魔力譲渡
“魔法の次段階の発展”というどこから攻めたらいいかわからないテーマの前に、頭を悩ませている研究所メンバー。
アランさんは、にこにこしているだけだ。
「発展てもなぁ、威力を高めるとか、応用魔法を増やすとかそんなんでいいのかなぁ〜?」
ヴォルペさんが溶けている。
スっと手を挙げる。
「はい、マーノ。」
「とりあえず“魔法でできること”と、“できないこと”を分けてみませんか?」
「そんな無駄なことしてどうすんのよ。」
「“魔法でできないこと”を“魔法でできること”にしたら、発展になりませんか?」
「「「……!!」」」
「なるほど、既にあるものの強化ではなく、魔法でないものに魔法を組み込む……よーしよし、いい子だマーノ!」
「マーノちん、やるぅ!」
「いい観点だ。」
「……たまたまでしょ。」
三者三様に褒めてくれる……ちょっとこそばゆい。あと所長、髪をぐしゃぐしゃにするのは、やめてください。
魔法でもできないことを書き出してみる。
・死者の蘇り
・魔力譲渡
・自我改変
・正確な未来予知
その他etc…
書き出されたある一文を見て、オルソさんに聞いてみる。
「魔力譲渡……これ、魔石に魔力を込めて、他者に渡したら魔力譲渡になりませんか?」
「魔石の魔力を取り出すのも、魔力を込めた本人じゃないとダメなんだ。」
「……!そうか、魔力を込めた本人以外でも、魔石を使えるようにすればいい!」
所長が、ひらめいたようだった。
……だから、頭をぐしゃぐしゃにするのやめてください。
“橋渡し役と言って何もしないのは、心苦しいので”と魔石に魔力を込めてくれることになった、アランさん。
アランさんの魔力の性質を読み取り、分解して“誰でも使える”という術式に書き換えていく。
魔石に魔力を込めているとパチッという音が聞こえたような気がした。
魔力を込め終わり、ヴォーチェさんが魔石を掴もうと、手を伸ばした瞬間
魔石に黄色い“魔力”が走るのが見えた。
「!!みんな離れ―――」
直感だった。
一目散にヴォーチェさんの前に出て、爆発を背中で受ける。
「……ヴォーチェさん、お怪我は……?」
「アンタ……なんで……私、庇っ」
“なんで庇った”と言われてもなあ。
「ヴォーチェさんが傷つくところを、見たくなかったので。」
目を見開いたと思ったら、苦しそうな顔になり、俯くヴォーチェさん。痛いところでもあるのでは、と思い、声をかけようとしたら
「〜〜ッアンタなんて、大っ嫌い!……アンタと居ると、ツォーネのことばかり思い出す……」
私の行動を察知してくれたのか、ヴォーチェさんごと、私を後ろの方に引っ張ってくれたオルソさんに“ツォーネさん?”と聞いてみると、“ヴォーチェの妹だ”と教えてくれる。
そうか、私の何かしらをみて、妹さんのことを思い出していたのか。
抱きしめていたヴォーチェさんから手を離し、私は一息吸う。そして
「しっかりしてください、ヴォーチェさん。私は私で、ツォーネさんはツォーネさん、別個体です。見たことはありませんが、きっとツォーネさんは、ヴォーチェさんのように美しいのでしょう。私と面影を重ねるなんて、ツォーネさんに失礼ですよ!」
呆けた顔で私の顔を見つめてから
「……何それ……アンタ自己評価低すぎよ。」
フッと笑うヴォーチェさんは、とても美しかった。
この一件で、ヴォーチェさんの態度が少し柔らかくなった。