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剣の稽古

  今日のソウルの仕事は、村の堀の修繕だ。前の大雨で崩れてしまったらしい。


 堀に到着すると、まだ始業まで時間があるためか、人がまばらにしか揃っていないようだった。


「おぅ!来たかソウル!」


 辺りを見渡していると、褐色の肌に筋肉隆々の腕を見せつけるようなタンクトップを着た30代前半の男が声をかけてくる。


 若くして大工の棟梁を任せられているマックスだ。


「おら、今日は堀の修繕だ!大体のことは土の魔法使いがやってくれるから、俺たちがやるのは最後の仕上げだからな!」


 マックスは快活な声を上げる。対するソウルはあははと苦笑いで返しながら作業の様子を眺めた。


 魔法が使えないソウルの仕事は、このような雑用や魔法で手が回りきらないような職人技や力仕事しかない。


 作業を観察していると、どうやら堀のあったであろう場所で何人かの魔法使いが手慣れたように詠唱すると、土はまるで意志を持ったようにクネクネと動き出す。


 魔法で土を盛り上げながら堀の大まかな形を作る様子を見ながらソウルはため息をついた。


「やっぱ、すげぇよなぁ」


「がっはっは!相変わらずしょげてんなぁ」


 そんなソウルを見てマックスは笑いながら肩を叩いてくる。


「るっせぇなぁ。生まれた時から魔法を使えないんだ。憧れたっていいだろ?」


 拗ねるようにソウルは呟く。


 この世界で魔法を発動させる生命の力の根源、【マナ】。


 マナは火、水、雷、土、風の基本属性。後は少し特殊な闇と光の属性に分けられる。


 生きる力の源なのだから、どんな人間にも強弱はあれどマナが宿っているのだ。


 そうだと言うのに、何故かソウルはマナがないらしい。つまりは魔法なんてまがりなりにすら使ったことがないのだ。


 だからソウルにとっては魔法を扱うなんてことは夢のまた夢。一体どんな感覚なんだろうと思っている。


「ったく」


 そう言うとマックスはソウルに木でできた剣を投げてくる。


 その手に馴染んだ木剣は吸い込まれるようにソウルの手の中へと収まった。


「だから、こうして剣の稽古してやってんだろ?ほら、あっちの作業が終わるまで、打ち込んできな!」


 そしてマックスはそう言って木剣を構えたので、ソウルも慌てて木剣を構える。


 マックスも生まれつきマナが弱く、魔法がほとんど使えないそうだ。だが彼はそれでもめげることなく、男筋肉一本と、体を鍛えて皆から一目置かれる存在になった。


 そして、魔法が使えないと宣告されたソウルの存在を知ってか、ある日突然孤児院へやってきて「お前にできる仕事を教えてやる!」とソウルを引きずり出してこの仕事へと連れ込んだ。


 最初は誘拐か何かと思ってビビったものだ。


 シルヴァは面白がって「いいぞ!もっとやれ!」とはやしたてていたっけ。


 そしてその繋がりでこうして剣の稽古をつけてもらえるようになったのだ。


「お、今日もやってんなぁ」


「マックス!手加減してやれよ!」


 周りの作業員からも野次が飛んでくる。いつもの見慣れた光景にソウルはふぅと一息つく。


「いくぞ!」


 まずソウルは大きく踏み込み上段から剣を振る。対するマックスはそれを横に弾いた。


 そしてソウルは弾かれた勢いを利用して一回転、横振りの追撃を放つ。


 流れるような連撃に、周りからおぉ!と歓声があがる。


「っと!」


 しかしマックスは身をよじらせてすんでのところでかわす。


「ちっ、当たったと思ったのによ!」


 しかし攻めの手を緩めるつもりはない。そのままソウルは足を踏ん張ると強烈な連打を叩き込んでいく。


 もっと速く。


 心で自分を鼓舞しながらどんどん速さを上げていく。マックスのパワーにはまだまだついていけないが、速さでならまだ張り合える。


「まだまだ甘いってんだよ!」


 しかしマックスが大きく剣を弾き、強引に連打を止めに来る。弾かれたソウルは少し仰け反るような形になった。


「今度はこっちの番だなぁ!」


 そしてマックスも大きく上段斬りを仕掛けてくる。ソウルの小手先の技術をその強力な力で全部ねじ伏せようとしてくる。


「ふっ!」


 ソウルはそれを剣で受け止める。だが、そのままでは剣のガードごと吹き飛ばされそうだ。ソウルは剣の角度を変えてマックスの一撃を受け流す。


「っ!」


 マックスの剣撃はソウルの剣を滑るようにして逸れ、隙が生まれる。


「一本!」


 ソウルが自信満々に剣を振る。


 よし、とった!ソウルが勝ちを確信した瞬間だった。



「なんてな」



 不敵な笑みを浮かべるマックスは崩れかけた体勢のまま強引に剣を振り上げた。


 バシィン!


「あぶっ!?」


 下から振り上げられた刀身はアゴを直撃しソウルはあお向けに倒れる。


 あぁーと遠くから作業員の残念そうな声が聞こえた。


「あぁ...やられた」


 意識が薄れていく。


「次は.......」


 消えゆく意識の中でソウルは言葉を振り絞る。


「次は...絶対一本とってやる」


 そしてソウルはそのまま意識を手放した。


「あぁー、やりすぎたな」


 マックスは白目を向いて倒れているソウルを見て呟いた。


「ばかやろう!相手は12歳のガキだぞ!?加減ってもんを知れ!!」


 周りの作業員からヤジが飛んでくる。


「ち、ちげえんだよ!」


 マックスは弁明するように叫び返す。


「もう、手加減できねぇんだよ!こいつはそれほどまでに腕を上げてる。ったく、立派になったもんだ」


 最初の頃は軽く捻ってやれていたというのに。


 このソウルは魔法も使えないくせに、この国で治世を守るための職、【騎士】になりたいと豪語した。


 バカな夢を見るもんじゃない。現実を教えてやる、と始めたこの剣の稽古。


 すぐに諦めると思っていたのにソウルは諦めなかった。「いつか、魔法が使えなくても騎士になってみんなを守ってやるんだ!」と口癖のように語っていた。


「お前なら……本当にやってくれんのかもな」


 マックスは日を重ねる毎に強くなって行くソウルを見下ろしながら感傷に耽っていた。


「それでもこれ、あご砕けてねぇか?」


 見ると、ソウルのあごがどんどん赤紫色に変色していく。形も少し歪になっている。


「……やべえ」


 マックスは動揺する。急いで病院へ連れていかねぇと!?


「あ、あの〜……」


 すると、マックスの背後から少女の遠慮しがちな声が聞こえてきた。

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