入団試験③
激しい風の渦、【トルネード】が真っ直ぐにソウルを捉える。もう回避は不可能だろう。ルシアスは勝利を確信した。
しかし、ソウルは諦めていなかった。いや、むしろこれを狙っていた。
ソウルは思い出す。6年前の悲劇と、この6年間の軌跡を。
「おれにだって、譲れねぇもんがある!そして、そのためにこの6年を費やしてきたんだ!」
そう叫びソウルは駆け出した。
トルネードとは反対方向。闘技場の壁に跳び、またその壁を蹴って高く跳躍する。
ソウルの足の下でトルネードが弾ける。その風圧でソウルの身体も吹き飛ばされそうになるが、ソウルはそれすらも利用する。
「な……!?」
ルシアスのトルネードの風圧を追い風にして、一気に加速。一陣の風のように超高速でルシアス目掛けて飛び出した。
なんて足の速さだ!?
勝利を確信していたルシアスは明らかに反応が遅れている。
とにかく、この6年で1番シナツに鍛えられたのは足だった。魔法を使えないのなら、いかに距離を詰めるかが勝利のカギ。
どんなに強力な魔法だって、当たらなければ使えないのと同じなのだ。
「この……!」
だが、ルシアスだって腐っても騎士。すぐに態勢を整えると飛び込んでくるソウル目がけて魔法を放つ。
当然、放つのは範囲魔法【トルネード】。
多少すばしっこいとしても、広範囲魔法でまとめて押し返してしまえばどうとちうことはない。なるべく広範囲をまとめて吹き飛ばせるように大きな風の渦を作り出した。
そして、それもまたソウルの狙い通り。
シナツから魔法の知識を嫌という程叩き込まれた。
「いいか、クソガキ」
シナツは言った。
「まずは、相手の使う技を理解しろ。それぞれの魔法の性質と、弱点。そして、相手の癖を見るんだ。一概に魔法って言っても使うのは人間だ。魔法の形成や発現、使い方にはそいつなりの癖がある。それを利用してやるんだ」
ソウルはただ逃げ回っていたわけではない。ルシアスの魔法を観察していたのだ。
【トルネード】の魔法は範囲威力ともにバランスが良い。しかし一方でその渦の中心は効果が及びにくい性質があった。
さらにルシアスの場合、他の魔法使いに比べても、中心への効果が薄くなっている。マナの組み方が雑なのだ。
それはきっと彼の弱いものを痛ぶる腐った性根が生み出した弱点だ。
ソウルはその隙を見逃さなかった。
そして、その弱点は高速で飛び込んでくるソウルに動揺してさらに顕著になった。今生み出された風の渦は中心部分がスカスカだ。
ソウルは怯むことなくマントを被って渦の中心へ向かって跳躍する。
「馬鹿なヤツめ!いくら中心への効果が薄いとはいえ、全く届かない訳では無いぞ!?吹き飛ばされて終わりだ!!」
ルシアスは馬鹿みたいに自身の魔法に飛び込むソウルを見て勝利を確信した。
誰もがルシアスの勝利を信じて疑わなかっただろう。だが、ソウルの琥珀色の瞳は、ただ勝利を目指して鋭く光る。
「……ん?」
いち早く気がついたのはVIP席にいたジャンヌだった。
「ほぅ……あれはまさか、闇属性を付与された布だったか」
隣の大男も感心したようにその光景を見る。
トルネードに突っ込んだソウルのマントが魔法を弾いていたのだ。
闇属性は光以外の属性への耐性がある。
故に多少の魔力であれば弾くことができる。魔法が使えないソウルの対抗手段。その1つがこのシナツ直伝の闇マントの防御術だった。
しかし、それも完璧ではない。いくら耐性があるとはいえ所詮は布一枚だ。防具としては物足りない。
だが、ソウルはこのマントが耐え切れるほどの被弾で済むように身をねじり、弾き出されないようにまっすぐルシアスへ向かって突き進む。
当然、狙うのはこの魔法の力の源であるルシアスの手のひらだ。
「ああぁぁぁぁ!!!」
風の残滓がマントを突き破って体を抉る。
それでもソウルはただルシアスに向かって突撃する。
ソウルのマントは風にさらわれて八つ裂きになって消えた。
だが、その代償としてソウルの目前には渦の中心、魔法の原点。ルシアスの手があった。
「いけえええええええええっ!!!!」
ソウルは半ば倒れ込むようにルシアスの手の平へ剣を押し込む。
風の渦を突き破る漆黒の剣。それはルシアスの魔法を穿ち、彼の手のひらを貫いた。
ドシュッ!
「ぐっあああああ!!」
ルシアスは悲鳴をあげる。それと同時に【トルネード】はマナを失い、霧散する。
その残滓もまたソウルの肌を引き裂いていく。
それでもソウルは怯まずにそのまま一気に距離を詰めるとルシアスの首元に剣を突き立てた。
「なっ!?」
「.......っ、おれの.......勝ちだ...!」
ソウルは痛みを堪えながら勝利宣言する。
トルネードで巻き上げられた砂煙が晴れ、コロシアムは一瞬静寂に包まれた。
そして
「おおおおおおおおおおお!!!!!」
割れんばかりの歓声が上がる。
「.......っ!」
長かった。ソウルは感慨深く思う。
ここまで来るのに、6年...いや、13年かかった。その月日を噛み締めながらソウルはその場に倒れ込んだ。




