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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

私は可愛い子猫ちゃん(狂犬)

作者: 緑スライム
掲載日:2025/11/06

走馬灯。

全部の記憶を浚って、壁を突き抜け、さらにその先へ。


「なんとか、なれー!」


 アホみたいな掛け声で、腹の中の熱を手に伝わせてぶちまける。

 それは、ビームとなって脅威を貫いた。


 ガクガク震えながら立ち上がる。


「や、やんのかー! う、うおー! わ、私はこんなに大きいぞー!」


 体を精一杯大きく見せて荒ぶる鷹のポーズ!!

 ブンブンと腕を振るうと転ぶ。


 ひ、ひぃぃ!


 とにかく、とにかく後ろの王女殿下に手出しをさせてはならぬ、ならぬのです!


 恐ろしい魔物は私の勇姿を見て去っていった。

 

「ふ、ふわああああああ」


 私は、お父様やお兄様、婚約者のくれたアクセサリーを漁った。


「助けを、助けを呼んでくれるやつ……!」


 これだ! 本当に困った時だけ使いなさいって、婚約者召喚の奴!!


「ふおおおおお!! 飼い主召喚!!!」


 私は魔力をありったけこめる。アクセサリーがピカピカする。

 

「よ、よよよよし……」


 や、やるべき事はやった……!

 偉い私、頑張った私!

 恐ろしい敵を倒し、保護者を呼び出した! 完!! 良くやった!!!

 そ、そうだ。王女殿下、王女殿下の安全確認!


「リリーチェ様、おけ、お怪我はございませんか?」

「ええ、私は大丈夫」


 泰然とした様子の王女殿下はさすがである。


「私の婚約者が絶対助けに来てくれるので、大丈夫です。えと、ちゃんと食べ物も飲み物もあります。結界で安全を確保しましょう。腹が減っては戦ができぬと申します」

「ありがとう、アンナ。あなたのおかげで、本当に助かったわ」


 私は立とうとして気づく。腰が、腰が立たぬ……。


私は這いずって王女殿下の所に来て、結界を張って一緒にお菓子を食べてお茶を飲んだ。


 そして、記憶の海に投網を投げた。

 どうしてこんなことになったのだっけ。

 私、ゲームしてなかったっけ?



 そうだ。私は、アンナ。侯爵令嬢だ。

 そしてその前は、社畜でオタクだった。


 ちょっと……いや、かなりの問題児だった。

 他国の王子に横恋慕して、婚約者である自国の王女様にちょっかいを出していた。

 いや、思い返すと相当やべー奴だな?

 あまりのヤバさに外に出せなくて、子飼いの騎士を婚約者にするほどである。

 押し付けられて今、また呼び出されている騎士にはご愁傷様だ。

 そして、王女殿下の誘拐事件に巻き込まれたと言いますか……突っ込んでいったと言いますか……。

 召喚魔法を妨害したと言いますか……。

 そして着地先をずらしたと言いますか……。

 よく無事だったな、マジで。得体の知れない魔法を妨害したりしたこともそうだが、私は自分が無礼打ちされないか心配である。

 美しい姫君を召喚するという召喚陣に、美しい姫君とはリリーチェ様ではなく私の事ですわ! って突っ込んだの頭イかれてんだろ。


 しばらくして、まず王女殿下の護衛の女騎士が転移魔法で飛んできた。


「姫様!! ご無事ですか!」

「私は無事よ。アンナが守ってくれたの」


 続々と騎士が来て、殿下も駆け寄って、そして私の飼い主が来た。


「姫様!」

「ディルクー!! 怖かったもうまじ死ぬかと思った頑張った!」


 私は必死で抱きついた。


「ひっ姫様」


 離しませぬ! 離しませぬぞー! これは私の命綱!!!


「……ご無事で良かったです」


 きゅっと私を抱きしめ返してくれる。

 ほっとして、私は気づいた。ディルクが私が超好きだった漫画のキャラにめちゃくちゃそっくりであることに。顔の火傷とか本当にそっくりなのである。


「怖い目に遭いました」

「はい」

「あなたが守ってくれなかったからです」

「はい」

「つまりあなたの責任では? どう責任を取るつもりですか!」

「私は」

「これはもう結婚しかないですわ!」

「はい?」

「はい返事したー! 言質取りました! 結婚! 結婚!」


 私はぎゅうっと抱きついて主張する。


「はい、言質は取りました」


 そうして、私はディルクとお父様とお兄様に迎えられ、診察を受け、あったかいミルクを飲んであったかいベッドで就寝した。

 犯人? 処されるに決まってるだろ、王女と侯爵令嬢に手出ししたんだから。


 朝食時、お父様とお兄様は私を気遣ってくれた。


「怖い思いをしただろう。学校はしばらく休んでもいいんだよ」

「私は負けてないので学校には行きますわ」

「それでこそアンナだ」

「それで、結婚相手はディルクでいいんだね?」

「当然ですわ。私はディルクの子猫ちゃんですのよ! 高貴! 悪戯! 可愛い! 全て条件を満たしてますわ」

「当然だな」

「そう……」


 節穴アイのお父様が頷き、お兄様が遠い目をする。

 ディルクがイケメンなのもあるが、何せ私はどこに出しても恥ずかしい侯爵令嬢……権力ゴリ押しで強要するしか娶ってもらう方法がないのだ。

 その点、ディルクは当家の騎士だから権力でゴリ押しできる! 美形! 能力高い! 結婚後も好き勝手できる! と好物件なのである。ディルクからしたらふざけんな案件なのだが。


 さて、私は学校へと向かった。


「アンナ様、昨日は怖かったでしょう」

「アンナ様、ディルク様と結婚なさるのですか? 王子殿下は?」

「まあ、ミーナ。王子殿下と本当に結婚出来たら困るじゃない。私、可愛いしか出来ないのよ? そういうのはリリーチェ様のような責任ある方のお仕事よ。それに、私は国より自分を優先して欲しいタイプだし、合わないと思うの。その点、ディルクならお父様が私を第一に考えるのがお仕事だって言ってくれたし」

「まあ……」

「確かに、アンナ様のか細い肩に家を守るのは重荷ですわね」

「それはそうですわね」

「リリーチェ様もキーシュ様もそれはそれは有能で責任感をお持ちでいらっしゃいますものね。なら何故お二人の間に割り込む真似を?」


 それな。


「だって、私には可愛いしかないのに、可愛い以外もお得意なリリーチェ様に可愛いで負けるのは悔しくって……。私、聞いてしまったのよ。キーシュ様がリリーチェ様を世界一可愛いって言っておられるのを」


 まじでこんな理由だったから私頭おかしい。


「な、なるほど」

「ええ……あ、その、気持ちはわかりま……ええと、そうでしたのね」

「リリーチェ様が可愛い以外にも有能なのは確かですわ」

「国民として王族が優秀なのは幸せだと思いますわ」

「リリーチェ様は素晴らしい王族ですわ」


 話を逸らしてくれた取り巻きに、皆が頷く。


「アンナ様。殿方は自分の婚約者を世界一可愛いと思うものなのですわ。そこは勝てない、勝ってはならないものなのです。ディルク様もきっと世界一アンナ様を可愛いと思ってくださってますわ。女はただ一人の一番であることで満足すべきなのです。殿方皆の一番は目指しちゃダメな奴です」


 ガチ目の説教に、私は深々と頷く。本当にそう。いや、ディルクが内心どう思ってるのかは知らんけど。そこはほら、お父様から給料もらってるんだから諦めてもろて。


「確かにそうね。それに、私、この事で思い知りましたの」

「何をですの?」

「飼い主のいない所で喧嘩を売るのはやめよう……と。可愛いだけの子猫のような私が悪意に対抗なんてできるはずないですわ」

「そうですわね。でも飼い主のいらっしゃる所でも喧嘩はよくないですわ。アンナ様が傷つくのを見たくはないですわ」


 それにしても、みんな優しい。

 私のやべー話を柔らかく着地させて諌めてくれる。

 これからはおとなしくするね……。

 今までごめんね……。





 それから、私はリリーチェ様に呼ばれた。

 思い当たることが多すぎるので、ドキドキして行った。



「アンナ。この前は本当にありがとう。助かりましたわ」

「当然のことですわ」


 王女様はニコニコして迎え入れてくれた。


「私、アンナ様の事を色々と誤解しておりましたわ」

「まあ。聡明なリリーチェ様が? 意外ですわね」


 これは本当に意外。


「ええ。いろんな人がいて、いろんな価値観があると頭ではわかっているつもりでしたが、わかっているつもりだけだったようですわ」

「まあ! 私は知っておりますわよ? 世の中にはいろんな人がいること! また一つ王者として大きくなりましたわね!」


 でもまあ、王族がいろんな価値観を許容するのはとても良いことだ。 

 国民として祝福を送りたい。


「ええ。そうですわね。魔法陣相手に、私の方が可愛いって突っかかっていったこと。私を守ろうと、小さな体を大きく見せようと頑張って小動物を威嚇していたこと。普段噛み付いてばかりいる婚約者に、いざとなったら飼い主と呼んで抱きついていったこと。キーシュ様に惚れたのではなく、キーシュ様が私を一番可愛いと言った事が気に入らなかっただけなこと。可愛いしか出来ないと断言したこと。怒らないでくださいね。こんな可愛い子猫ちゃんを、私はドラゴンだと思っていたのです」

「もちろん、私は可愛い子猫ちゃんですわ!」


 そしてやべー女である。でもこれも私なんだよなぁ!


「お父様の言っていた事がようやくわかりました。理解する事が大事なのだと」


 そして、リリーチェ様は私の手を握った。


「私の子猫ちゃんになってくれますか?」

「よろしくってよ! 飼い主はいくらあってもいいものですわ!」

「あと、ディルクと私以外に飼い主を作らぬこと」

「ええー! なぜですの!?」

「侯爵令嬢が浮き名を流しちゃダメよ……。可愛がってくれるなら誰でも良いの?」

「そんなまさか! 餌をくれて顔が良くなくては」

「……オルフェン侯爵家には侍女を増やしてもらうようにしましょうね。誰彼構わず餌をもらっちゃダメよ。じゃれつくのもダメです」

「そんな犬に言うみたいに。子猫ちゃんなら許されません? だって可愛いですのよ?」

「許されません」


 何はともあれ、私は許されたようだ。

 よかったっ 不敬罪で死刑にならずに良かったぁ!

 ペットを軽々しく処刑にはしないよねっ!? ねっねっねっ!?


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