よくある話
2025/09/11
[日間]異世界転生/転移〔恋愛〕 - 完結済▶96 位
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[日間]異世界転生/転移〔恋愛〕 - 完結済▶91 位
「―――モーリー・トレバー、お前との婚約を破棄する。」
婚約者のセリフに思考が止まる。
家の繋がりのための政略結婚、よくある話だ。
互いに愛なんてない、外に恋人を作っている。これもよくある話だ。
――しかし、最近流行りの物語みたいな茶番を、“よくある話”にしてほしくなかった。
なんで、わざわざ王家主催パーティで言うんだ。
もっと内々に片付けようとは、思わないのか?
……思わないから、こんな真似ができるんだろうな。
婚約者の横には、ライトブルーの髪、潤んだ瞳に、豊満な胸を身体に押し付けて寄り添っている令嬢が一人。
婚約者が見えない角度で、下品な笑みを浮かべている。
“どこの誰かも知らない令嬢に、婚約者を奪われたのだ”と、やっとここで理解した。
婚約者が、押し付けられている胸をチラチラと見ながら、“私がやった”という罪状を読み上げる。
……頭が痛い、早く帰りたい。
「最後に、申し開きはあるか。」
長年の婚約期間の中で、彼が私の言い分を聞き入れたことなど一度もない。
私が何を言ったところで、全て嘘だと決めつけ、“彼女はこう言っていた、おれはそれを信じる”と証拠にならない証拠をかざしてくるんだろうな…
いつも、めんどくさいからと反論してこなかったが……最後ぐらい、言い返してもバチは当たらないだろう。
「……では、ひとつ。横に居られる彼女の名前は、何と言うのですか?」
暗に、“名前も知らないような相手を、何故虐げる必要があるのか”と聞いてみたが……どうやら彼には伝わらなかったらしい。
「ふざけるな!キャロラインの名も知らずに、数々の嫌がらせをしていたのか!」
「“もう顔も見たくない!出ていけ!”」と叫ぶ彼と、顔を覆い泣いてるようにも見える彼女。
彼も私も、王家の来賓側なのに、追い出す権利があると思えるのがすごい。
――もう疲れたな、帰っていいかな。“顔見たくない”って言われたし、いいよね。
「では、私はこれで失礼します。後日、手続きの書類をお願いします。」
「お前の過失なのだから、お前が送ってこい!」
……は?
その瞬間、頭部の右上あたりから、細い糸のようなものが熱く、焼き切れるような感覚に陥った。
「浮気相手を堂々と侍らせてる挙句に、ありもしない私の罪を並べて、そして婚約破棄の書類を、私に用意しろと!?どこまで頭が空っぽなんですか!ちょっとは、自分でやるという事を覚えてください!」
「なっ!?」
いつも反論しない私が言い返したせいか、怯む彼。
その隙に後ろを向き、歩き出す。
言いたいことの三分の一も言えてないが、彼のために罵詈雑言を考え、吐き出す動力さえ今は惜しい。
この時、不敵な笑みで私を見つめる視線に気付いたが、無視をした。
「男爵家の小娘に出し抜かれるとは、とんだ我が家の恥さらしだ!即刻、荷物をまとめて出ていけ!」
どうやら彼女は、男爵家令嬢だったらしい。
パーティでのやり取りを父に報告したら、逆に怒られてしまった。
慰めてほしかったわけではない。
兄ばかり贔屓するこの家で、そんなものを期待するのは無駄だった。
だから、私は淡々と報告をするだけ。
「わかりました。それと後日、婚約破棄の書類が送られてくると思いますので、了承印だけお願いいたします。書類が一週間以内に送られてこなかったら……机の上の書類をお送りください。」
そう言って、その場から立ち去る。
彼と婚約してから、殆どの時間を、領地経営のノウハウを覚えることに費やし、出かける暇もなかった私は、一週間分の衣服などをしまえるカバンなど持っていなかった。
それでも、どうにか荷物を詰め込み、屋敷を出る。
見送りなんていない、だってこの屋敷に、私の居場所なんてなかったんだから。
街に着き、ドレスとアクセサリーをいくつか質屋に入れる。
食と住をどうにか安定させなければ……
そんな事を考えていても、世間はそんなに甘くない。
読み書きや計算は出来れど、そういう仕事を任されるのは、信用がある者のみ。
かといって、接客業をしたことがない私はヘマばかりで、長く続かない。
カバンに詰め込んできた、ドレスもアクセサリーも底を尽き、売れるものは“私の身体”だけになってしまった。
そんな時、“そこの君”と声をかけられる。
―――私の“初物”はいくらになるのだろうか。
「……私に何か御用でしょうか?」
「君、身なりはボロいけど、いい所のお嬢さんでしょ。文字とか読めたりする?」
俯いていた顔を上げる。
そこには、十代前半ぐらいの見た目をした“エルフ”がいた。