絶対に負けられない戦いがここにはある。
――あの騒動から一ヶ月。
私が自室で紅茶を嗜んでいると、予定に無い来客の知らせが届く。
少しため息をつき、ゆっくりと支度をして来客のいる部屋に入る。
「遅いッ!あまり私を待たせるなッ!」
「突然の訪問に対応しただけでも感謝してほしいものです。」
私が部屋に入るなり怒鳴り散らす、あまりに非常識な客。
「それで?何のようですか?」
「ふんッ!今ならこの私ともう一度婚約する権利をやるッ!貴様にとって悪い話ではないだろう!」
開いた口が塞がらないとはこのことか。
なぜ未だにやり直せると、そして自分が上だと思っているのか。
「はぁ。何を勘違いなさっているのかは知りませんが、私と貴方が婚約を結び直すなど、金輪際ありえません。口に出すだけでも虫唾が走ります。用がそれだけならどうぞお帰りください。」
そういって席を立ち上がろうとすると焦って止めようとしてくる元婚約者様。
「ま、待て!私のことが好きだっただろう!その私がまた婚約を結ぼうと言っているのだぞッ!あの男爵令嬢とのことは、一時の気の迷いだったのだ!またやり直そうではないか!」
「そうですねぇ…。それなら自分が悪かったですと謝罪を。」
私が謝罪を促すと、元婚約者様は仕方なくと言った体で言葉を口にする。
「分かった分かった。私が悪かった。これでよいだろう。」
勿論、そんな謝罪で許すわけもない。
許すつもりもない。
「はぁ。なにも…なんにもよくないわよッッ!私に許しを請うならばッ!私の足元に跪きッ!頭を地につけ許しを請いなさいッッッ!!それをしないことには、なにも聞くことはありませんッッッ!!!」
元婚約者様は顔を真っ赤にしながらこちらを睨む。
しかし、さすがにここで暴言を吐くのはまずいと思うのか、私の言葉通り跪き、頭を地につけて謝罪する。
「……すまなかった。許してくれ。」
私は笑顔でゆっくりと言い放つ。
「い、や、で、す。」
「お前えぇぇぇぇぇぇッッ!!!」
ものすごい形相でつかみかかろうとしてきた元婚約者様を、傍に控えていた護衛が制圧する。
「最後は暴力なんて最低ですね。まぁ、使用人もいない、お金もない、女にも捨てられた、こんな人間もう会うこともないでしょう。」
「お前ェ…許さないからな…。この私にこんな屈辱…!」
「許さない…?許していないのは私ですッッ!!貴方のような者に一時でも心を寄せていた自分が恥ずかしいッ!!親友を悲しませたことが腹立たしいッ!」
「うるさいうるさいうるさいッッ!」
そういって道理の分からぬ子供のように暴れようとする元婚約者様に最後の言葉をかける。
「はぁ…。もういいです。ちなみに貴方はあの男爵令嬢と共謀し、我が家の商品を盗んだ罪状でお二人共、犯罪奴隷として扱われることになります。この先、どういう仕打ちが待っているのかはわかりませんが、せいぜい頑張ってくださいね。では、ご機嫌よう。」
「は…?おい待て。冗談だよな?リーブ?……リーブうぅぅぅぅ!!!」
護衛に引きづられ部屋から出ていった元婚約者様。
気持ちを、想いを、尊厳をかけた戦争だった。
内容は完勝と言える。
しかし、想定以上に相手が弱かったからなのか、それともほんの一欠片でも私に気持ちが残っていたからなのか、
「――存外、虚しいものですね…。」
その後、元婚約者様は犯罪奴隷として鉱山へ、男爵令嬢は娼館で働かせられたという。
私はというと、親友の結婚式に出席したり、その場で出会った隣国の貴族に見初められたりするのだが、それはまた別のお話。
「――リーブ。この5回目のプロポーズで最後だ。君の芯の強さと優しさに惚れたのだ。どうか私に、君と永遠にいる権利をくれまいか。」
誰かが言った。
「――もうッ!分かったわよッ!私の負けよッ!こんなに言われないと愛されてるって信じれない面倒な私だけどッ!……こちらこそよろしくお願いしますッ…!」
恋は戦争だと。
親友であるファインド侯爵令嬢のお話も書きましたッ…!
この物語のキャラクターは出てこないので、ほぼ別作品の様な形ですが良ければぜひッ!
『私の為だ。公爵様は必ず言う。』
https://ncode.syosetu.com/n5530kj/