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第4話 ⑤

「まあ、目的の1つも終わったことだし。気を取り直したところで、手紙も届けに行かないと」

 葵ちゃんは私に話しかけてくる。


「それもそうだね。あっ、その前にあと少ししたら、お昼だし、どこか食べに行こうよ」


「確かにそうね。もう11時か。少し早いけど、人がいっぱいになっちゃう前に行きましょうか」


「じゃあ、行こう——」


 私と葵ちゃんはビルの中にあるレストランでランチを食べた。


 その後、私達は、東京駅からバスに乗って、東京電波塔近くで降りた。


 そして、千鶴さんにお願いされていた手紙をお寺に届けて、無事に全ての目的が終わり、今、どこにいるかと言うと。


「見て、葵ちゃん、すごいよ、東京の街がこんなに見渡せるなんて。それにあんな遠くの富士山まで見えてるよ」


 そう、私と葵ちゃんは東京電波塔の展望台に来ていた。


 東京電波塔の展望台から見える景色には、東京の街にそびれるビル群たちが東京電波塔周辺を取り囲むように建っている。


 海辺の方を見ると、東京の名所でもあるレインボーブリッジの姿も私の瞳に写し出されていた。


 また、富士山とは正反対の方向に目を移すと、日本で1番高いブルーツリーも見ることができる。


「どう、東京電波塔の展望台に立った気は?」

 私がはしゃいでいると、後ろから私に問いかける葵ちゃんの声が。


「すっ、すごく、いい!!」

 私は振り返りながら、葵ちゃんに笑顔を向ける。


「それは本当に良かったわ」

 葵ちゃんも私と同じように笑顔になっていた。


「そうだ、ひなたと千鶴さんのためにお土産持って帰ろうよ」


「それはいいわね」


 ということで、私と葵ちゃんは東京電波塔内下にあるお土産屋さんに行くことに。


「これなんてどうかな?」


 私は葵ちゃんに東京電波塔の小さなキーホルダーを見せる。


「いいわね、小さくて可愛い」


「ありがとう。ひなたも喜ぶと思う。千鶴さんにはこの東京電波塔名物のどら焼にしようかな」


「千鶴さん、甘いものも好きだし、喜ぶと思うわ」


「それなら良かった」

私は葵ちゃんの言葉に安堵する。


ふと、私はある思いになってしまっていた。


「ねえ、葵ちゃん。今日、東京に来て、すごく楽しかった。でも、今もひなたは眠ってる。私だけ楽しい思いをしてもいいのかなって思っちゃうの」


「照子」


「だからね、葵ちゃん。イザミを倒して、ひなたの命が助かったら、今度はネズミーランドに行こうよ。ひなたと千鶴さんを連れてさ」


「そうね。神宮からもランドへの直通のバスもあるし」


「そうだったの」


「本数は少ないけどね」


「でも、また楽しみが増えたね」


「そうね。そうだ、お土産、買ったら、どこか甘い物でも食べない」


「えっ、もう? さっき電波塔下のクレープ食べたじゃん。太るよ—」


「いいの。毎日、命がけの仕事をしてるんだから。これくらいは」

 葵ちゃんはほっぺを膨らませながら、抗議する。


 普段、クールな葵ちゃんがこんな表情になるのは、すごくギャップがあって、なんだかおかしくなってしまう。


「じゃあ、お土産も決まったことだし。お金、払わないと。葵ちゃんに服をおごってもらったから。今回は私に払わせて」


「ええ、分かったわ」


私と葵ちゃんは支払いを済ませに、レジに移動する。


「あれ? 店員さんがいない?」


 おかしい、お土産屋さんに入った時まで、レジに店員さんがいたような、私の気のせいだったかな。

 どこか品出しをしているのだろうか。


 私は店内に人がいないか、周りを見渡す。

 でも、どこにも人影すら見つからない。


「照子!! おかしいわ、他の店にも人がいない」


「えっ!? そんな、でもさっきまで店員さんいたよ」


「そうなんだけど、電波塔の展望台に登った時、私達以外誰もいなかったわよね?」


「確かに、展望台に誰もいなかったね。何かあったのかな? ちょっと、私どこかに人がいないか探してくるよ」

私はそう言って、両手に持っていたひなたと千鶴さんへのお土産をレジの机に置いてから、飛び出そうとする。


「待って!!」

しかし、私が飛び出そうと、葵ちゃんの手が私の手を掴んで、私を制止させる。


「葵ちゃん!?」


私が驚いているうちに、葵ちゃんは私の耳元まで顔を近づけながら、小さな声で話し始めた。


「照子、この状況は明らかにおかしいわ。迂闊にここを動くのは危険よ」


「そんな危険だなんて、葵ちゃん、大袈裟だな。もしかしたら、偶然、人がいないだけで」


 私は葵ちゃんの言葉を冗談のように返そうとするが、葵ちゃんの真剣な表情を見て、そんな言葉が出てこなくなってしまう。


 そして、少し冷静になった頭で私はある仮説が思い浮かぶ。


「嘘、待って。じゃあ、この状況を引き起こしたのはイザミの仕業ってこと?」


「まだ確証はないわ。でも、私達がこの電波塔の展望台に登るまで人がいたのよ。イザミの仕業とだしても不思議じゃないわ」


 葵ちゃんは右手を口元に当てながら、今起こっている状況に戸惑いを隠せずにいる。


 私も人が多くいた電波塔が、一瞬にしてゴーストタウンのような状況に変わってしまったことに正直に言ってすごく不気味だ。


「まさか人払い? こんなところで人払いをするなんて報告、聞いてないのに」

 葵ちゃんは右手を口元に当てながら、独り言をつぶやく。


「確か人払いって、タタリ神を知らない人がタタリ神に出くわさないために唄う祝詞のことだったよね」


「ええ、その通りよ。ただ、人払いはここみたいな都市部ではしてはいけないことになっているの」


「なんでダメなの?」


「それはね。もし都市部で人払いでもしたら、その後始末が大変なのよ。人払いをした形跡を残さないためにも情報隠蔽や関係省庁の根回し、いろいろと辻褄を合わせないといけない」


「そっ、それは確かに大変だね」


 葵ちゃんの言う通り、人がこんなにも多い東京で、急に人がいなくなったりしたら、それだけで大騒ぎになってしまう。


「それに、もし人払いするなら、事前に私たちが持っているスマホから知らせてくれるわ」

 葵ちゃんは自身のスマホを私に見せながら、そう話す。


「だけど、私や照子のスマホにそんな情報は来ていない。さっき千鶴さんに連絡をしようもしたけど、電波が圏外になっていて、連絡の取りようがないの」


 私は葵ちゃんの言葉を聞いて、真っ先に自分のスマホを取り出す。

 葵ちゃんの言う通り、スマホの画面には圏外の文字が。


「人払いの祝詞には電波遮断を起こす力はない。人払いの上に、電波遮断。こんなことができるのはイザミほどの手練れじゃないとありえないわ」


「じゃあ、もし葵ちゃんが言う通り、イザミの仕業だとして、なおさら、ここにいたらまずいんじゃ?」


「確かに照子の言う通りだわ。でも、私達が話している間にイザミは何もしてないのも事実よ。慌てて外に出て、狙撃されでもしたらそれこそヤツの思う壺よ」


「それもそうだけど、ここにいたら埒があかないよ。それにどうにかして千鶴さんや外部の人に連絡を取って助けてもらわないと。このまま、ここにいてジリ貧になったところをイザミに狙われたら、それこそまずいよ」


「それもそうね。分かったわ、外に出ましょう」


「ありがとう、葵ちゃん。でもいいの?」


「まあ、狙撃されでもしたらって照子を怖がらせるようなことを言っちゃったけど、実は八咫鏡の魔力探知で、もうこの辺り一帯に人やタタリ神、私達の命を奪うような武器はなかったわ」


「えっ、そうだったの? それなら早く言ってよ」

 私はあまりにも用意周到な葵ちゃんの姿に思わず驚いてしまう。


「ふふふ、ちょっと意地悪しちゃったわね、ごめんなさい。ただし、絶対に油断はしないでよ。どこからイザミが私達を狙っているのか分からないんだから。念のために、変身もしておいて」


「はい、善処します」


「あと、移動するとき、照子は絶対に私の隣にいて。もし銃弾が飛んできても、すぐに八咫鏡が止めてくれるから」


「でも、もし敵が千鶴さんみたいに八咫鏡の中に入って来ちゃったらどうするの?」


「そのときは、照子の出番ね」


「私!?」


「そう、照子の目ならどんな些細な変化も分かるわ。千鶴さんの動きを完全にとらえていたんだから。何か変化に気づいたら、すぐに教えて」


「うん、分かった。私、頑張るよ」


「その意気よ、照子。じゃあ、行きましょうか」


「そうだね、葵ちゃん。今から変身しようか」


「分かったわ」


 私と葵ちゃんはあの言葉を呟く。


「「神衣変身」」


 私と葵ちゃんは巫女の姿になり、お土産屋さんをあとにし、電波塔の入り口に移動する。

 入り口に着くと、私はガラス越しから外の様子を確認する。

 葵ちゃんの言う通り、人影が一切見当たらないだけで、特に何か変わった様子もない。

 私は声を出さずに少し離れたところにいる葵ちゃんに右手をOKサインをしながら合図を送る。


 声を出さないのは、敵に気づかれないためだ。

 葵ちゃんは私の合図を見るなり、右手で電波塔の外を指差す。

 この合図は外に出てあるところを目指す合図だ。


 私達が目指そうとするあるところ。

 それは皇居。

 葵ちゃんが言うには、皇居には特殊な結界があり、神のイザミでさえどうすることもできないという。


 その皇居の敷地内に入りさえすれば、そこから千鶴さんとも連絡ができるのだ。


 葵ちゃんが私の隣に立つ。

 私と葵ちゃんは息を合わせて、走り出す。


 電波塔の外に出た。

 今のところ、特に何も起こっていない。

 よし、このまま、葵ちゃんの八咫鏡の水に乗って、すぐに皇居に着ける。


 私がそう思った矢先、一瞬、視界に何かおかしなものが私の視界の端から写りこむ。

 写ったというのか、少し光が屈折したかのようなところが不自然に移動しているのだ。

 光の屈折か空間の歪みなのかは分からない。でも、明らかにおかしい。


 私はすぐに左手を下ろすジェスチャーをする。

 これはもし何か違和感を感じたら、葵ちゃんに送る合図だ。

 たとえ、葵ちゃんの視界に入っていなくても、八咫鏡の力で私の左手から発せられた空気の流れだけで、葵ちゃんはすぐに気づいてくれる。


 葵ちゃんは私の合図に気づいてくれたのか、走る速度を落としながら、八咫鏡の水を出す。

 敵の索敵と敵の襲撃に備えるためだ。


 私もおかしな空間の歪みの動きを見失わないように、目で追いながら、声を出さずに唇だけを動かして、葵ちゃんに歪みの位置を知らせる。


 次の瞬間、葵ちゃんはその空間の歪みのある場所めがけて八咫鏡の水の銃弾を飛ばす。

 しかし、水の銃弾が空間の歪みにぶつかると、何も手応えがなくただ空を切るだけ、さらに空間の歪みも消えてしまう。


 嘘、何もない。

 私の見間違い?


 私は目の前に起こったことに戸惑っていると、何かがすごく猛スピードで私の横を通り過ぎて行く。

 私がそう思った束の間、突然、葵ちゃんの叫び声が聞こえてきた。


「照子!! 後ろ!!」


 私はすぐに後ろを振り返る。

 すると、そこには私より少し背の低く、銀色の髪でツインテールをした女の子が、突然私の視界に入ったのだ。


 彼女は、自らの身体よりも大きい剣を持っていて、私に斬りかかる体勢になっていた。


 私は振りかざされる剣を見て、瞬時に剣の軌道を読む。

 剣の剣先が私の鼻頭スレスレを通り、私はなんとか難を逃れる。


 だけど、銀髪の女の子は再び私に剣を上に切り返そうと、手に力を入れた瞬間、葵ちゃんが作った八咫鏡の水の腕が少女に向かって飛んでいく。


 しかし、少女は軽々と水の腕を避けて、後ろに下がってしまう。


「完全にしとめたと思ったが、おまえ、やるな」

 少女は私に関心したのか、そう口を開いた。


「照子、大丈夫?」

 葵ちゃんが心配そうな表情で私に駆け寄ってくる。


「大丈夫。私は平気。そんなことよりあの子がここの人払いをした犯人ってことだよね」


「そう考えるしかないわ。それに私達に危害を加えにきたそれだけでも十分でしょ」


「おい、おい、何をこそこそ話してるんだ。俺のことは無視か?」

 銀髪の少女は痺れを切らしたのか、私達に声をかけてくる。

 早く私達に関心を向けてほしいのか、すごくむず痒そうな表情になっていた。


「お前、誰だ!?」

 葵ちゃんは普段、私や千鶴さんに見せないようなすごく怖い表情で女の子に問いかける。


「あっ、そうだった、そうだった。まだ名乗ってもいなかったな。俺の名前はノエル」


「ノつ、ノエルちゃんだね。私は朝日てる…」

 私がノエルちゃんに名乗ろうとしようとした瞬間。


「朝日照子だろ。それに隣にいるのは月白葵」

 ノエルちゃんは突然、私達の名前を言い当てる。


「えっ、何で私達の名前を?」


「知ってるの何も、俺がこれから初めて殺す相手の名前だからな」


「「っ!?」」

 彼女の口から出た言葉に驚きながら、私と葵ちゃんはお互いの目を合わせる。


「俺の依頼主にあんたら2人を殺せと頼まれたんだよ。まあ、あんたらに恨みはないが、こっちも仕事なんでね。恨まないでくれよ?」


「その依頼主は誰なの?」

 葵ちゃんが厳しい声色で彼女に問い詰める。


「おっと、それは言えないな。まあ、お前らなら知ってるんじゃないのか」

 ノエルちゃんはニヤリと不敵な笑みを浮かべながらそう口にする。


 彼女が言う依頼主は、おそらくイザミだろう。


「まあいい、長話もなんだし、少し場所に移そう」


 そう言ったあと、ノエルという女の子は何か呪文のようなものを唱える。


 呪文と同時に目を開けられないほどの強い風が吹き始め、私と葵ちゃんの周りを取り込むように竜巻が発生していた。


 ダメだ。

 立っているだけでも、精一杯。

 このままじゃ、吹き飛ばされてしまう。

 私がそう思っていると。


「照子、私のそばを離れないで」


 葵ちゃんの声が聞こえる。

 気づくと、葵ちゃんの八咫鏡の水が私と葵ちゃんの体を包んでいる。


「うん、離れない」

 私もそう葵ちゃんに語りかける。


 さらに、風が強くなり、私達の体は簡単に浮き上がり始める。


 それでも、私と葵ちゃんは八咫鏡の水が包んでいてくれているからか、幸い離れ離れにはなっていない。


 さらに、風は強くなり、私達の体を浮き上がらせていく。


 何がなんでも葵ちゃんとは離れるものかと私は必死に葵ちゃんの体と密着させる。


 次の瞬間、突然、風が止み、私たちの体は一気に落下し始める。


 このまま、地面に叩きつけられると思っていたけど、八咫鏡の水がクッションになってくれて、私と葵ちゃんを守ってくれた。


気がつくと、私と葵ちゃんは、千鶴さんに手紙を届けたあのお寺に立っていた。


「あはははは、どうだ、驚いたろ」

 声のする方に目を向けると、ノエルという少女が鐘つき台の瓦屋根の上に立ってケラケラと笑っている。


「まあ、せいぜい、俺を楽しませてくれよ」

 彼女は新しいおもちゃを見つけた子供のように無邪気な笑顔をしている。

 しかし、私にはそれと対照的に彼女の笑顔がすごく不気味に感じていた。

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