目覚め③
ガストの悲鳴が夜の孤児院に響く。
ソウルの足元から現れたのは岩でできた蛇。それは地面を噛み砕いて足元からソウルに食らいついた。
「あぎっ、ぎゃああああああぁ!!!!」
ソウルは自身のあばらがボキボキと悲鳴を上げる音を聞いた。体に焼きつくような激痛が走る。痛みのあまり息を吸うこともままならなかった。
「あーあー、かわいそうに。魔法も使えずにやられちゃったねぇ。あ、もしかして、この孤児院で魔法が使えないガキがいるって聞いたけど、あいつかぁ」
男はケラケラと悪趣味な笑い声を上げる。
「やめて!ソウルを離して!」
「だぁからぁ、言ったっしょ?目当てはおめぇさんだけなのよ。おめぇさんが大人しく付いてきてくれりゃあ、俺はこれ以上なにもしねぇよ?」
「分かった……!ついて行く!ついて行くからソウルを、みんなを離して!」
「や……やめろ、ガスト……!」
ライが何とか体を動かす。
「うるせぇよ」
ドゴッ
しかし、男がライの方を睨み左手を振ると地面からから岩が突き出してライの体を吹き飛ばした。
「ぐがっ?!」
「っ!!」
それを見たガストは意を決したように男を睨み、叫んだ。
「こ、これ以上やるなら!」
ガストはポケットからペンを取り出すと、自身の首に当てた。
「こ、このまま……ペンを刺します!」
ガストは震えながら男を睨む。
「ちょ、待て待て。おめぇは大事な商品なんだ!」
男は明らかに動揺し、頭を抱える。どうやらそれ程までにガストの身が重要らしい。
「分かった……分かったって。しゃーねぇなぁ。おら、離してやるよ」
しばし考えた後、男が手を振る。岩蛇は口を開け、ソウルはどしゃりといって地面に落ちた。
「ソウル!」
ガストがソウルに駆け寄ろうとする。
「あぁー、行かせねぇよ?」
しかし男はそんなガストを捕まえてしまう。
「離して!ソウルが死んじゃう!」
「だーめだって、これ以上言う事聞かねぇなら……あのガキ、まじで殺すぞ?」
男はガストの耳元で身も凍るようなドスの効いた声で宣告する。
その声にガストは恐怖で固まってしまった。
このガキにとってあいつは特別なのだろう。ならばあれを餌にこいつを言いなりにできるはずだ。
「よぉし、それでいい、それで……」
男は満足気にそう言うとボロ雑巾になったソウルの方へ目をやる。
「……あ?」
しかし、そこで横たわっているはずのソウルがいない。そう思った瞬間だった。
「うぉああああぁあぁあ!!!!」
ガストの影からソウルが木剣を振りかざして飛び出してくるのが見えた。
「ちいっ!このガキ……」
ソウルは男がガストに気を取られた一瞬の隙を見逃さず距離を詰める。
いってえええええ!?体がぶっ壊れる!?
心で悲鳴を上げて全身の痛みに耐える。止まるわけにはいかなかった。この瞬間にかけるしかない。
ここでこの男を倒せなければ、ガストが連れていかれる!
「なめるなよ!?【ロッ」
「おせぇ!!」
ソウルは男の脇腹に大きな横ぶりの一撃をぶつける。
これでもか、と踏み込めるだけ大きく踏み込み、少しでも大きく男に衝撃を与えんとした。
ドシィィッ!!
あまりの衝撃に木剣は真っ二つに折れ、男はぶっ飛ばされる。
「ぐがぁぁぁあ!!」
そして男は2、3転地を転がると、そのまま仰向けになって動かなくなった。
「っ!はぁ、はぁ」
ソウルはそのまま地面に転がりながらも男が倒れたことを確認する。
「ソウル!大丈夫!?」
すると、ガストが慌てて駆け寄ってきてくれた。
「【水霊】のマナ。【アクアキュア】」
そしてガストは回復の魔法を唱える。
温かい光に包まれたソウルの体の痛みが和らいでいく。
ガストの治癒力の凄まじさを感じた。おそらく致命傷だった蛇に噛まれた傷もみるみる塞がっていく。
「よし……早く人を呼んであいつを……」
「あー……よくもやってくれたねぇ?」
「「!?!?」」
声のする方へ顔を向けると男が立ち上がっている。
まずい、倒しきれていなかったのか!?
ソウルが身を起こそうと地に手をつく。
しかし、それよりも早く男が左手をかざすと岩の球体がソウルとガストの身体を吹っ飛ばした。
「きゃあっ」
「ぐあっ」
ソウルとガストは地を転がる。
「このガキ、絶っ対許さねぇ」
男は血走った目で男はソウルを睨む。そしてミシミシと音を立てながら男の頭上に岩の槍が形成されていく。
その声と表情には一切のためらいもない。
「【地】のマナ……」
ソウルは身を動かそうと踏ん張るが体が動かない。男が一歩、また一歩と近づいてくる。
「く…そ……」
木剣は折れて防ぐこともできない。
諦めるな、何か手は……何か……!
ソウルは迫り来る恐怖に震えながらも策を考える。だが、何も浮かばない。
そして男はソウルのその様を悪魔のような形相で睨み、冷酷に言い放つ。
「死ね、【ロックジャベリン】」
その瞬間。ぐしゃあっという生々しい音と共に夜の孤児院に血飛沫が舞った。
岩でできた槍が胸を貫く。
ぐしゃあっと肉を貫く生々しい音が辺りに響き、口からは止めどなく血が溢れる。
「ソ…ウル……」
そのまま膝をつき、ドサッと音を立ててガストは倒れた。