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陛下、寵愛なんて望んでません。  作者: 犬村汐里


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第1話






 上級妃の一人が男児を産んだ。



 その知らせは宮中の外にもあっという間に広がり、各地でお祭り騒ぎが起きている。




 現帝が即位して12年。


 これまでにも帝には6人子どもが生まれていた。




 そのうち男児は2人。


 しかし、女児だった子を含めて3人が幼くして他界しているのだが、ついに4年ぶりに男児が生まれたのだ。


 皇宮では祝いの品が飛び交い、外廷では官吏たちが今後の皇位継承について囁き合い、皇后になるのは男児を生んだ妃かもしれないなどと噂するものさえいる。


 後宮でもきっと同じようなことが起きてるのだろう。


 毎日訓練をするだけのただの武官の俺には、なんの関係もない話だった。



「今日も頑張るか」



 俺はそう言いながら、訓練場へと向かった。





 俺は、それなりの地位にいる武官の父親のもとに生まれた。



 夫婦仲のいい両親のもとに生まれてきたので、姉と兄が6人いる。


 俺はその7番目。


 姉が2人、兄が4人。



 姉の一人は今の帝の正二品の妃で、その姉の2個下の妹が侍女頭としてともに入内している。


 妃として入内した姉はとても頭がいい。


 そして、とても美人だ。

 なのに誰にでも優しく、穏やかな性格をしている。



 だからこそ入内できたのだろうが、姉を入内させた父親を俺は許せなかった。





 稽古を終え、単身の武官が暮らす寮に行こうとしたところで一人の武官が俺のそばにやってきた。


 うやうやしく拱手をして、「志明(ジーミン)さま」というので、すぐにどこの官なのか察した。



志豪(ジーハオ)さまがお呼びです」

「分かりました」



 拱手をして返すと、武官は小さく笑みを浮かべて立ち去った。



 :謝志豪(シエ ジーハオ)


 それが俺のオヤジの名前だ。



 このオヤジが姉を後宮に送り込んだ人物で、俺の働いているこの軍を束ねるトップ3に入るお偉いさんである。


 お偉いさんの息子ということでどれだけ迷惑を被っているのか、オヤジは知らないだろう。


 そして、このオヤジの部下であるこの官も多大なる迷惑を被っているはずだった。




 軍の指揮系統の上にいる人たちは、基本的に机仕事だ。


 なので軍司令部という場所にある建物からオヤジの執務室を探すことになる。



 執務室の前にやってくると、護衛が顔を見てすぐ「どうぞ」と言って扉を開ける。



 中に入って働いているオヤジの部下たちに「お疲れ様です」と言った。



「お疲れ様です、志明(ジーミン)さま」



 一人の文官の官女が頬を赤く染めて俺を見る。



「おつかれ」

「お茶飲んで行かれますか?」

「いや、いいよ。要件が終わればすぐ帰るから」



 そう言ってオヤジのいる執務室の扉を叩き、中に入った。


 しかし、肝心のオヤジはそこにはいない。



「……なんだよ」



 そう呟く。


 部屋の中を見渡していると、庭に入る扉が開け放たれていることに気がついた。


 その扉のそばに行き、庭を見た。


 剣を振って訓練しているオヤジがいる。



 汗を垂らしながら剣を振るう。


 その姿は、官吏とは程遠く、未だ現役さながらの肉体美をしていた。



(こういうところは、尊敬できるんだけど) 



 しかし、姉のことは別だ。



「オヤジ、来たぞ」

「志明。遅いな」

「訓練があったんだ」



 オヤジは汗を拭いながら「そうだな」と言った。



「お前は他の上官の命令でも待たせるのか?」

「いいや。オヤジは別だ」

「……生意気なやつだな」

「先に要件を言えよ」

「お前を帝へ謁見させる。これはうちの仕事のためだ」



 俺は背筋をピンと伸ばした。


 そして、指先まで伸ばし、拱手をして頭を下げる。



「承知いたしました。我が当主」






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