再会
ここからは1年前の話になる。
マホーンとトシカズは量販居酒屋で二人で飲んでいる。久振りの再会だ。
マホーンはサラリーマン。
4大新卒で上場食品メーカーに入社し10年ちょっと。31歳、妻1人子1人。
日本本社で簿記もろくに知らないのになぜか経理の仕事を3年。その後中国語も出来ないのになぜか中国に派遣され、さらには前職と関連の無い営業を6年やった。今年帰任し、現在は東京本社で経営企画部門に籍を置く。
「俺松村さんに謝りたいって思ってるんです。」
くだらない談笑の中、突然マホーンがこう切り出した。
「いや俺の就職が内々定した後に、俺松村さんに言われたじゃないっすか、一緒にバンドでプロ目指そうって。なんでわざわざ就職が決まった後に言うのかなってのも思ったんですけど・・」
松村はビールを飲みながら軽くあいづちをうちつつ聞いている。なんとなく過去を懐かしがる、優しい目をしている。
「あの時断った理由がまず一つ良くなかったって思ってます。」
マホーンは続けた。
「その時の彼女と結婚したくて、んでやっぱり安定性とか考えて就職するって言ったけど、多分それ違うって思ってます。」
「結局自分は、なんだかんだで社会のレールから外れる勇気が無くて・・彼女のせいにして自分を納得させたかったんだなって」
松村は口を開いた。
「俺はその時4年付き合った彼女にフラれてたじゃん。パチスロばっかやっててよ、結局就職活動もろくにしないうちに新しい男作られて。しかも大学また留年してさ。3回目。ってかこれじゃ新卒でどこの会社も採ってくれねーってな。」
松村とマホーンは笑う。というか笑うしかない。
「俺だって彼女いたから就職しようって思ってたわけじゃん。それって多分普通だぜ。てか当然だって。」
マホーンは自分より2個上の発言に松村の懐の深さを感じた。
あの時の断りの理由が言い訳だったと、松村は分かってたはず。ただ、今でも正当化してくれていて、それが逆にもどかしく感じた。