錬金屋②
マルコに背中を押されて、約束の時間の10分前には待ち合わせの広場にたどり着く。
男の子なんだから、女の子を待たせちゃダメよ!?とのこと。
「お、お待たせしました」
約束の時間の5分前。広場のベンチに座っているソウルにオリビアが声をかけてきた。
「お、オリビア。待ってた……ぞ 」
そこに現れたオリビアを見て、ソウルは思わず見惚れてしまった。
これまでのオリビアは地味目な服を着ていた。しかし、目の前の彼女は薄手の白いワンピースでとても可愛らしい。
胸元も少し開けて目のやり場に困る。白い肌が太陽の輝きを受けてより輝いているようだ。
周りの男も「おぉ」とオリビアを見ているのが分かった。
「えーと.......どうですか?」
モジモジした様子のオリビアが尋ねた。
「え、えーと.......その.......似合って.......る」
ソウルは照れくささに負けそうになりながらもかろうじて応える。言ってからかえって失礼だったか、と少し後悔した。
「っ。やった!」
しかしオリビアはとても嬉しそうに小さくガッツポーズをする。うん、可愛らしい。
「じゃ、じゃあ、行こうか」
「はいっ」
こうしてソウルは満面の笑みを浮かべるオリビアと街へ繰り出した。
市場にたどり着いたソウルはオリビアの案内に従って必要な物を買い出していく。
「この辺りは食材関係であっちが魚介類、こっちが野菜関係ですね。それとこの辺に行くと衣料品が揃ってますよ」
オリビアがテキパキと説明してくれる。この手際の良さ、オリビアもよくこの辺りで買い物をしているのかもしれない。
「じゃあ、この辺のものはここで手に入りそうだな」
マルコに手渡されたメモを指差しながらソウルは頷く。
「はい。ただ、食材は後にしましょう。今買っても回ってる間に傷んでしまうので」
春の暖かな日差しの中で生ものを持ち歩くのは良くないだろう。ちなみに店の商品は水のマナが込められた魔石で冷やされて痛まないようになっているらしい。
こう言った魔石やソウルの持っていたマナを付与された装備は【錬金術】と呼ばれる魔法で錬成される。
数々のマナを組み込んで発現する【錬金術】は本当にそれに長けた才能がある者にしか扱えないと言われているのだ。
まぁ、魔法がほとんど使えないソウルにとってはそれがどれほど凄いことか検討もつかないわけだが.......。
「それじゃあ、大体の見当はつきましたし、先にソウルさんの装備を見に行きませんか?」
オリビアの言う通り、痛む心配のないソウルの装備を先に買ってしまう方が効率がいいだろう。
「そうだな。どっかいい店知ってるか?」
「えぇ。こちらですよ」
そう言ってオリビアは近くの錬金屋にソウルを招き入れる。
その錬金屋は全体が濃い紫のテントになっており、一際目を引く派手な作りになっていた。
暖簾をくぐって店の中に入ると全体は薄暗く、何やら薬品の匂いが立ち込めている。そして所狭しとさまざまな錬金術のアイテムが並べられていた。
「いらっしゃい」
そして声をかけてきたのは今にも倒れそうなほどフラフラしている老婆だった。この店大丈夫か?と不安になる。
「安心してください、この店の店主はとても腕がいいんですよ?」
するとオリビアはソウルの気持ちを察してかボソリとそう告げた。
「兄さんや、何を探してるんだ?」
「や、闇の力を付与したマントと、その他適当にもろもろ」
ソウルは冷や汗をかきながら答える。
「ふむ。それではこちらでいかがさね?」
老婆は震える手で側にあった黒いマントを広げた。
「おぉ!?」
ソウルは驚愕する。
前のマントはシナツにかなり吟味して選んでもらったおかげで値段の割に強い力を有していたが、このマントはそれよりも更に強い力を持っているように感じた。
「すげぇな、婆さん!?いくらだ!?」
ソウルは財布を引っ張り出す。
「ふむ」
すると、老婆はソウルと腰の剣を見比べ始めた。
「えーと……何か?」
ソウルはじっくりと観察されているようで居心地が悪くなった。
「いや、何でもないさね。マントは100イリス金貨だ」
「うげ.......」
ソウルは頭を抱える。これまで流浪の身だったし、とても手が出せる金額ではない。
「だが、今回はこいつをくれてやってもいい」
「え、なんで!?」
「条件を2つ飲むなら、ね」
すると老婆は震える指を2本立てた。
ソウルは怪しさ満点の提案に警戒する。
「じょ、条件?」
「1つ。これから何か錬金術の品が必要になった時は、うちによること。可能な限り品を揃えてやる」
そう言って指を1つ折った。
「そ、そんなこと?」
この老婆怪しい、怪しすぎる。
「2つ。わしが言った品を買っていくこと。ぼったくったりしないし、お前さんの予算内で収まるように工面してやる」
「お、おぅ?」
ますます分からなくなる。何故、ここまでしてくれるんだ?何の意図があるのだろう。
「意図なんかないさね」
「心を読むな、婆さん」
ソウルはすかさずツッコミを入れる。
「なに、ちょっと昔にした約束があるだけさ。あまり気にする事はないよ」
「???」
もうソウルは目の前の婆さんが何を考えているかさっぱり分からなかった。
「さてどうする、兄さんや」
そんなソウルを置いてけぼりにして婆さんはソウルの目を見る。
「.......」
ソウルに人を見る目があるとは思えないが、この婆さんはなにか企んでいるようには見えなかった。.......信じて、みようか?
「……分かった。条件を飲むよ」
悩んだ末にソウルは頷く。
「よし、じゃあこいつはあんたにくれてやる」
そう言って老婆はソウルにマントを手渡した。
「あと、こいつも一緒に渡しておくよ」
そう言って老婆は1つの釘のようなものを渡してくる。
「なんだこれ?」
ソウルはそれをプルプルと振りながら尋ねた。まるで、テントを張るときに使うようなペグのような金属の槍のようだ。
「そいつの名前は【爆砕針】」
「えらく物騒な名前だな」
「あぁ。そいつは対象にぶっ刺せば内側からそいつを爆発する」
「ば、爆発ぅ!?」
老婆の説明を聞いて、ソウルはうっかり手を滑らせそうになる。
「そんな危ねぇもんなら先に言えや!?」
うっかり落として地面に突き刺してみろ!?この店ごと吹っ飛ぶところじゃないか。
「そいつがあれば脆くなった岩盤ぐらいは壊せる」
「壊してどうすんだよ……!」
ソウルが行くのは遺跡の護衛だ。破壊じゃない。一体こんなものがどう役に立つというのか分からない。
「うまく使えば……大切な何かを守れるかも知れない。まぁ、あんた次第さね」
そして意味深なことを告げる老婆と受け取った【爆砕針】を見比べつつ、ソウルはそれを懐にしまうのだった。




