【元婚約者視点】“取り戻さなければ”
モーリーと婚約破棄してから数ヶ月。
相変わらずキャロラインは、仕事を手伝ってはくれない。
それどころか、“構ってくれない”とドレスに宝石にと散財したり、他所に恋人を作り始めた。
他所の恋人に入れあげてるのか、毎日のように小遣いをせびってくるせいで、家の財産が少し危ない。
……しかも、最初は、全てを包み込むようなバスト、くびれたウエスト、つきあがったヒップが
ここ数ヶ月でだらしない胸、もう一つ胸ができたのかと思わせる腹周り、垂れ下がった尻……
丸々と肥えた家畜にしか見えなくなってきた。
「“早く、結婚式を挙げましょ!”」とキャロラインから強請られているが、とてもじゃないが、そんな気になれない。
モーリーは、文句も言わずに僕に任せられた仕事を、黙々とこなしてたのに……
彼女ができてたのなら、おれにもできるはずと彼女の書類を見てみたけれど、ちっともわからなかった。
モーリーは勝手に書き換えてたんだろうか?
……こんなことならお父様たちの言う通り、キャロラインを“恋人”のままにした方が良かったのか……?
数日後、表彰式の招待状が送られてきた。
「論文発表会で、優秀な成績を収めた“マーノ・コノシェンツァ”を表彰する……」
キャロラインが「“パーティ!?行きたい、行きたい!!”」と騒いでいたが、一緒に登城したくなかった。
さすがに、その体型で着れるドレスなんてないだろうとは言えなかった。
―――
表彰式の会場で、料理が並んでいるテーブルになんだか見覚えのある顔を見つける。
……髪の長さは違うけれど、モーリーじゃないか?
これはきっと“運命”だ、日頃がんばっているおれに、神様が「“もう一度モーリーとやり直しなさい”」という思し召しだ!
クマの獣人が邪魔だな……
なんて思っていたら、クマの獣人が離れていった。やはり!神の思し召しだ!
後ろからそっとモーリーに近づく。
「……モーリー?モーリーじゃないか、どうしてこんなところに?君が来れるような場所じゃないだろ?誰かの付き添いかい?でも、君と会えたなんて、おれは神に見放されてなかったんだね!
聞いてくれ、モーリー。キャロルは魔女だった。
おれの仕事の手伝いもせずに、今は醜い家畜に成り下がっている。
お父様やお母様は、最初こそおれを褒めてくださったのに、「“モーリーよりも仕事をしない!”」と責めるけど、僕のせいじゃない!
君ならわかってくれるだろう?」
モーリーはおれの話を遮らず、うんうんと聞いてくれる。
キャロラインは、「“そんなことより、ヘイズさまぁ”」と遮るから、話した気になれないんだよな。
やっぱり、“モーリー”は“おれ”じゃなきゃダメなんだ!
「モーリー、おれは……君のことを許すよ。戻ってきていいんだ!“魔女”は、いつか必ず追い出してあげるからね!どんな醜い本性を隠している君でも、おれだけが君を愛せるんだ……!」
真剣な眼差しで、モーリーを見つめる。
こんなに真摯に“君に慈悲をかけてあげる”と言ってあげれば、彼女も戻ってくるだろう。
「……?あの、大変申し訳ないのですが、どちら様でしょうか?」
「へ?」
つい、間抜けな声を出てしまった。
「確かに、私はモーリー“でした”。ですが、貴方を知りません。」
本気でわからない、という顔をしているモーリーが無性に腹立たしく思える。
「……バカにするのも大概にしろよ!いつもおれを見下しやがって!!」
どうやら彼女は、拗ねているらしい。
まだおれの事を想ってくれてるだなんて、思ってなかった!
しかしモーリーは、おれを怒らせてしまった、ならば“お仕置”しないといけない。
昔は、「“ごめんなさい、ちゃんと言うことを聞きます”」と素直だったのに……
自分の立場を分からせなければ!
振りかぶった右手は、何者かに掴まれた。
「おれの邪魔をするな!!」
誰だ!おれは公爵家跡取りだぞ!おれに刃向かっていいやつなんていないんだぞ!!
「君は、“パーティの邪魔”だから出てってもらおうか。」
やたら顔のいい護衛かと思ったが、護衛とは明らかに違う、きらびやかな正装。
若緑色の髪に、珊瑚の目の色……
第二王子だった。
クソ、権力しか取り柄がないくせに……ヒーロー気取りかよ。
警備隊に引き渡され、出口へと連れて行かれる。
「あのぉ、すみません。どうやら酔ってたみたいで、酔いがさめてきましたぁ……
それでですね、ちょーっと飲みすぎたみたいで、その……お手洗いをお願いしても……?」
酔ってたなんて嘘だ、しかしそんなことはどうでもいい。
警備隊は嫌な顔を隠さず、舌打ちをしながらも、お手洗いの前で「“さっさとしろ”」と拘束を解く。
一刻も早くこいつらから逃げ出して、モーリー“取り戻さなければ”!




