【元婚約者視点】おれは間違ってない
「―――モーリー・トレバー、お前との婚約を破棄する。」
目を見開き、固まる“元”婚約者。
家の繋がりのための政略結婚、よくある話だ。
互いに愛なんてない、外に恋人を作っている。
これもよくある話だ。
――だから、これは最近流行りの物語のような“正義の鉄槌”になる……はずだった。
「ヘイズさまぁ、まだお仕事終わらないんですかぁ?」
「……おれのキャロル、本来ならこの仕事は、女主人になる君の仕事なんだよ?」
「ええ〜だってぇ、キャロル文字書くの下手だしぃ〜、難しいことよくわかんなぁい♡」
元婚約者に隠れて付き合っていた時は、“キャロルもお仕事手伝う!”と言ってくれてたのに、いざ任せようとしたら、全く仕事をしない。
……モーリーは、書類仕事が好きだったよな。
彼女の分の書類は、“おれのより簡単だった”せいで、早かったし
おれがキャロルと出かけるときや、面倒な書類は大体押し付ければ、翌日には出来上がってたよな。
モーリーだったら、おれの分までやってくれてたのに……
ハッとして頭を振る。
おれは何を考えているんだ!モーリーは、おれの大事なキャロルを散々虐げたんだぞ!
そうだ、いまおれのキャロルは“傷心中”なんだ!おれが頑張らないと……
「……わかった、書類仕事はおれが引き受けよう。代わりにキャロルは、そこの資料をまとめておいてくれないか?」
「そんなことしたら、キャロルのキレイな爪が割れちゃいますよぉ!ヘイズさまだって、キャロルが痛い思いするのは嫌でしょ?」
前に“君が傷付く姿を見たくない”とは言ったが……これほどまでに過去の自分の発言を恨めしく思うことはないな。
最初は、“よくぞ、性悪な女の本性を見抜き、追い出したぞ!流石は我が息子だ!”と褒めてくださった
お父様とお母様も、キャロルがモーリーより仕事ができないとわかるや否や、徐々に“性格は悪けれど、あいつ仕事はできたな”や、“こんなことなら、『恋人』のままで良かったんではないか?”と心無い言葉を浴びせるようになった。
―――おれは間違ってない!
確かに、モーリーは机に向かうのが苦手な僕の代わりに、領地経営を学んでくれたり、終わらない僕の公務をほとんどやってくれたけど、
でも、かわいいキャロルに嫉妬して、教科書を水浸しにしたり、ドレスを切り裂くなんて許されるわけがない!
……そういえば、モーリーはいつ、教科書を水浸しにしたり、ドレスを破いたりしたんだろう?
取り巻きか誰かに頼んだのか?……モーリーが誰かと一緒に居るところを見たことが無いな。
いや、おれのかわいいキャロルがそう言ってたんだ、おれが信じなければ!
しかも、最後に“彼女の名前はなんだ?”と聞いてくる始末。自分が虐げていた人物の名前も知らないなんて、なんて奴だ!
やはり、婚約破棄して正解だった!
……どうして、名前も知らないキャロルの教科書やドレスがわかったんだ?
―――
数ヶ月後、国の権威が集まる研究論文発表会で、発表賞を授与されたモーリーと運命的な再会を果たす。