修行
マホーンは会社帰りに「たこ一番」をのぞいてみた。
「へい、らっしゃいやせ」
松村が威勢よく働いているのが分かる。3組のお客さんが行列をなしていた。新大久保という街は、サラリーマンと夜のお店のお姉さんが多い感じだ。マホーンは松村がちゃんと働いていて一安心した。
そして自分も松村の焼くたこ焼きを食べてみることにした。
「松村さん、1箱下さい。」
「おぉ、マホーン。よく来たな。」松村は元気が良い。
「会計は隣にいる子がやるから、サービスできねーけど悪いな。おい、リンリンこいつは俺の友達だから鰹節とかサービスしてやってくれよな!」
女の子はかわいかった。しかも名前はリンリン。ネームプレートには「林玲」と書いてあった。マホーンは嬉しくなった。久しぶりの中国人だからだ。
というわけでマホーンはついつい中国語で話しかけてみた。(以下しばらく中国語)
「こんにちは、ここで働いてどれくらいなの?」
「えっと半年です。」と、リンリンは答えた。
「故郷は中国のどこですか?」
「湖南省の武漢です。」
「武漢なの?俺出張で行ったことあるよ。長江が街の真ん中を流れていいて橋が凄い渋滞してるんだよね・・・。」
並んでいるお客さんを横目にしばしこんな日常会話をした。
「で、松村さんちゃんと仕事してる?」
「・・・、はいとてもまじめですよ。」
「何その微妙な間は?彼がサボってたら注意してあげてね、また来るよ!」
マホーンはリンリンとの談笑を終え、店から少し離れたところでたこ焼きを口に入れてみた。
「んっ!?」
マホーンは味覚にとりわけ自信があるわけではないが、一種の違和感を感じた。なんか外も中もどろどろで、小麦粉とタコの刺身を生で食べている独特な味わいだった。
マホーンは店に戻り、リンリンに中国語で聞いてみた。(以下しばらく中国語)
「すみません、松村さんが焼いたたこ焼き食べたんですけど、あんまり美味しくないって思いました。」
「少し柔らかいと思います。」リンリンはこう答えた。
「これがこの店のオリジナルの味なんですか?」
リンリンはこう分析していた
「松村さんの手さばきはほんとに早いんです。だから外がパリッと焼けなくてもたこ焼きがひっくり返せちゃうんです。けど、そうすることでたこ焼きが美味しくないことに気がついていないんです。というか彼はこういう味が好きなんだそうです。」
マホーンは絶望的な何か大きな黒い幕に自分が覆われていく気がした。
「村松さん・・・。」