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旅立ち②

 ソウルは山道をただ歩いていた。その姿はさながら生ける屍の行進のように見えただろう。


 一体、どれほどの時が経ったのだろう。すでに夜は明けて日は高く昇っていた。


 喉の渇きも空腹も疲労も。そんなものはどうでもよかった。いっそ、このまま行き倒れてしまった方がいいとさえ思えた。


 しかし奇しくもこれまで鍛え上げてきたソウルの身体がそう易々と彼の身を終わらせてはくれなかった。


 自暴自棄に陥ったソウルは朦朧とした意識のままただただ行き場もなく森の中を彷徨う。


 そして、そこから更に1時間ほど歩くと、道の外れからどしゃあっと何かが地面に倒れ込む音が聞こえた。


 虚な目で見てみると、そこに屈強な山賊たちが1人の男を取り囲んでいた。


 盗賊たちの腰には孤児院にいたあの男のようなドクロのアクセサリーが付けられている。まさか、あの男の仲間か……?


 対する男は金髪で歳はシルヴァと同じくらいの年齢に見える。服装はまるで盗賊のような格好で全身を覆うような黒いマントを着ていた。


 そして彼の右手には漆黒の片刃剣が握られており、それを肩にかけながら盗賊達を睨んでいる。


「このやろう!」


 怒号と共に1人の山賊が金髪男に切りかかる。男はそれを横なぎで切り払うとそのまま懐に滑り込み一閃。


 ザンッ


「がぎゃあ!?」


 盗賊を一瞬で切り伏せた。


「っ!」


 流れるようなその動きにソウルは思わず目をはる。


「くっ」


「一斉にかかるぞ」


 残った4人の山賊は男を取り囲み一斉に襲い掛かった。


 山賊たちから雷の球体、岩の塊、火の光線、風の斬撃が飛び出す。ソウルの目には男に逃げ道がないように見えた。


 しかし男は即座に雷の球体の方へ飛び出し、あろう事か、それを真っ二つに切り捨てる。


「なっ!?」


 魔法を切り捨てるなどという離れ技を見せた男はそのまま懐に飛び込み山賊に一太刀。その間に山賊が放った魔法同士がぶつかり背後で爆発が起きる。


 ドォン!


 男はその砂埃の中に身を隠し、他の山賊への距離を詰めていく。まるでその姿は疾風のようだった。


「ぎゃあああ!?」


 そしてそのまま風のように山賊の間を駆け抜けたかと思うと、山賊は血飛沫を上げて次々と倒れていった。


 そこで、初めて男と目があった。


「あ?」


 男はこちらを見下ろしながらソウルに声をかけてきた。


「なんだお前は。こんなところで何してやがる」


 男はそう告げながら黒剣を鞘にしまう。


「まぁいい。迷子だか何だか知らねぇが、この先を少し進んだところに村がある。助かりたけりゃそこに向かうんだな」


 そう言って男が指差す先には確かに人の生活の煙が登っているのが分かる。


「ま、待ってくれよ!」


 だが、ソウルは立ち去ろうとする男を呼び止めた。


「あ?」


「……俺を、連れてってくれねぇか?」


 これほど強い人間は初めて見た。そしてその強さは全てを失ったソウルにとって唯一の希望のように映った。


「何言い出すんだ、このガキ」


「頼むよ」


 ソウルは食い下がる。


「ガキなんぞつれて仲良しこよしの旅なんかしねぇよ。面倒事に巻き込まれるのはゴメンだ」


「頼むよ!俺に……俺に、剣を教えてくれ!!!」


「めんどくせぇ。んなもん俺に何の得もねぇじゃねか」


 男はあきれたようにそのまま立ち去ろうとする。


「それでも、お願いします!!」


 ソウルは懇願するように男の腕にしがみつく。


「邪魔だ」



 ドゴッ!!



「かはっ!?」


 その瞬間ソウルの顔と鳩尾に衝撃が走った。男に殴られたらしい。速すぎて目では分からなかった。


 肺から空気がこぼれ、ソウルは息が出来なくなる。


 だがそれでも決して男の腕を離さない。


「た……むよ」


「しつこいな……。これでどうだっ」


 痺れを切らした男は腕を大きく振ってソウルを宙に浮かせると、そのまま回し蹴りを放った。


 ドスン!!


「がっ!?」


 さすがのソウルも手を離してしまい、吹き飛ばされ地を転がる。


 それを見届けた男はその場を去ろうとするが、それでもソウルは足にしがみ付く。


「あぁー!うぜぇなあ!」


 何なんだこのガキは?何がこいつをここまでさせるんだ?


「いい加減に……」


「……なんだよ」


「あ?」


 文字通り足に食らいついてくる少年が何かを語り始める。


「いやなんだよ……大事な人を、守れないのは」


 ふーっふーっと息を荒くしながらソウルは続けた。



「俺は……俺は……づよぐなりだいんだ!!」



 ソウルの顔は涙と鼻水とヨダレで顔をベタベタだ。



 それでも、ただ思いを、全て。もう目も見えていない。男がどこにいるかもわからない。それでも叫んだ。



「もう……誰も……!目の前で死なせたくなんかないんだよ!!!!」



 そこまで叫んだところでソウルの意識は途絶えた。

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