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食事会

 ソウルは再び医務室でオリビアから治療を受けていた。


「まさか、同じ日に同じ人を治療する日が来るとは思いませんでしたよ」


「……めんぼくない」


「いやぁ、見事な回し蹴り。ソウルは文字通り一回転だったよ」


 レイは愉快そうにあっはっはと笑い転げている。


「シーナは?」


 ソウルはレイをジト目で睨みながら尋ねた。


「あの後、すぐにどこかに行っちゃったよ。全く、ソウルが強引に誘うから」


 レイが悪戯っぽくニヤニヤ笑う。


「いや、別に強引に誘ったつもりは……って、いてててて!?」


 突然オリビアに腕をつねられた。


「そうやってすぐ女の子に手を出すのは感心しませんよ」


 凄く不機嫌そうだった。そうだよな、迷惑かけちゃダメだよな。


「……ソウルって、朴念仁?」


「何のことだ?」


「レイさん?」


「なんでもないです」


 オリビアがレイに圧をかけ、レイは素直に身を引く。


「でも、ソウルがのびてる間にすっかり遅くなっちゃったなぁ」


「わ、悪かったよ」


 窓から見ると、外はもう日が落ちて真っ暗だ。


「オリビアさん。この辺にどこか美味しいお店とかあります?」


 するとレイはオリビアに話を振る。


「え?えーと……ありますけど……」


「よかったら案内して貰えませんか?良ければそのまま一緒に晩御飯でも。手間をかけさせたお詫びにソウルが奢ってくれるはずなんで」


 レイはそう言うとソウルの方を見る。


「そ、そうだな。オリビアさえ良ければ奢らせてもらうけど、女の子だしあまり遅くなるのは……」


 さっきオリビアに釘を刺されたところだしなぁ。


「い、いえ!行きます!せっかくの機会ですし!?」


 するとオリビアが激しく動揺している。


「すぐ支度してくるので!待っててください!!」


 オリビアはそう言うとバタバタと医務室から出て行った。


 これはあれだな。レイはイケメンだし、きっとレイと仲良くなりたいんだろうな。


「……邪魔なら俺は帰るけど?」


 ソウルはレイに耳打ちする。


「うん、ソウル、ぜ~ったいに帰るな。そしてそれをぜ~ったいにオリビアに言うんじゃないぞ?」


 レイは笑顔のままそう告げるのだった。


ーーーーーーー


 オリビアが案内してくれたのは、小さな酒場だった。


 内装は明るく、おしゃれに飾り付けがされており多くの若者たちで賑わっている。


 3人は1番端のテーブルに案内され、席についた。


「ここ、おいしいくて値段もお手ごろなのでオススメなんです」


「へぇー。これはまたいい所を教えてもらったなぁ」


 ここは酒場と言ってもどちらかと言えば料理がメインのお店のように見える。


 小汚いおっさん達が集まって酒を飲み漁る店ならよく入ったことがあるが、こう言ったオシャレな酒場とかレストランには馴染みがなく、物珍しくてキョロキョロと店を見回す。


「ソウルってあまりこういった所に馴染みがないのかい?」


「あぁ。元々孤児院の出身でさ、そっから……まぁ色々あって、この国を旅して回ってたからな」


「そうなんですか……。大変だったんですね」


「まぁ、それなりに」


 ソウルはあははと苦笑いをする。あまり楽しい話でもない。初対面の相手にするのは少々重い話だ。


「その辺の話もいつかきかせておくれよ。今日は美味しくご飯を食べよう」


 それを察してか、レイがさらっと話を変える。本当に気が利く良い奴だと思った。


「あら、オリビアちゃんじゃないの!」


 すると、オリビアを見て酒場の店主が声をかけてきた。


 褐色の肌に筋肉隆々で存在感がハンパない。明らかに男なのだが口調が妙に女っぽい。


「あぁ、マルコさん。ご無沙汰してます」


 そんなマルコにオリビアも笑顔で挨拶する。


「もぉー。オリビアちゃん。最近めっきり来なくなっちゃたから、寂しかったのよォ?」


「えへへ、ちょっと忙しかったんです。騎士団の入団試験とか、いろいろ」


「あら、そうだったのぉ?入団試験、あたしも見てたんだけど、今年は面白かったわねぇ。魔法の使えない男の子に、【ジャガーノート】の女の子……当たり年ねぇ」


「あー……」


 マルコの言葉を聞いてオリビアが視線をこっちに寄せる。


「あ、あはは……」


 ソウルは髪をガシガシとかきながらマルコを見た。



「あらぁ!?噂をすればじゃないの!?」



 頬に手を当ててときめく乙女のような顔で告げる。実際はおっさんなのだが。


「そ、ソウルです。オリビアにここを紹介してもらって……」


「やぁん、オリビアちゃん。この子かわいいわねぇー!ちょっとこっちで一緒に飲まなぁい?」


「え、あ、いや、えーと」


 何やら貞操の危機を感じてソウルは焦る。


「だ、ダメですマルコさん!」


 そんなソウルにオリビアが助け舟を出す。


 レイはあははと面白そうに笑いながら飲み物を飲んでいる。助けろや。


「……あはぁーん?そういう事ねぇ?」


 そんなオリビアを見てマルコはニヤニヤし始める。


 そして、オリビアの肩を組み込み彼女を連れ去ると何やらボソボソと話を始めた。



(「オリビアちゃん。いい男引っ掛けたじゃないの。逃がしちゃダメよ?」


「いいいいいやいや、そんなんじゃないですっ!?」


「もぉー、あたしには隠し事なしでしょっ。どう?1発強力な薬もあるけど、盛っとく?」


「なんでこの店そんなの置いてるの!?」)



「……なんの話してんだろな」


 何故か背筋が凍るのを感じながらソウルは飲み物をすする。


「……聞かない方が君のためだと思うよ」


 レイはその様子を心底楽しそうに眺めてニヤニヤしていた。


「さ、さぁ、料理も来たし、食べましょうか!」


 しばらくすると、頬を赤く染めたオリビアが戻ってくる。


「もぉ、オリビアちゃんったらぁ」


「いい加減にしてください!」


「はいはい、分かったわよぉ」


 マルコはやれやれと言った様子で店の奥へ消えていった。


「に、賑やかな人だな」


 嵐のようなマルコの行動にソウルは苦笑いする。


「もぉ……でも、いい人なんですよ」


 オリビアは少し疲れた様子だが優しく笑っている。きっとお互い気の許しあった仲なのだろう。


 3人で軽く乾杯した後、マルコの料理に舌づつみをうつ。


 オリビアがおすすめするだけあって味はかなりのものだった。


「凄いおいしいですね」


「えぇ、マルコさんの料理はイーリスト国でも一流ですから」


 オリビアは嬉しそうに答える。


「そんな有名なのか。こんな小さい店で、もったいない気がするなぁ」


「マルコさんはあまり大きなお店を持ちたくないみたいです。こじんまりした店で顔なじみで賑わう店にしたかったとかで」


「……なんか、分かる気がするよ」


 ソウルは周りを見渡す。


 この店の皆は気兼ねなく料理と酒を楽しんでいた。


 大きな店になってくるとその分色々な面倒事もついてくる。きっとマルコはこの気楽な雰囲気を守っていきたいと考えているのだろう。


「シーナも来れたらよかったのにな」


「うーん、でも周りの目もあるから、こういう店には来にくいんじゃないかな」


 ソウルの言葉にレイは少し神妙な様子で告げる。


「……なぁ、【ジャガーノート】って何なんだ?」


 ソウルはずっと疑問だったことを聞いてみた。


「【ジャガーノート】って言うのはねぇ」


 すると、接客が終わり暇になったのかジョッキを片手にマルコがこちらにやってきた。


「破壊者の名を冠する、魔術で造られた戦闘民族よ」


「戦闘民族?」


「ええ。今では禁止されているような禁術や呪術を使って圧倒的な身体能力と魔法特性を持たせた一族よ。彼らはその呪いで眼は真紅、髪は銀髪になるらしいの。過去の大戦の間は貴重な戦力として重宝されていたけれど、大戦が終わった後はその力が忌み嫌われて迫害されるようになったって聞くわ」


「もう既に滅んだとも言われてたんですけど、まだ少数生き残りがいるって噂があったんです。シーナさんはきっとその中の1人なんだと思います」


「それにしても、よく仲間に引き込めたね。彼らはその身の成り立ちから人に心を許すことはないって言われてるのに」


 そうして3人の視線がソウルに集まる。


「いや、チームに入ってくれてるけど、絶対に心を許してはくれてないと思う……」


 ソウルはそれらの視線に居心地の悪さを感じつつ蹴りをくらった側頭部に手を当てる。あぁ、まだじんじん痛む。


「心を許してくれてたらあんな風に一回転することも無かっただろうしね」


「一体ここに来るまでに何があったのよ」


 そんなソウル達の話を聞いてマルコは呆れている様子だった。


「でも、実際のところどうするんです?」


「うーん……」


 ソウルは頭を抱える。


 確かにチームとして協力していく以上、シーナと距離を縮めなければならないだろう。


 しかし、それはソウルが思っている以上に困難を極めそうだ。


「そもそも、なんでソウルはシーナに声をかけたんだい?先に声をかけてくれていたチームもあったみたいだったけど?」


 レイはソウルにそんな疑問を投げかけてくる。


「何でだろうなぁ」


 ソウルは頭をガシガシとかく。


「何となく……だけどさ」


 ソウルはあの時に感じたことをそのまま告げてみた。


「凄く……寂しそうだなって思って。何かほっとけなかったんだよ」


 もしかすると、あのシーナの姿にある1人の少女の姿を重ねていたのかもしれない、とソウルは思った。

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