目覚め①
西の堀を後にしながらソウルとガストは暗くなった村を歩く。
「すっかり遅くなっちまったな」
「そうだね」
まばらに人は歩いているが、昼のような活気はなく物静かな様子だった。
暗い村の中には所々に鉄の柱が立っており、その中にはぼんやりと光を放つ魔石灯が備え付けられている。
「何か起きた時に、ないよりマシだろ?」と言ってマックスから無理やり渡された木剣を背負いながら2人は夜のツァーリン村を歩く。
「最近仕事はどうだ?」
沈黙に耐えかねたソウルはガストに尋ねる。
「んー、いつも通りかな」
ガストは微笑みながら答えてくれるがまたすぐに沈黙。
昔ならもっと何も考えずに会話できていたはずなのだが、最近は特に会話の内容に困ることが増えた。
お互い仕事で顔を合わせることが減ったことも原因の一つかもしれない。
「あ、そうだ」
すると、ガストは思い出したようにどこか遠くを見つめながら告げた。
「いよいよ、来週だね」
「……あぁ、そうだったな」
来週はガストとライが魔導学校に入学する日。2週間ほど前に案内の手紙が3通届いていたのだ。
「ウィルも、行けたらよかったのにね」
「あぁ。でも、俺は嬉しいよ。だって、あいつも国に認められた優秀な魔法使いだったってことだろ?この孤児院から3人も魔導学校入学者が出るなんて、誇らしい事じゃないか」
そう言ってソウルはにっとガストに笑いかける。
「ソウル、無理してない?」
そんなソウルにガストは恐る恐ると言った様子で尋ねた。
「そりゃあ、さ」
ソウルは薄暗くなった空を見上げて続ける。
「お前らと一緒に、魔導学校に入学したかったさ」
騎士とは、この国の秩序を守るために魔法と武術を持って戦う戦士のことで、子どもだけでなく国民全員にとっての憧れの的だった。
高明な騎士の数々は皆、イーリストで選抜された魔導学校の卒業生がその名を連ねている。つまり、魔道学校入学に選ばれた者は騎士になる切符を手にしたのと同義。
魔法の使えないソウルはその時点からハンデを背負っている。
「でも俺は諦めない。だってウィルと約束したんだ。この国を守る立派な騎士になるんだって」
それでもソウルは諦めていない。
かつての親友、ウィルと読み漁った【騎士道物語】。騎士への憧れを胸に2人で夢を語らった。
その親友はもうこの世にはいないけれど、それでもウィルとの約束はソウルの心に確かに刻まれている。
魔法の使えないソウルにそんなことはできないと誰もが感じるだろう。それでもソウルは諦めるつもりはない。
どれだけ時間がかかろうと、どれだけ苦難が待ち受けていようとも。いつか必ず騎士になってみせると誓っていた。
ガストは目を丸くしていたが、やがて優しく微笑んだ。
「なれるよ、ソウルになら」
そしてガストはソウルの手を握った。
「もう、たくさん守ってくれてるよ?孤児院のみんなも、シルヴァも。もちろん、私も。これからソウルがいない所に行くけど、これからは私も1人でもやって行けるように頑張りたい。そう思えるようになったのはソウルの……みんなのおかげなんだよ」
そう告げるガストの目から涙が溢れてくる。予想していなかったガストの反応にソウルは慌てふためいてしまう。
「ちょっ、泣くなって!あー.......どうしようハンカチとかどっかに...」
ソウルが慌ててポケットに手をやっていると目の前にガストの顔があった。
「好きだよ、ソウル」
そしてソウルが何か言う前にソウルとガストの唇が重なる。
「っ!」
今起こっていることが理解できずに固まっていると、ガストはすっとソウルから離れた。
「だから学校を卒業したら、私がソウルを一生守ってあげるね?」
それは今まで何度も見てきたガストの笑顔のはずなのに、妙に心に刻まれたような気がした。