【元婚約者視点】運命の赤い糸
なんとか警備隊の目をかいくぐって、柱や生垣などの物陰に隠れながら、モーリーを探す。
中庭に面してる飾り柱に隠れていたら、モーリーがこちらに歩いてくる。
ああ、やっぱりおれとモーリーは、運命の赤い糸で結ばれているんだね!
モーリーの前に颯爽と現れる。
少しカッコつけすぎたかな?いや、女性は少しドラマチックに演出した方が喜ぶから大丈夫だろう。
キャロラインも「“わぁ、あ〜……嬉しいですぅ♡”」と言って花束とかよく喜んでたし。
「……やっと見つけたよ、モーリー。まさか君がこのパーティの主役だなんて、思いもしなかったよ。
おれに釣り合う女性になるためにがんばってくれたんだね、褒めてあげようね!すごいよ、モーリーは!
これなら君を迎えられる!
一度は引き裂かれた、おれたちだけど、おれは……君のことを許すよ。
どんな罪深い君でも、おれの両親にちゃんと、誠心誠意込めて謝罪すれば、きっと君のことを許してくれる!
大丈夫!心配しないで?おれも一緒について行ってあげるからね。
あとあの論文、君にしてはまあまあ書けてたね、でも、もうちょっと説明のしようがあったんじゃないかな?
しょうがないから論文の名前は、おれのものに変えよう。
みんな表彰の手前、拍手していたけど、内心では女が書いたのかと、バカにされてるかも。
君だって困るだろう?おれがその汚名を代わってあげよう!
褒賞金の半分で、おれの名前を貸してあげる。おれはなんて優しいんだ!
……申し訳ないんだけど、もう半分の褒賞金を少しの間だけ、貸してほしいんだ……キャロルは本当は悪い女だよ!おれのお小遣いだけじゃ飽き足らず、領地の資金にも手を出そうとして!
だからいま、領地の経済面が少し苦しくてさ……絶対返すから!倍に、なんなら三倍にしてみせるよ!
領民がかわいそうだろ?頼むよ!
そうだ!君まだ独り身だろ?君ともう一度、婚約してあげてもいいよ!
それなら二人でがんばって、お金を工面できるかもしれないから!
近々、キャロル……いやキャロラインとは別れるから、それまでは彼女に内緒で会おうね!」
男らしい反面、母性本能をくすぐるこの言い回しなら、モーリーも婚約してた時みたく
「“しょうがないですね、いいですよ”」って言ってくれるはずだ!
婚約時は少し、モーリーに甘えてたから、一人でもできるところを見せてあげれば
「“こんなに男らしい方だったなんて……!私が間違っていたんだわ、全てを謝罪して婚約し直さなきゃ!”」と思ってくれているはず!
少々オーバーに言いすぎただろうか?いや、モーリーなら許してくれるはず!
チラリと彼女の顔を見る。
「……お前ともう一度、婚約なんて、たとえ王家命令だとしても、死んでもお断りだ。」
なんだその顔は。
恋する乙女のように、目を輝かせていないとダメじゃないか!
頬を赤らめて、尊敬の眼差しでおれを見ていないとダメじゃないか!
侮蔑の目で、おれを見るなんて許されない!
「……おれがこんなに謝ってるのに!下手に出てれば、つけ上がりやがって!」
彼女の肩を押さえつけ、逃げられないようにする。
これは“教育だ”おれに、反抗的な態度の彼女が悪いんだ!
諦めたように、目をつぶるモーリー。
そうだ、そうやっておれの言うことだけを聞いていればいいんだ、しかしやめてあげないよ。
やめたら躾にならないからね!
「いつまでも帰ってこないと思ったら、こんなとこで何やってんのよ。」
女の声がしたと思ったら、突然右手首に強烈な痛みが走った。
「なにをするんだ!ッい、は、離せ!痛い痛いッ!離してくれ!」
握られている方の腕を見る、クマのような大男だった。




