そんなメガネください
てかあいつらが気に入ったのは俺じゃねーんだよ。分かるかよこの辛さ。俺の存在意義なんてねぇーんだよ。誰だっていいんだよ。俺なんて個性とか存在とかよ、あの村のやつらにとっちゃあってもなくても同じなんだよ。いてもいなくても同じなんだ。
だから俺たち歌ってたろ、どんなに遠く離れても通じ合えるってさ。すげー自分勝手だって分かってるんだ、けど、俺お前らとまたやり直したいんだ。どーしても。」
村松は泣きながら二人を見ている。そして涙は口ひげの脇を流れ落ちたり、汚れた服の袖に拭われたりしている。
二人は酔っ払ったとき以外で初めて村松が泣いているのを見た。但しマホーンと藤森は酔っ払っている。
そしてマホーンは藤森に目配せをしてから、答えた。
「もう、何処にも行かないって約束してくれますか?
だって俺たちマジでライブ前とか超迷惑くらってたんすよ。練習しないし。ってかボーカルが歌詞を覚えないってありえないんすけどね。」
「あん時はほんとに悪かった。俺はマジたこ焼きってかお前らと一緒にいたいんだ。それ以外何の理由もなくってさ、バンドのデビューとか別にいいんだよ俺にとっては。お前らがそばに居てくれれば。」
マホーンは言った。
「やっぱ村松さんカッコいいっすよ。良く言えたっすよね、そんな自分勝手な謝罪。俺は許すとか許さないとかじゃなくて、別にいいですよ。俺やっぱ村松さんのこと好きだから俺も一緒に何かやりたいってか、仕事とかバンドとか共通の接点とかなくてもこの関係が続くって信じてるし、信じたいです。
ほら、うちらの曲にあったでしょ、僕はステージの上から一つの命張り上げて、歌い続けることしか出来ない、どうかあなたに見て欲しいってさ。
俺は村松さんがどうであろうと、どう思っていようと、俺は村松さんのファンだから、出来る限りのことがしたいなって・・・てか藤森も何か言えよ。」
何を言っているのか恥ずかしくなったのと、何を言っているのか分からなくなって無理やり藤森に話を振った。
「マホーンさん、やっぱ意味わかんないあんたの言うこと。だからもういいよ。
てかふざけんなだよほんと。俺たち来週ライブなんすけど。」
「ライブ?あ゛ー取材?」マホーンは思い出した。
藤森が言った。
「俺たちの再結成ライブっすね、ステージがほら、待ってるぞお前らバカ共」
その後村松はマホーンと藤森を引き連れて英恵に謝りに言った。当然マホーンと藤森は家の前まで着いていっただけであるが・・・。
「お前はほんとロクデナシの馬鹿野郎だ。」
この一言の罵倒で一応は決着したらしい。そもそもそういう人だと思われていたことと、余りにあり得ないことだけにこれ以上は言われなかったとのことだ。
但し村松談ではあるが・・・。




