表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第二話 禍根

 本小説は、三国時代に実在したと言われている武将やそのエピソードをもとに書き起こしたフィクションです。

 人物の性格設定なども含めて、史実とは全く異なりますので、あらかじめご了承ください。

 しゅうたいは白いもやに包まれたような感覚を覚えた。

 鳥のさえずりが聞こえる。


 ここは…?


 目を閉じたまま、周囲の気配を伺う。

 どうやら布団で寝ているようだ。


 ゆっくりと目を開けてみる。

 見慣れた寝室の天井だ。


「そうか、あのいくさで、矢を受けて、気を失って…それから…!?!?」

 しゅうたいはガバッと上体を起こした。


「きゃ!!」

 あまりにも突然のことだったので、じゅうが驚いた。

「しゅ、しゅうたい様!?!?…しゅうたい様!!!!!」

 じゅうは驚きとともに笑顔と、そして涙を浮かべた。

しょうらん、私はどれくらい寝ていた?」

「は、はい、十日ほど…」

「なに!?」

 あのいくさからそんなに経過していたとは、しゅうたいがくぜんとした。


いくさは…殿はご無事か!?」

「は、はい。怪我ひとつなくご帰還されたと聞いております。」

「そうか…」

 良かった。

 殿を守ったのは事実…夢ではなかったようだ。


「私、将軍方にお伝えしてきますね。しゅうたい様が目を覚まされたって。」

「それには及ばぬ。自らおもむこう。」

「そんな、まだ寝てませんと…」

 そう言いながら、しょうらんは諦めていた。昔から、これと決めたら言うことを聞く人ではない。

 身支度を手伝い、馬を用意した。


 宮殿では軍議が行われていた。しゅうたいが来た知らせが入ると、軍議は一時中断となった。


 えっけんの間で、しゅうたいひざまずいた。


「殿、十日も執務をとどこおらせました。申し訳ございませぬ。」

「よい。しゅうたいよ、そなたは深手を負ったのだ。仕方あるまい。」

 殿と呼ばれた者は続けて言った。

たびいくさ、まことに大儀であった。このそんけん、礼を言わねば。…そうじゃ、そなたのほうしょうがまだであった。何が良いかのぅ…。」

 そんけんは右手であごひげをさすった。


「いえ、私はほうしょうをいただけるようなことは、何も…。多くの味方を犠牲にも…。」

「彼らが命を失った責は、全てこのそんけんにある。そなたのせいではない。…そうじゃな、そなたをしゅんこくの県長に任命しようぞ。」

「…過分なほうしょうきょうえつごく。」


 しゅうたいは一礼して、その場を去った。


 多くのばくりょうが、しゅうたいの復帰にあんの表情を浮かべた。


 その中で、眼光鋭く、口を真一文字に結んだまま、微動だにしない人物がいた。


 しゅんこくの県長だと…?


 そんけんしゅうたいきゅうを救った武将、じょせいである。


 その日の夕刻、じょせいは同僚のしゅぜんを招き、酒をみ交わしていた。

「あいつが、県長だとよ…。」

「おい、じょせいしゅうたい“様”だろ?年長者に、あいつだなんて…」

「ふん、構うもんか。ここには、君と俺しかおらん。しゅぜん、君もおかしいと思わんか?」

 そう言ってじょせいさかずきを空にした。


ほうしょうのことか?」

 さかずきしゅぜんが酒を注ぐ。

「ああ。たびいくささんえつりんの部族を壊滅させたのは、俺と君の軍だ。そして俺はさいそう県長、君はよう県長になったわけだが…」

 じょせいさかずきを一気に飲み干し、続けて言った。


「なぜ、あいつもほうしょうが県長なんだ?あいつが何をしたってんだ?殿を危険な目に合わせ、あげく自分は怪我して寝込んでただけじゃないか!?」

「ふむ。確かに。何ゆえ殿がお味方を置いて前線にいかれたのか、何か事情があったのかと、しゅうたい様にさいを聞いても、相変わらずの無口っぷり。自分が悪い、自分の責任だって言うだけでな。」

 しゅぜんも杯を空けた。


「軍務の長期欠席も、すまんの一言だけさ。」

 じょせいしゅぜんの杯に酒を注いだ。


「だいたい、殿の護衛が気絶するって、どうなんかねぇ?」

「実は武芸はたいしたことないのかもな。ははっ。」


 じょせいしゅぜんが酒を酌み交わしていた頃、しゅうたいの家には客人が訪れていた。


「よぉ、しゅうたい!お邪魔するぜっ!」


 しょうらんが戸口に出迎えた。

「あ、かんねい様!」

「おぅ、しょうらんちゃん、しゅうたいのダンナ、いるかい?」

 しょうらんは、寝ているしゅうたいを起こすべきか、迷った。

「あ、えと、その、ご主人様、帰ってくるなり床に入られまして、その…。」

「んー、そうかい?仕方ねぇなぁ。」

 そう言って、かんねいは包みをしょうらんに渡した。


「これ、渡しておいてくれや。いいさかなが手に入ったんでな。快気祝いに一杯やろうかと思ったんだが。それと…。」

 そう言ってかんねいしょうらんの耳元でささやいた。

「どーも、今回のいくさで、おたくのダンナ、ちっとばっかし反感買ってるようなんでな…。」

「え!?」

 しょうらんが思わず大声を出した。


「しー!!しょうらんちゃん、声デカイって。」

「あっ…」

 しょうらんは赤面した。


しょうらん、客人か?」

 平服のしゅうたいが戸口に出てきた。


「…かんねい殿か。」

 眉ひとつ動かさず、しゅうたいが言った。


「して、用件は?」

しょうらんちゃんに、しゅうのダンナからのお土産渡してるから、ま、後で食ってくれや。」

しゅう様から?」

 しゅうたいいぶかしがった。


「おめぇさんが、出てこなきゃ、しょうらんちゃんとそのさかなで、一杯やるとこだったんだがな」

 そう言ってかんねいは「にっ」と笑った。


「もぅ、かんねい様ったらぁ…」

「じゃぁな。」

 かんねいは腰につけた鈴を鳴らしながら立ち去っていった。


 しゅうたいたちも戸口を離れ、館に戻った。

しゅうたい様、実は…」

 しょうらんしゅうの伝言をしゅうたいに伝えた。 


「なるほどな。それでかんねい殿が…。しかし…私は他人にとやかく思われようが、殿と呉のために戦うのみ。私にはこの生き方しかできんよ。」

 しゅうたいしょうらんに語るでもなく、独り言のようにつぶやいた。


 その後も、しゅうたいそんけんの側近・護衛として各地を転戦した。

 時には負傷し、軍務に支障も出たが、その献身ぶりをそんけんは高く評価し、着実に地位を上げていった。


 もっとも、側近という立場ゆえ、最前線で派手に活躍するわけでもなく、たる将を討ったわけでもない。じょせいしゅぜんのように、前線に立つ武将たちの中には、しゅうたいの「ぶん」なほうしょうに不満を持つ者もいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ