販売開始
「へい、らっしゃいやせ」
松村が威勢のよい掛け声で客を呼び込んでいる。平日の昼にも関らず、客足は上々だ。
「ありがとございます。」
リンリンも必至にたこ焼きを焼いている。松村はその横でタコだけを焼いている。彼がたこ焼きを焼くとドロドロになってしまうので、タコだけは別途事前にしっかり焼くことにした。主な目的は食中毒の防止でもあるのだが・・・。
この作り方は松村がどうしてもたこ焼きが焼きたいというので、マホーンと藤森が考え出した折衷案だ。
折衷案ではあるが、偶然的に得られた利点もある。タコだけを先にしっかり焼くことで独特の食感と、コクが出せる点だ。
鉄板の右側で松村がタコを焼き、左側でリンリンが最終的に衣と混ぜてたこ焼きを完成させている。
大学生の帰宅時間と重なったのか、店には行列が出来ている。マホーンは会社勤めを早めに切り上げ、オープン初日の活気を覗いた。
「おい藤森、凄いじゃんお客さん。行列出来てんだけど。」マホーンは言った。
「そうなんすよマホーンさん、やっぱ俺たちの計画に間違いはなかったっすよ。」
藤森も相当テンションが上がっている。
店の看板にはベニヤに手書きでこう書かれている。
「夢はロックスター!たこ焼きトシカズ」
これは村松に怒られて借金をして販売ノルマが達成したらプロデビューというマーケティング手法をあきらめた結果だ。
そして村松の歌うオリジナルソングがコンポから流れている。
「バカは最高の褒め言葉なんだってよ~♪」
当然たこ焼きの宣伝ではなく、村松の宣伝だ。これも味ではなくあくまで松村のキャラで勝負するマーケティング手法の一環だ。
このマーケティング手法はマホーンが持っているビジネス書に「マーケティングの基本は集中と選択」と書かれていたのを参考にしていた。
例えばたこ焼きトシカズを味とキャラの両方で売り出すと、いずれの戦略もも全力で挑むことが出来ず、中途半端になってしまい結局味もキャラもお客様の脳裏に残らない。だったらどちらか一方を捨てて、徹底的にキャラ戦略に集中するといった具合だ。




