとき、我をかばって受けた十二の矢傷だ。並の者であれば即死であったろう。しかし、しゅうたいじょせいが加勢に駆けつけるまで、これだけの矢を受けていながら、我を守ろうと奮戦したのだ。」


 そんけんしゅうたいの体に刻まれた傷の一つ一つを指し、それらが全て自分をかばうために負った傷だと説明した。


「深い傷もある。だが、致命傷にならずにすんだのは、しゅうたいとこのはがねの筋肉によるものだったのであろう。我はこの傷の数だけしゅうたいに命を助けられたのだ。」

しゅうたいよ、我が今日、生きていられるのは、そなたのおかげだ。ありがとうの一言では言い尽くせぬほどだ。」


 そう言ったそんけんほほを涙がつたった。


「そんな、もったいないお言葉…。」


 ばくりょうたちはみな、まばゆいばかりの主従関係にもらい泣きした。


 じょせいしゅぜんがくぜんとした。

 なんという忠義、なんという献身、なんという覚悟であろうか。

 どれをとっても目の前の恩賞だけにしかこだわっていなかった自分とはしょうが違いすぎる。


しゅうたい殿!!」


 じょせいしゅぜんが叫んだ。


「いままでの非礼、なんとお詫びしてよいやら…。あなたこそ、まことに忠君にございます!私は、自分が恥ずかしくてなりませぬ!」


 そう言うと二人はそんけんのほうに体を向けた。


「殿、私のような器の小さい者では、到底、しゅうたい殿の補佐はつとまりませぬ。どうか、どうか、辞退させてください!」


 そんけんは涙をぬぐい、微笑みながら言った。


「それは、困ったのう、しゅうたいじゅしゅとくにんするにあたって、同行の将はじょせいしゅぜんがよいと言ったのは、ほかならぬしゅうたいなのだ。」


 これには、じょせいしゅぜんをはじめ、ばくりょうたちも驚いた。


「自分は完璧な人間ではない。時には誤ったことをするかもしれない。そのようなとき、上官でも間違いは指摘し、国を思って行動できるじょせいしゅぜんのような忠義に厚い武将がよいとな。」


 この言葉はじょせいしゅぜんの胸を打つには十分すぎた。

 あっこうぞうごんを繰り返してきたのに、まさか忠臣と言われるとは思わなかった。


「われら両名、これ以上望みようも無い上官に巡り合えました。しゅうたい殿、よろしく、よろしくお願いいたします…。」


 最後のほうは言葉にならなかった。

 じょせいしゅぜんの二人は人目もはばからず涙した。男泣きであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ