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憶測から確信へ

帰りの駅までの道で、藤森が口を開いた。

「村松さ、母親に手紙出すほど頑張ってたんだよね。」

「そうだな、確かに頑張ってたよ。」

「けど、ひょっとしてあれじゃないんすか、リンリンが隣にいたから。」


「あ゛っ・・・。」


マホーンははっとした。中国在住時に多くの日本人が、中国人ホステスにあれこれ貢いでいたことを思い出した。アジアの女性は日本人男性にとって、その素朴さや貧しさによる苦労など、とてもいとおしく感じさせる何かを持っていることを思い出した。そしてこないだの会議でどれだけ儲かるかを話した後、二人で手をつないで消えていったことが繋がった。



しばらくして、「あ゛っ・・・。」

今度は藤森がはっとした。

「マホーンさんどうしよう、テレビの取材。」

「俺ちょっとなら焼けますけど。」と、藤森は言うも、マホーンは返す言葉がすぐには見つからなかった。




マホーンは店から村松の家に向かう電車の中で、本当にトシカズが失踪した場合、たこ焼き屋は閉店でも良いと考えていた。


というのもゼロから始めた店だが、今は行列が出来るほど儲かる状況になっているからだ。

すなわちもともとバンドでビューで叶わなかったトシカズと一緒に夢を実現するということが目的で始めたたこ焼き屋であって、今はまさに夢が実現したといえる状況だ。

さらには自分がオープン前に出資したお金も返してもらっているというのもある。そして副業から脱退することで、今の会社に事実がバレて解雇されるリスクを無くし、少しスッキリしたいとも考えていた。

確かに年間1000万円の副収入は惜しいが、それ以上にマホーンには将来の絶対がない自営業を続けるリスクを抱える覚悟が出来なかった。以前バンドを辞めてサラリーマンになった理由と同じだ。自分にはレールを外れる決断が出来ないと悟っていたのだ。むしろそのように自分に言い聞かせている部分もある。



しかしこのことを藤森には口に出して言うことは出来なかった。なぜならば、藤森も既に以前の仕事もやめてたこ焼き屋一本で生活をしているからだ。 

もともとはトシカズと二人で始めたから、彼はおまけだと言えればそれまでだが、いずれにせよここで終わりにした場合、今度は藤森との夢を自分の都合で終わりにしてしまうことになる。バンドデビューの時と同じで、嫌な思いが残ってしまうと考えた。

何より藤森もたこ焼き屋に一生懸命取り組んでいたのを知っていたし、理解していたつもりでもあった。



「トシカズ不在のタコ焼きトシカズってどうなの?」

マホーンは自分の複雑な結論の出ない正直な気持ちは置いておいて、結局この一言を選んだ。


藤森は迷わずこう答えた。

「それはダメでしょ。」

「じゃあお前がやる?」と、マホーンが聞いた。

「なんか疲れたっす。」


マホーンも藤森も少しスッキリした気がした。そして二人はこんな日だからこそふんぱつをとのことで焼肉屋に向かった。


にわか金持ちの彼らには、高級料理といえば、すなわち焼肉しか思い浮かばないのである。


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