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カオス

作者: 雉白書屋

 私たちの日常は、一見平穏に見えても、実はカオス理論の最良の例だ。何気ない毎日も、無数の偶然と必然が絡み合った複雑系の結果に過ぎない。その中で、今日命を落とす者とそうでない者がいる。しかし、「まさか、あいつが事故に巻き込まれるなんて……」「信じられない」「だって、昨日まで普通に……」と驚く人々も、明日には自分が命を落とすかもしれない。あるいは数年後か。無自覚な精神の裏で、肉体はすでに医者からの死刑宣告に備え始めている。

 毎日のように報じられる不運な事故も、自分に直接関係なければ、神の如き態度で、指で過去へと葬り去られる。私も新聞を読むその神の一人だった。そう、“だった”のだ。

 私の朝は同じパターンの連続だった。目覚まし時計で起き、コーヒーを淹れ、新聞を読む。しかし、平穏は突如として崩れた。

 この日の朝、目覚まし時計が鳴らなかった。原因は、ハムスターが目覚まし時計をいじったからだ。

 私は慌てて飛び起き、新聞を取りに行き、コーヒーを淹れようとしたが、コーヒーメーカーのコードもまたハムスターの犠牲になっていた。仕方なくグラスに水を入れてテーブルに置き、窓を開けて深呼吸しようとした。その瞬間、虫が顔に飛びかかってきた。驚いた私は仰け反り、テーブルにぶつかった。その衝撃でグラスが倒れて、新聞に水がかかり、『小型の隕石落下』という見出しが、濡れた灰色に染まっていった。こうして、私の朝は完全に狂ってしまったのだ。


 針路を戻そうと思い、いかに萎えた気分を奮い立たせても無駄だった。この歯車の狂いは、家の中だけに留まらなかったのだ。

 電車は人身事故で遅延しており、いつもとは違う路線を使わざるを得なかった。大幅に遅れて会社に着くと、なんとエレベーターが故障していた。階段を駆け上がったが、会議に遅れた挙句、息切れを起こし、プレゼンテーションは私のASMRのお披露目の場となった。その結果は言うまでもない。

 昼休み、飲み物を買おうと自販機に硬貨を入れたが、機械は私の硬貨をサービスだと思ったのか、タダ食いし、何も出してこなかった。

 何一つうまく回る気がせず、私はまるで故障した機械のように煙を上げながら、この日の仕事をなんとか終えた。

 帰宅して、ようやく一息つけるかと思ったが、私はまだカオスの最中にあった。部屋はハムスターに完全に荒らされていたのだ。ハムスターは冷蔵庫の中身を食い荒らし、パソコンを破壊し、通帳を引き裂き、靴下をベッドの下に隠し、靴をファックした。

 そして、最悪なことにスマートフォンを水没させた。泣きそうになった私が洗面所で顔を洗おうとした際、手から滑り落ちたのだ。

 それは自分のせいだろう? いや、違う。私はこの一日を振り返り、カオス理論を深く理解した。私たちの日常は、蝶の羽ばたきが嵐を引き起こすように、小さな出来事が連鎖的に大きな影響を与えるものだ。そして、あのハムスターは、その「蝶」だったのだ。

 朝、あのハムスターを無視し、手を打たなかったことで、私の日常の綻びは広がり、この悲惨な未来を招いてしまったのだ。

 原因が分かってよかった。その対処法も……だが、ここで一つ問題がある。私はハムスターなど飼っていない。

 では、あれはなんだったのか。朝、目にしたあの素早く動くあれはなんなのか。私がハムスターと決めつけたあれはなんなのか。今、風呂場のドアを開け、出てきたのは……


 ああ、私の日常はもう元に戻らないのかもしれない。小さな異変が今や大きくなり、そしてもっと大きく、さらに巨大に……

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