責任
「引っ張ってくださり、ありがとうございます。オルソさん。」
「中級魔法を凌げるって言っても、魔法の威力を完全に防げるって訳じゃないんだから、気をつけなよ。
……本当は、俺が庇いに行ければ良かったんだかなぁ……すまない。」
私を引っ張った時に、爆風をもろに食らったオルソさんの右手に、包帯を巻いていく。
……昔、家族に連れられて外食をした時、母が『自分では頼みたくはないが、気になる熊の手料理』を私用にと頼んだことを思い出し、つい口から出てしまった。
「オルソさん、“熊の手”って食べたことあります?」
「……マーノは、人間の手を食べたことがあるのか?」
「……手羽先なら。」
「あれは美味い。」
なんて、やり取りをしていると、アランさんが近付いてくる。
「お二人とも、申し訳ない……少し魔力操作を誤ってしまったようだ。」
本気で焦燥しきっているアランさんを見ると、故意的にとは考えにくい。
前々から、振る舞い方が“研究者”というより“貴族”のようだと思っていたけれど、“申し訳ない”という言葉で、貴族だと確信した。
しかも、魔力の色が王族特有の“黄色”だった……
でも貴族が、ましてや王族が魔石に魔力を込めるなんて作業をするとは、考えられない。
だから失敗したとも思えるが、あまりにも手際が良かった。
……この人は一体――?
「お気になさらず、アラン殿。みんな、かすり傷でしたから。」
「……お気遣い感謝します。……マーノさんも、あとから不調が出てきたら、すぐに教えてください。“責任”を取らせいただきたい。」
そんな真剣な顔で“責任”と言われると、なんだか告白を受けてるみたいだ。
人間種のお嬢さんなら、卒倒すること間違いないだろう。
「“責任”ですか……責任を取らなくてもいいので一つ“お願い”をしてもいいですか?」
パァァァと、顔が明るくなるアランさん。
なぜ、嬉しそうな顔なのだろうか……?
「貧困街の人間でいいので一人、用立てていただけませんか?」
明るい笑顔から一気に急降下する。
この人、案外表情豊かだな。貴族がそれでいいのか?
「目的をお伺いしても?……奴隷用でしょうか。」
「いえ、“研究材料”にしたいんです。」
ヴォーチェさんが、パッとこちらを向くのが横目で見えた。
「……申し訳ない、それは倫理に反する。」
それは、そうだ。
この人はきっと、“それ”を決めた組織に、近いところにいる人だろうから。
まあ、今の私には関係のない話だ。
所長が“ちゅうも〜く”と手を二回叩く。
「今回は失敗しちゃったけど、実験は繰り返すもの。諦めず何度も挑戦していこう!今回のことを踏まえ、追加するもの、削ぎ落とすもの、どんどんアイディアを出しちゃって!」
「「「はい!」」」
「そして、マーノ。」
「はい、なんでしょうか。」
「僕が、“魔力の乱れを察知した”と同時に、ヴォーチェを庇いに行ったね?その時のことを、まとめておいてくれ。皆に共有する。」
「わかりました。」
「さ〜て、みんな!楽しい楽しい実験の時間だ!」
試行錯誤を繰り返し、“似た魔力の波長を持つ者ならば、本人でなくても使える魔石”を完成させ
……発表会で私の書いた論文がまさか、“発表賞”をもらえるなんて、夢にも思わなかった。
そして、受賞パーティにて“元”婚約者と最悪な再会を果たす。