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第5話 ② 模倣

「それじゃあ、照子、行くわよ」


「うん、葵ちゃん」


「八咫鏡、解除」

 葵ちゃんの言葉に応じて、八咫鏡の内部が光輝き始める。

 気がつくと、私達はノエルちゃんと戦ったお寺の門の前に立っていた。


「おっ!? お前ら、一体どこにいたんだ? 俺は暇で待ちくたびれたぞ」

 私達の目線の先に、大きなお寺の本堂前の階段に座り込んでいるノエルちゃんの姿が。

 個人的にはそこまで時間は経っていないのだが、ノエルちゃんにとっては苦痛に感じるほどの時間だったように見える。


「ちょっとね、ノエルちゃんを倒すための相談をしていたの」


「俺を倒す? あれだけ俺に翻弄されてたのにか?」


「それはどうでしょうね? 今度はこっちの番よ」

 葵ちゃんがノエルちゃんに言い返していた瞬間、私に目配せをする。

 これは合図だ。


 私はノエルちゃんに気づかれないようにしながら、葵ちゃんから離れて、右横に走り始めた。


「どこに行くんだよ、朝日照子? 俺はあんたと戦いたいのに」

 ノエルちゃんは走り出す私に向かって子供の駄々っ子のように懇願し始める。


「あなたの相手は私で十分よ。照子と戦いたかったら、私を殺してからしなさい」


「だから、何度も言ったよなぁ。俺が戦いたいのはお前じゃないって。それにお前の力は俺に効かないって言ってるだろうが!!」

 ノエルちゃんが葵ちゃんに向かって怒りの声をぶつけているのが、聞こえてくる。


「そう殺れるものならね?」

 葵ちゃんはノエルちゃんをさらに感情的にさせるためにわざと挑発な言葉をかける。


「ぶっ殺してやる!!」

 よし、葵ちゃんの作戦通り、ノエルちゃんは葵ちゃんに食いついてくれた。


 葵ちゃんがノエルちゃんを引き付けてくれている隙に私も早く自分も役割を果たさないと。


 私がノエルちゃんを無視して走り出した理由。

 それはわざとノエルちゃんを感情的させて、ノエルちゃんの意識を少しでも葵ちゃんに向けさせるためだ。


 その隙に私はお寺の鐘つき台の後ろを目指す。

 そこには八咫鏡の入口があるからだ。


 私達が最初に八咫鏡の中から外に出てきた瞬間、瞬時に葵ちゃんが八咫鏡の入口を鐘つき台の後ろに設定。

 私はその入り口からもう1度八咫鏡の中に入ることになっている。

 あるタイミングを見計らって。


「さっきの威勢はどうした?」

 ノエルちゃんの声が聞こえてくる。


「そっちこそ」


 葵ちゃんとノエルちゃんは斬り合いを始めていた。

 ノエルちゃんは草薙剣を、葵ちゃんは八咫鏡の水の剣を。

 それぞれ速い剣速で斬り合う。


 すると、ノエルちゃんが突然、葵ちゃんとの距離を開けた。


「そう言えば、お前、俺の姿が見えていなかったな?」

 そうノエルちゃんが言った途端、彼女の姿が見えなくなる。

 これは草薙剣の能力を使っての姿隠しだ。


 私には葵ちゃんの後ろにノエルちゃんが移動して行くのが見える。

 葵ちゃんの完全な死角。

 ノエルちゃんが葵ちゃんに斬りかかろうとした瞬間。


 葵ちゃんが後ろを振り返り、ノエルちゃんに八咫鏡の水の剣で攻撃を加えたのだ。


「何!?」

 ノエルちゃんは葵ちゃんの水の剣を草薙剣で受け止める。


「そう何度も同じ手は通用しないわよ。空気の流れで自分の姿を隠しているんでしょ。八咫鏡はお見通しよ」


「テメェー」

 ノエルちゃんは怒りの叫び声を上げて、さらに葵ちゃんに向かっていく。


 ノエルちゃんの弱点。

 それは精神的に幼く、感情的になりやすいところ。


 私達を殺すことよりもノエルちゃん自身が楽しいと思えるかどうかを優先しているように思えたからだ。


 葵ちゃんとの話し合いの中で、徹底的にノエルちゃんにフラストレーションを与え続けて戦いを優位に進める。

 これがノエルちゃん攻略の1つ目の鍵。


 正直、私、個人的としてはこんなことはしたくなかったけど、ノエルちゃんが本気で草薙剣で襲ってこられたら、一溜りもない。


 でも、問題が1つある。

 それは、激昂するノエルちゃんを葵ちゃんが1人で対峙しないといけないこと。


 葵ちゃんの方を見ると、肩が上下に動いているのが見える。

 息が上がってくるのも無理もない。


「もう限界じゃね——のか? それにお前の剣も今にも崩れそうだろ」

 ノエルちゃんは草薙剣の魔力無効化で崩れそうになっている葵ちゃんの水の剣を指差しながら挑発する。


「崩れるかどうか試してみる?」

 葵ちゃんはノエルちゃんに向かって、強気に振る舞う。


「ほざけ。どうせ、やせ我慢だろ。いいぜ、乗ってやるよ。草薙剣の風で終わらせるのも興ざめだ」

 ノエルちゃんも葵ちゃんに向かって、言葉を吐き捨てた。


 私は葵ちゃんだけでノエルちゃんと戦わせてしまっているところをただ見ているだけの状況に心が痛くなっていく。


 今すぐにでも葵ちゃんの助けに入りたい。

 でもダメだ。ここで私が出てしまったら、葵ちゃんの頑張りが台無しになってしまう。


 私がそう思っていると、ノエルちゃんが葵ちゃんに突進しながら草薙剣で斬りかかる。


 葵ちゃんの水の剣は魔力無効化の力がある草薙剣との打ち合いで今にも崩れそうな状態。

 とてもじゃ、草薙剣を受け止められない。


 だけど、私の心配とは違う光景が私の目に映っていた。

 なんと葵ちゃんはノエルちゃんの草薙剣をちゃんと受け止めているのだ。


 よく見ると、ノエルちゃんの体に八咫鏡の水の腕が絡みついているのが分かる。

 水の腕が網のようになることで、ノエルちゃんの突進力の勢いを殺し、葵ちゃんは草薙剣を受け止めることができたのだろう。


「なっ、なんで止まってる!? 剣が、効いてねぇ!?」

 ノエルちゃんは目の前で起こったことに困惑していた。


「草薙剣の魔力無効化を過信しすぎたわね。確かに、“剣”自体に魔力を打ち消すことができる。でもその効果はあなたの“身体”に完全に適応されるわけじゃない。その程度の魔力無効化なら私の八咫鏡でもあなたの動きを制限させるくらいわけないわ」

 そう言い放った葵ちゃんはさらに八咫鏡の水の剣の形を変えて、草薙剣を包みこんでいく。


「バカが、そんなことしたら、てめぇの魔力が尽きちまうぞ!! バカじゃねぇのか!?」

 ノエルちゃんは焦る感情を悟られないように、葵ちゃんに煽りながら挑発する。


「そんなことは分かっているわ。私の狙いは別にある」

 葵ちゃんがノエルちゃんにそう答えている瞬間、一瞬だけ、私が今立っている方向に目配せをする。

 よし、合図だ。


 私は鐘つき台の後ろにある八咫鏡の入り口からもう一度八咫鏡の中に入った。


 八咫鏡の中に入ると、不思議なことになぜか葵ちゃんの感覚や葵ちゃんに今何が起こっているのか情報が流れ込んで来る。

 それは葵ちゃんの体や精神の状態も含めて。


 葵ちゃんがかなり疲れているのが伝わってくる。

 精神的にもかなり辛かったことも。

 

 ごめん、葵ちゃん。

 1人で無理をさせてしまって。

 でも、今、私はあなたのすぐ近くにいるよ。

 今は何もできないけど、それでもあなたの無事を思ってる。


 気づくと私は、両手を握りながら、葵ちゃんのために念を送っていた。


「確かに私の水の剣はあなたの草薙剣に崩されてしまう」

 この声は葵ちゃんだ。


 葵ちゃんがノエルちゃんに向かって叫ぶ。


「だったら何だってんだよ?」


「それなら簡単に崩されないものをここに用意すればいい!!」

 葵ちゃんの言葉と共に魔力が強くなっていく。


「八咫鏡 投射 草薙剣」


 葵ちゃんの詠唱とともに八咫鏡の水たちが光輝き始める。


「お前、一体何しやがる!? 離せって、くそ離れねぇ」

 ノエルちゃんは葵ちゃんから離れようとしても体に八咫鏡の水たちが絡みついて動けないことに焦っていく。


 焦るノエルちゃんとは正反対にどんどん八咫鏡が草薙剣を模倣し始めているのが分かる。


 なんで葵ちゃんの八咫鏡が魔力無効化のある草薙剣を模倣できるのか?

 葵ちゃんが言うには、草薙剣の魔力無効化は私の大文字や葵ちゃんの八咫鏡の水の剣のような魔力を帯びた魔力攻撃に対して有効であって、八咫鏡の模倣のような魔力操作自体を無効化することができないそうだ。


 あと、このまま状態から八咫鏡の中に草薙剣を入れてしまう手もあるけど、それはあまり現実的じゃない。

 それは草薙剣の魔力無効化があるからだ。

 そんなものを八咫鏡の中に入れてしまったら、葵ちゃんの魔力が急速に削られてしまう

 それに草薙剣が八咫鏡の中に入ってしまったら、この場ですぐに草薙剣を破壊することができなくなる。

 だったら、どうにかしてでも私達はこの場で草薙剣を破壊した方がいい。


「くそ——、剣の風で吹っ飛ばしてやりたいが、こんな近くでやったら、俺もただじゃ済まないし。よし、だったら、お前ごと押し返して。えっ、重っ!? なんで?」

 ノエルちゃんは葵ちゃんを押し返せない。


 ノエルちゃんは私達よりも一回り体が小さい。

 そのうえ、私が葵ちゃんの八咫鏡の中に入ったことで、私の体重分の重さが葵ちゃんの重さに加わっている。


「だったら、望み通り、離してあげるわよ!!」

 逆に葵ちゃんが少し飛び上がってから、重さを利用してノエルちゃんを押し返す。


「ぐっ!?」

 ノエルちゃんは葵ちゃんの攻撃によって草薙剣ごと飛ばされてしまう。


「テメェ——、よくも。っ!?」

 ノエルちゃんは怒りの表情を葵ちゃんに向けるが、すぐに驚きの表情に変わる。

 なぜなら、葵ちゃんの手元にはノエルちゃんと同じ草薙剣が現れていたからだ。


「なんで俺と同じのをお前も持ってる!?」

 ノエルちゃんは目の前に起こった信じられない事実に驚愕を隠せずに表情をする。


 しかし、私はその後の葵ちゃんたちの状況が分からなくなってしまう。


 なぜなら、草薙剣の模倣によって葵ちゃんの魔力が尽きたことで、私は自動的に八咫鏡の外に押し出される形で出てきたからだ。


 葵ちゃんが言うには、八咫鏡の術者本人の魔力がつきると、八咫鏡の中にある人間や動物などの魂を持った者を自動的に外に出すそうだ。

 代わりに魂がないスマホや買い物袋、お菓子などは外に出されない。


 私が出てきた場所はちょうど葵ちゃんの隣。

 この場所は、葵ちゃんの魔力が尽きた際、私が出てくるように葵ちゃんが事前に設定した場所だ。


「えっ!? あんた、一体どこから?」

 ノエルちゃんは突然、私が現れた状況に理解が追いついていない様子だ。

 それもそのはず、さっきまで葵ちゃんしかいなかった場所に何の前触れもなく突然、私が現れたのだから無理もない。


「行くよ、葵ちゃん!!」

 そう言いながら私は、葵ちゃんの手を握り合う形で模倣した草薙剣を握る。


「ええ」

 私は葵ちゃんの作った草薙剣に魔力を注いでいく。

 すると、私の魔力に呼応するように、葵ちゃんが模倣した草薙剣が光り始めた。


 模倣した魔力のない草薙剣に魔力を入れる方法。

 それは私の魔力を直接、草薙剣に注ぐことだ。


「ああもう本当に調子が狂うぜ。もういい、終いだ。草薙剣の風で終わらせてやるよ!! 『舞え、草薙剣!!』」

 ノエルちゃんの叫びとともに草薙剣の風攻撃が私達の方に向かって来る。


 ここからはほぼ賭けだ。


「照子、やるわよ」


「うん!!」


 私はさらに魔力を葵ちゃんが模倣した草薙剣に魔力を注ぎ込む。

 私の魔力放出技の大文字と同じ要領で。


「舞え、草薙剣」

 葵ちゃんはノエルちゃんと同じように呪文を唱える。


 私達が作った草薙剣は呪文に呼応しながら、私の炎の魔力と葵ちゃんの水の魔力を合わせた風攻撃を起こし、ノエルちゃんの草薙剣の風攻撃にぶつかり相殺したのだ。


「嘘だろ!?」

 ノエルちゃんは目の前で起こった状況にただ困惑している。


「やった、やったよ、葵ちゃん」


「ええ、そうね、照子。でも喜ぶのはまだ早いわ」


「うん」


 ノエルちゃんの方に目を向けると、ノエルちゃんは呆然と立ち尽くしていた。


「くっそ——。嘘だ、俺の、俺の草薙剣の方があんな贋作なんかに。あああ、むしゃくしゃする。そんな、なまくら今すぐぶっ壊してやる!!」


 ノエルちゃんは鬼の形相で、草薙剣を持ちながら、私達に向かって急接近する。


 私と葵ちゃんは模倣した草薙剣でノエルちゃんの攻撃を受け止める。


「ぐっ!!」

「うぁっ!!」


「ふざけたもの、作りやがって、お前らまとめて蹴散らしてやる!!」


「そんなことで感情的になるなんて、まだまだね」


「なんだと!? そんな贋作、作って、いい気になってんじゃねよ。それにお前の作った剣に魔力なんてねぇーじゃねーか」


「そうよ。私が作った草薙剣はただの器。お前が持っている本物の草薙剣には絶対に勝てない。でも私には照子がいる。この子の魔力と私の剣が合わされば本物の草薙剣に負けない!!」


「だったら、そんななまくら、俺の剣で叩き切ってやるよ!!」

 ノエルちゃんの感情の爆発に同調したのかノエルちゃんの草薙剣の魔力がさらに強くなっていく。


 私も負けじと剣に送る魔力の量をさらに増やす。


 私達とノエルちゃんはどっちも譲らない。

 お互いの力が拮抗して鍔迫り合いになり、膠着状態になっていた。


 しかし、それは長くは続かなくなる。


「っ……!」

 なぜか私達の模倣した草薙剣がじりじりと押され始めたのだ。


 私の魔力の量はまだ余裕がある。

 だけど、私の魔力が十分に模倣した草薙剣にうまく伝わりきっていないのだ。


 どうしよう。私の魔力を与えられているのに、草薙剣の出力が上がらない。

 このままじゃ、私達の草薙剣が砕かれてしまう。

 どうにかしないと。

 私がそう焦っていると、葵ちゃんが私に叫ぶ。


「うぅぅ、照子、まだ足りない。もっともっと魔力を!!」

 葵ちゃんが苦しそうに顔をしかめている。

 その瞬間、私はあることに気がつく。


「葵ちゃん、手が!!」

 葵ちゃんの手が私の魔力の影響なのか火傷を負い始めていた。

 私が初めて大文字を使ったときよりもひどい状態で、葵ちゃんの赤黒くなっている手があまりにも痛々しい。


 このまま私の魔力を模倣した草薙剣に送り続けたら、葵ちゃんの手が


「ダメ、照子、魔力を止めないで」


「でもそんなことしたら葵ちゃんの手が」


「私のことはいいから、やって!! じゃないとこのまま押し返されたら、全滅する」


 葵ちゃんの言う通りだ。

 でも、私はもうこれ以上葵ちゃんを傷つけたくない。

 だけど、魔力を送るのを止めてしまったら、それこそノエルちゃんに反撃する隙を与えてしまう。


 どうにかしないと。

 でも、どうやって。

 考えろ、考えろ、私。


 そうだ、回復させる力だ。

 私の巫女の力の前任者のあかねさんが使っていた回復の技を。


 イメージしろ。

 魔力を注ぎながら、葵ちゃんの手を治すイメージを。

 お土産屋のみちこさんの体を癒やしたように。


 与える魔力を焼き尽くす炎イメージだけでなく、優しく包み込みイメージ。


 そう、それはまるで太陽のような、冬の大地を温め、光を注いで春の息吹で花を咲かせるように。


 私はこのイメージを葵ちゃんの手に自分の魔力を重ねていく。

 何があっても崩れない、あたたかさを。


 すると、私の左手から黄色に光り輝く魔力が出始める。

 これは大文字の魔力じゃない。

 別の魔力。回復の力を持った魔力だ。


 この魔力を葵ちゃんに。


「お願い、葵ちゃんの手を治してあげて!!」

 私の叫びに呼応して左手の光がさらに強くなる。


「っ!? 痛みが無くなった? 嘘、手が!?」

 すると、突然、葵ちゃんの叫ぶ声が。


 私はたまらず葵ちゃんの手を見ると、葵ちゃんの手の火傷が急速に治っていくのだ。


 それと同時に私が魔力を与えている模倣した草薙剣への魔力の通りが格段に良くなっていく。

 この影響なのか、模倣した草薙剣から発せられる光が今までよりもさらに強くなる。


「嘘でしょ、私の魔力も回復しているの?」

 葵ちゃんは目の前で起こった現象にただただ驚いている様子だ。


「おい、何してやがる、お前ら!!」

 ノエルちゃんもこの現象に驚き、私達に向かって叫ぶ。


「よし、魔力が回復した。照子、魔力を合わせるわよ」


「うん!!」


 葵ちゃんの合図で、私はさらに集中力を上げて魔力を草薙剣に与えていく。

 だんだん私の魔力と葵ちゃんの魔力が模倣した草薙剣に合わさり混ざっていくのが分かる。


 すると、模倣した草薙剣が黄金に光り始め、ノエルちゃんの草薙剣をまた押し戻し始めたのだ。


「嘘だろ!? まだだ、俺の草薙剣はこんな贋作なんかに!!」

 ノエルちゃんは負けじと、さらに草薙剣の出力を上げてくる。


 私と葵ちゃんの2人分の魔力が合わさった草薙剣に対して、これほどまで拮抗できるなんて。

 私はノエルちゃんの潜在的な力に驚かされてしまう。


 再び膠着状態になってしまうのかと私が危惧しかけた瞬間、勝負を決めるきっかけが起こる。


 突然、ノエルの草薙剣がピキッという音をたてて、ひび割れ始めたのだ。


「そんな!? 俺の剣が」

 ノエルちゃんは自身の目の前で起こったことに動揺を隠せない表情に。


 これをチャンスと捉えた葵ちゃんが私に向かって叫ぶ。


「照子、ここで決める!! 剣が壊れるくらい、いいえ自爆させるくらいの目一杯の魔力を送って」


「えっ? ダメだよ、危険すぎるよ、葵ちゃん」

 私は葵ちゃんを制止させる。


「大丈夫。私が魔力操作でちゃんと制御するから。照子は魔力を送ることだけに集中して」

 葵ちゃんは私の目を見ながらそう口にする。


 まっすぐに私を捉える彼女の目には迷いも恐れも一切なく、絶対の自信がそこにはあった。

 その眼差しに、私の心の中の迷いや恐れがなくなる。

 私ができること。それは葵ちゃんを信じること。


「わかった、目一杯。自爆させるくらいだね」

 私は一気にありったけの魔力を解き放ち、剣に送り込む。


 ひび割れたノエルちゃんの草薙剣に向かって、私と葵ちゃんは1歩1歩、前へ前へと進んで行く。


 今あるすべての力を合わせて、私達は同時に叫ぶ。


「「いけええぇぇぇ————!!」」


 私と葵ちゃんは模倣した草薙剣を勢いよく振り抜く。


——ガキィィンッ!!

 振り抜いたと同時に、甲高い金属音が、辺りに響き渡る。


 私が音の方向に目を向けると、そこに真っ二つに砕けているノエルちゃんの草薙剣の姿が。


 ついに、私達はノエルちゃんの剣を破壊することに成功したのだ。

 でも、ノエルちゃんの草薙剣と同じように、私達の模倣した草薙剣も崩れ去ってしまう。

 すでに


 すでに剣は限界を超えていたのだろう。

 無理をさせてしまって、ごめん。

 でも、ありがとう。

 あなたがいなかったら、私達はどうなっていたか分からない。

 あなたのおかげだよ、ゆっくり休んでね。


「ぐっ、ぐあああああああああっ!!」


 ノエルちゃんは草薙剣が砕けた衝撃で体が投げ飛ばされてしまい、地面に打ち付けられてしまう。


 地面に打ち付けられたノエルちゃんは気を失っているのか、自分から立ち上がろうとしてこない。


「ノっ、ノエルちゃん!!」


 私はいても立ってもいられず、動かないノエルちゃんに駆け寄ろうとする。


 彼女は私と葵ちゃんを殺そうとした相手だ。

 でも、心のどこかで、ノエルちゃんの身を按じてしまう自分もそこにはいた。


 だけど、私がノエルちゃんに駆け寄る前に、葵ちゃんがノエルちゃんを八咫鏡の水で拘束してしまう。


「待って、照子。近づくのは危険よ。まだ何をしてくるか分からないわ」

 葵ちゃんはノエルちゃんに駆け寄ろうとする私を制止する。


「うっ、うん」

 私は葵ちゃんの呼び掛けによって駆け寄るのを止めてしまう。

 確かに、葵ちゃんが言っていることは間違っていない。

 ノエルちゃんがわざと気を失ったふりをして私達を油断させるための罠の可能性を完全に否定できない。


 だけど、ノエルちゃんは私達よりも明らかに年下だ。

 そんな子を全く気にかけないなんて、私にはできない。


 私と葵ちゃんは反撃を始める前に、八咫鏡の中で事前に話し合っていた。


 もしノエルちゃんから草薙剣の破壊もしくは、ノエルちゃんの戦闘能力を奪うことができたら、彼女を拘束すると。


 でも、そこからのことは。


 私が悶々と思い悩んでいると、葵ちゃんはノエルちゃんを拘束するために使っている水たちで彼女を持ち上げて、観察し始める。


「特に何か不審な物は持っていないわね」

 葵ちゃんがそう言うと、右手から八咫鏡の水の剣を取り出して、そのまま水の剣の剣先をノエルちゃんの首もとに近づける。


「やっぱり止めようよ、葵ちゃん!!」

 私は葵ちゃんに声をかける。


「照子」

 私の声を聞いた葵ちゃんは振り返る。


「この子は私達より小さい子なんだよ」


「照子は殺されかけたのよ」


「でも、草薙剣は折れた。もうこれ以上この子が私達を襲えるように私は見えないよ」


「それでも結界を解くにはこれしかないの」


「だからって、葵ちゃんが絶対にノエルちゃんを殺さないとといけないことなの?」


「……」

 葵ちゃんは私の問いかけにすぐに答えられないのか黙り込んでしまう。


「ノエルちゃんをここで殺しちゃったら、イザミに関することだって得られなくなるんだよ。それにノエルちゃんが私達をどうやって見つけたのかも気になるし」


「それはそうだけど」


「でしょ。ノエルちゃんが目覚めてから結界を解いてもらおうよ」


「でも相手が素直にこっちの要求を聞いてくれるかしら。それにできるなら早くここを離れたい。今、敵に襲われたら私達、一溜りもないわ」


「だったら、私が葵ちゃんの八咫鏡を経由して、結界の外に出て助けを呼んでくるよ」


「それはもっとダメ。結界の外で敵に

遭遇するかもしれないのよ。単独行動は危険すぎる」


「じゃあ、他にあの結界を壊す方法があったらいいんだよね?」


「簡単に言えばね」


「だったら、私の力でこの結界を破るよ」


「本気で言ってるの? 照子、あなた、あれだけの魔力を使ったのよ。無茶よ」


 葵ちゃんが私に急接近して、私の手を取って、そう口にする。


「大丈夫、葵ちゃん。私まだやれるよ」


「強がりはよくないわよ。魔力だってもう」

 葵ちゃんは私の手を握りながら、青い魔力を出す。

 おそらく、魔力探知で私の魔力量を見ているのだろう。


「あれ? 待って、まだ魔力が残ってる!?」


「ねっ、言ったでしょ。私まだ余裕あるから、葵ちゃんは休んでていて」


 私は葵ちゃんの手をゆっくり外しながら、結界の境界線に近づいていく。


「ちょっと、待って、照子。話はまだ終わってない」


 私を呼び止めようとする葵ちゃんの言葉を聞かずに私は駆けていく。


 ごめん、葵ちゃん。

 でも、もしノエルちゃんの命を奪わずに結界の外に出られる可能性があるのなら、私はかけたい。


 それに私は絶対に成功できるとなぜか確信を持っているからだ。


 なぜそう確信を持ったかというと、私の覚醒した回復の力にある。


 この回復の力のおかげで模倣した草薙剣に魔力を伝えきることができた。


 さっきの要領で回復の力と私の大文字を組み合わせれば、ノエルちゃんの草薙剣を壊すよりも簡単に結界を壊せるかもしれない。 


 そうこうしている内に私は結界の境界線の前に立っていた。


 私は構えてから、右手に大文字の魔力と左手に回復の力をそれぞれ込める。


 そして、私の技を発動させようとした瞬間、突然、カッと真っ白の光と共に雷が落ちたのだ。


 眩しい光とズドーンっという凄まじい音に対して、私は一瞬目と耳をふさいでしまう。


 すぐに目を開けると、お寺の周りを囲っていた結界は消えていた。


「照子、大丈夫!?」

 葵ちゃんが私の方に駆けてくる。


「大丈夫だよ、葵ちゃん。あれ? 葵ちゃん、ノエルちゃんは?」


 私が当たりを見ると、八咫鏡の水たちに拘束されていたノエルちゃんの姿が見えないのだ。


「えっ!? 嘘。剣もない!!」

 葵ちゃんは目の前で起こったことを受け止めきれずにいる。


「まさかノエルを倒すなんてさすがね」

 突然、聞き慣れない声が聞こえてきた。


 私は声のする方向に目を向ける。


 私の目に写ったのは、お寺の階段の上に立っている長く白髪の女性の姿だった。


 その女性の顔立ちはすごく整っていてかなりの美人に見える。

 身につけている真っ白な白い着物がより彼女に妖艶さを与えているみたいだ。


 よく見ると、彼女の隣には気を失っているノエルちゃんと折れた草薙剣の姿が。

 ノエルちゃんがあの一瞬であんなところに。


「あのあなたは一体……」

 私が女性に問いかけようとした時に、突然、葵ちゃんが私の前に出てきたのだ。


「照子。私の後ろにいて。アイツは。アイツはマズイ!!」

 葵ちゃんは私が今まで聞いたことのない怯えた声を発していた。


「どうしたの、葵ちゃん? あの人のこと知っているの?」

 私が葵ちゃんにそう問いかけると、葵ちゃんは私の方に振り返り、物々しい表情で口を開いた。


「照子、アレが。アイツがイザミよ」


「えっ!?」


 予想だにしない葵ちゃんの言葉に、私の体中の肌が一気に逆立っていく。


 アレが、あの人がイザミ。


 世界を滅ぼすために大震災を引き起こした張本人。

 あの人によって、私のお父さんはあの大震災の津波で死んでしまい、葵ちゃんもお姉さんであるあかねさんをイザミの手によって失っている。


 そして、今も私の妹のひなたを狙い、再び世界を滅ぼそうとしている私たちが倒すべき存在。


「でもこの子を倒せたとして、私にはどうかしら?」


 イザミがそう私たち語りかけ始めると、彼女からとてつもない圧倒的な魔力が溢れてくるのを感じる。


 ノエルちゃんが草薙剣を持った以上の魔力量。

 今の私達が戦っても到底勝ち目のない相手。

 でも、ひなたを守るためには絶対に越えないといけない存在。


 諦めるなんてできない。


 私と葵ちゃんは再び戦闘体勢に入り、イザミの出方を伺う。


 しかし、私達の行動とは裏腹に、イザミから感じていた魔力の圧迫感が薄れていく。


「でも、ダメね。さっき雷を打ったときにこの世界の活動時間がなくなってしまったわ。この場であなたたちを殺すこともできるけど、今は見逃してあげるわ」


「「っ!?」」

 あまりにも意外なイザミの言葉に私と葵ちゃんは耳を疑ってしまう。


 すると、イザミの後ろに黒い暗闇が現れる。

 私にはその黒い暗闇がまるで葵ちゃんの八咫鏡の入り口とそっくりに見えていた。


 あの空間からイザミは逃げるのだろうか?


 今まさにイザミが黒い暗闇に入ろうとした瞬間、私はたまらず彼女に叫んだ。


「待って、イザミ!! なんであなたは私の妹を狙って、世界を滅ぼそうとするの?」


 私の言葉にイザミは一旦間を置き、口を開く。


「世界を救うためよ」


「世界を救う!? あなたのやっていることはその逆でしょ。私の姉さん:月白あかねを殺したあなたが」

 すると、イザミに向かって葵ちゃんも叫ぶ。


「あなた、何も分かってはいないのね」


「何!?」

 葵ちゃんがイザミの言葉に怒りの感情を見せる。


「今を生きるあなたたちから見れば、私がやっていることは悪なのでしょうね。けれど、私が見ているのは単純な善悪じゃない。考えたことないこの世界の理不尽を。この世界が抱える圧倒的で理不尽な“根源的な絶望”を」

 イザミの声はまるで世界の裁定者のように静かにだが重く私たちの心にのしかかってくる。


「戦争、飢餓、差別、暴力——。これらを人類は数千年かけて文明が進んでも解決することができなかった。戦争のない平和なこの国でさえ暴力や差別は確かに存在する。だから私は、思ったの。いっそ全部、壊して完璧な世界に作り変えてしまえばいいってね」

 彼女は口元をわずかに歪めながら微笑む。


「世界を作り変える?」

 私はイザミのあまりにも現実離れした言葉に戸惑いを隠せない。


「ふざけるな!!」

 怒気に満ちた葵ちゃんの声が響く。


「そんな野望のために姉さんは殺されたって言うの? 完璧な世界のためなら今生きる人たちの命なんてどうでもいいってこと!?」


 怒る葵ちゃんに対してイザミはわずかに肩をすくめる。

 まるで葵ちゃんの必死の訴えを嘲笑うように。


「完璧な世界になれば、生と死の意味すら無くなるわ。あなたの死んでしまったお姉さんだって帰ってくるわよ」


 さらに、イザミは不敵な笑みを浮かべながら、葵ちゃんの心を惑わそうと甘い毒のような提案をする。


「そんなの……!」


 辺りに葵ちゃんの震えた声が響く。


「そんなの、姉さんが望むはずがない!!」


 だけど、葵ちゃんはイザミの提案を吐き捨てて拒絶する。

 その叫びには、怒り以上に、深い哀しみと、それでも甘い誘惑に負けない確かな決意だった。


 そして、そこには何よりも大好きで大切なお姉さんの尊厳を今も守ろうとする妹の姿がそこにあった。


 そんな葵ちゃんの姿が私の目には妹のひなたに重なって映る。


「そういえば——思い出したわ」

 イザミは冷たく目を細め、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「あなた、月白あかねの後ろにいた子よねぇ。まさか妹だったなんてね。よく覚えているわ。何もできずにビクビクとただ震えていたわね」


 イザミは冷たく目を細め、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「お姉さんが本当に気の毒でしょうね。だって……何もできなかったあなたがお姉さんを殺したようなものじゃない?」


「っ!?」

 葵ちゃんの瞳が大きく揺れ動く。

 表情には深い後悔と葵ちゃんが自身を責める罪悪感が浮かんでいた。


 私は居ても立ってもいられずにイザミに向かって叫ぶ。


「ふざけないで、イザミ!!」


「照子!?」


 私は葵ちゃんの左肩に手を添える。

 イザミによって葵ちゃんの尊厳を傷つけられた心を守るために。


 さらに、私はイザミに対して言葉を紡ぎ続ける。


「あなたが言っていることは間違ってる。あかねさんが死んでしまった直接の原因はあなたのはず。葵ちゃんのせいなんかじゃない!!」


 イザミは私の言葉を静かに聞いている。


「そうかしら? ただ弱かったから奪われた。ただそれだけのことよ。それに私は嫌いなのよ——何もできずにただ助けを乞うだけの存在が」


「葵ちゃんは弱くない!! 葵ちゃんがいてくれたから、私はここまで戦ってこられた。葵ちゃんは巫女やタタリ神のことを知らない私にいろんなことを教えてくれた。これ以上、葵ちゃんを侮辱しないで!!」


 私はイザミに必死に訴える。

 葵ちゃんは決して弱い子じゃない。

 迷いながらも自分の信じる道を貫き通せるそんな女の子だからだ。


 イザミは静かに私の言葉に耳を傾けている。


 さらに、私は自分自身に言い聞かせるようにイザミに向かって力強く宣言する。


「あなたがこの世界を滅ぼして完璧な世界を作り変えるというなら、私がそれを止めてみせる。私の命に代えてでも、私の妹のひなたも、葵ちゃんや千鶴さん、今を生きる人たち、この世界だって守ってみせる!!」


「ふっ、ふふふふ、はははは」

 すると、イザミが突然笑い始める。


「命に代えてでも全てを守ってみせるっね。よく言ったわ、朝日照子。それでこそあなたよ。私、あなたのこと気に入っているの」


 イザミは私を褒めるような言葉をかけたのだ。


「何を言っているの!?」


 私はイザミの言葉の意味を理解できずにいた。


「ああ、気にしないで。別に深い意味はないの。ただ私はあなたを活っているということよ。まあいいでしょう。せいぜいあがくことね。決戦の日が楽しみだわ」


 イザミは後ろを振り返り始める。


「待って、イザミ!!」

 私はイザミを呼び止めようとする。


「期待しているわよ、お姉さん」


 そう言い残し、イザミはノエルちゃんと折れた草薙剣を連れて、暗闇の中に入り消えていく。


 あまりにも底が見えないイザミに、ただただ私と葵ちゃんは立ち尽くしているしかなかった。

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