【オルソ視点】こんなの甘いうちに入らない
[日間]異世界転生/転移〔恋愛〕 - 完結済▶51 位
ありがとうございます!
どうしたんだ、ヴォルペ。
結婚式に使うスピーチの題材として、花婿から花嫁の印象を知りたい?
そうだな……少し恥ずかしいけど、笑わずに聞いてくれよ?
―――
マーノを見た時の第一印象は「“今日の昼ごはんは、焼き魚定食だな”」だった。
俺が食いしん坊なのもあるだろうが、マーノの瞳がまさに「“死んだ魚の目”」だったからだ。
初日、人間ならまだ寝ているであろう時間に起きてきたマーノ。
人間の生態は、前にいた研究員だったり生態系を調べた時に流し見ただけの知識しかないから
まだ起きるのであればと思い、自分用のコーヒーをマーノに渡したのを覚えてるか?
「……“気をつけて飲め”って吹き出す可能性があるっていう意味だったんですか?オルソさん。」
「いや……すまん。人間は、もっと液体状じゃないとダメなんだよな、失念していた。」
ジトりと俺を見て、ポツリと話すマーノ。
なんだ、人間らしい顔も出来るんじゃないかと思った。
―――
マーノが来て数週間。
所長の手となり脳となり、大忙しみたいだった。
研究にも興味が出てきたようで、ヴォーチェの後ろをついてまわっていて
まるで猫を親だと思い込んでる雛鳥のようだなと思ったんだ。
ある日、所長に呼び出され、食堂に集められると
見知らぬ男が一人。
「アラン」と名乗ったその人は、うっとりとマーノを見ていた。
バレてないと思ってるのは本人ぐらいなものだろうね。
―――
魔石に魔力を込める作業の時に、魔力が暴発したらしく、激しい音とともに爆発が起きた。
近くにいたマーノは、ヴォーチェを庇い、俺は二人まとめて自身より後ろへと引っ張る。
人間は、脆い生き物なのだから、もっと気をつけてほしい。
「……オルソさん、“熊の手”って食べたことあります?」
「マーノは、人間の手を食べたことがあるのか?」
「……手羽先なら。」
「あれは、美味い。」
あれは、びっくりした。
俺の故郷で「“熊の手を食べたい”」というセリフは、「“貴方を養いたい”」というプロポーズで使われる言葉なんだ。
人間が知るわけないのに……
動揺して、変な返しをしちゃった。
あの時は、反省したよ。
今だったら?「君の手を食べさせてくれ。」って返すかもね。
ふと見上げると、アランさんがものすごい形相でこちらを見ていたが
俺の視線に気づくと、すぐに顔を戻した。
……束縛男は嫌われると、本で読んだ気がする。
マーノに嫌われないといいな、アランさん。
なんて、その当時は、思ったりしてたよ。
今は……「“マーノが溶けちゃうから、見ないでくれ”」って言うかな。
―――
「これ、人間変身薬。飲んで。」
ヴォーチェから渡された紫と緑のマーブルな液体。
ヴォルペも覚えてるよな?
何がイヤって、見た目はキツいのに味はそこそこ飲みやすいんだよな。
……だから、今朝もマーノに強請られて……いや、なんでもない。
変身薬っていうから、おとぎ話みたいに淡い光に包まれるとか、一瞬で姿形を変えるのかと思ったけど
結構、時間かかるよな、あれ。
―――
「……?だってモーリー、書類仕事、好きだろ?」
パキャッ
「ぐああぁぁぁ!!」
「あっ、力加減ミスっちゃった。……人間って脆すぎるなぁ。」
少し飛んで、表彰式。
元婚約者のあまりにも自分勝手な言い草で、折る気はなかったんだけど、つい力が入っちゃったよね。
こんなことを言われて、さぞ怒ってるんだろうなと思ってマーノの顔を見たら、無表情。
いま思えば、諦めてるような顔ってやつだったのかも。
いやー感情的に怒るもの怖いけど、無表情、無感情も怖いって思い知ったよ。
―――
「オルソさんの目の色って、まるでハチミツみたいな色ですね。」
ダンスの時に言われたんだけど、実はちょっと意識しちゃったんだよね。
さっきも故郷の話を出したでしょ?これも、それに当てはまっててさ。
ハチミツってさ、お祝いごととかの特別な時じゃないと、食卓に出ないんだ。
だから『ハチミツ=特別』ってことで、「あなたは、私の特別な人です。」ってなるわけ。
なんて返したかって?……ふふっ、内緒。
―――
あとは、ヴォルペも知っての通り、怒涛のアプローチ。
“ヤバい元婚約者”に、“拗らせた王子”と周りにロクなのがいなかったから
しばらくは、『好きなことを好きなようにする』もんだと俺も思ってたんだけど
全然そんなことなかった。
前にさ、寝て起きた時ベッドに潜り込まれてて
「“それでも肉食系ですか!?”」って言われたから、「“雑食ですけど!?”」って思わず返しちゃったよね。
あ、こういう話が聞きたいの?他にあったかなぁ?
俺さ、恥ずかしいと耳が動くみたいで
マーノに「“今日もステキです”」ってセリフをうんと甘くした言葉を言われると、無意識に動いちゃうんだ。
この前も、「“私だけの貴方”」っていうセリフをメイプルが入った鍋に、砂糖を追加したような言葉で言われて、耳が動いちゃってたらしく
「“失礼”」って言われて食べられたよね。
耳を。
しかも、真顔で。
失礼って言われて本当に失礼されることあるんだって固まっちゃったよ。
あとは……もういいの?まだあるよ?
え?胸焼け?
お昼にそんな甘いもの食べたの?
え?俺の話のせい?
……アハハ、今の甘さに比べたら、こんなの甘いうちに入らないよ。
オルソがマーノに返した
「……マーノの目は、メイプルみたいな色だね。」
は「メイプル=いつでもある」なので『“常に貴方といたい”』という意味だったり。
ご一読ありがとうございました!
これにて『シンデレラはガラスの靴を履いただけ。』
完結です!




