目覚め②
ソウルとガストはお互い顔を真っ赤にしながら孤児院に帰り着く。
「じっ、じゃあおれ、木剣片付けてくるわ.......」
「じゃあ私は先に戻ってるね?」
そう言ってガストは一足先に中庭から孤児院の方へ向かった。
「あー……」
木剣を門の近くに立てかけながらガストの唇の感触を思い出す。
「あれ……キスだよな?」
言葉に出してみると頬が赤くなるのを感じる。次どんな顔をしてガストに会えばいいか分からない。
だが、心は羽のように軽く、心臓の動悸が収まらない。
「落ち着け……!」
シルヴァに知られてみろ!?またいじられる!そんなわけにはいかないと、ふうと息を整えながら孤児院を見る。明かりが消えた孤児院はまるで廃墟のようだった。
「……ん?」
しかし、まだ寝る時間には早い。何かおかしいと思ったその時だった。
「きゃあっ」
遠くでガストの悲鳴が聞こえる。
「!?」
木剣を掴み、声の方へ走る。何かまずい事が起きている。直感でそう感じたソウルは中庭へ向かった。
中庭に出ると、そこには見知らぬ背の高い男が立っている。
髪は重力を無視したように逆立ち、サングラスをかけていて顔はよく分からない。
ベルトにはジャラジャラした鉄製のドクロを模したアクセサリーがついており怪しい雰囲気をさらに不気味なものにしていた。
「おや?まだガキがいたのかな?」
男はネチネチとした蛇のような口調で告げる。
「離してっ」
そしてガストがその腕の中で暴れているのが見えた。
その後ろには縛られた孤児院の子どもたち。そして倒れたシルヴァと赤い髪をしたソウルと同じ歳の少年ライがいた。
「っ!みんな!?」
ソウルは状況を飲み込み切れないままに叫ぶ。
襲撃だった。
だが、こんな孤児院に金銭があるとは思わないだろう。だとすれば、この男の目的は何だ?
「狙いは……ガストだな?」
「それを知ってどうするのかな?」
男はにやにやしながら答える。
治療系魔法の才能は貴重だ。
治療の才能は個人のマナの性質に大きく左右される。才能が無いものがいくら修行をしても治療系魔法が使えるようにはならないのだ。
しかも治療魔法のマナを持つ者はとても少ないと聞く。
そのような中でも、ガストは致命傷のような傷も全快するほどの力を持っている。下手をするとガスト1人で第1級騎士団以上の価値があった。
「てめぇ、一体ガストのことをどこから……」
「おやおや、他人の心配をしている暇があるのかい?」
そう言って男はこちらに左手をかざす。
「【ロックジャベリン】」
すると、何も無い空間に鋭くとがった岩の塊が現れ、まるで槍のようにソウルに飛来する。
「っ!?」
ソウルは横に転がりそれを回避した。
ドスンッ
ソウルがさっきまで立っていた場所に岩の槍が突き刺さる。
「おぉ?なかなかやるじゃない」
さらに続けて男はマナを溜め始めた。
「【ロックジャベリン】」
そして次々と岩の槍が現れてはソウルに目掛けて飛来する。
「おおおおおおお!?」
迫る岩槍をソウルは全力で走りながら回避していく。岩槍は孤児院の壁にグサグサと突き刺さり、孤児院を破壊していった。
「あっははは!面白いガキだなぁ。じゃあ、とっておきを見せてやるよぉ」
そう言うと男は手を固く握りしめながら詠唱する。
「くらいつけ、【ロックサーペント】」
そう言うと、男は左手を地面につけた。辺りに軽い地震のような地響きがする。
「な、なんだ?」
ソウルは警戒して男を睨む。
どこからどんな魔法が飛んで来るかわからない。魔法で対抗できないソウルは男の一挙一動も見逃せなかった。
でも、それはあいつも同じことだ。
相手の隙をつき、一気に畳みかける。魔法が使えるライを相手に試合をして何度か成功させたことはある戦法だ。それしかない。
「だめだ、ソウル……」
その時、倒れたライが掠れた声をあげる。
「下だ……!」
「下!?」
ソウルが下を見るとミシィっと音を立てて地面が割れた。
「もう遅いよ?」
ドンッ
男の声が聞こえたかと思うと同時に体を鈍い衝撃が走り、視界が真っ暗になった。