7 ご理解のほどを
Xでも触れましたが、配信者様が配信中に襲われるという痛ましい事件がありました。
この件について、私は5年前に似たようなテーマの小説を構想し、あらすじを書いていました。しかし、今回の事件を受け、その作品を世に出すことを控えます。ただ、あらすじだけは紹介しようと思います。
シングルマザーの配信者(A)には、彼女に多額の金を貢いでいる男性(B)がいた。AとBは配信外でも親しく、プライベートではほぼ毎晩オンラインゲームを共にしていた。二人きりの時もあれば、他の仲の良いメンバーが混ざることもあった。
ある日、Aの配信を偶然訪れた(C。主人公)が、そのグループに加わる。AはCのコメントを気に入り、「プライベートでも遊びましょう」とAからDMを送ったことがきっかけだった。
当初、グループ内の関係は良好だったが、Aは次第にCに好意を持ち始める。その変化は周囲にも明らかであり、当然、Bも気づいていた。BはAの生活を支えていた存在だった。借金までして貢ぎ続けているにも関わらず、AはBに恋愛相談を持ちかけるようになった。
「好きな人ができたの」
その言葉にBは苦しみ、激しい嫉妬をCに対して持つ。しかし、Bにとってこれは初めてのことではなかった。Aはこれまでも何度も同じように、他の男への好意をBに相談してきたのだ。
だが、今回Aが恋したCは普通の人間ではなかった。
Cは、Aの配信を以前から観察し、毎日配信におとずれているBとAの関係にも気づいていた。サイコパス的な性質を持つCは、計画的にAとBの関係を崩しにかかる。Aには自分に強く惹かれるよう仕向ける一方、Bには同情的な態度を取り続けた。二人の心の奥底に入り込み、操作し、関係を支配する。
やがてAは、Cと実際に会いたいと望むようになる。しかし、Cは様々な理由をつけて会うことを拒み続けた。そして、Aの気持ちは次第に冷め、ある日Cをオンラインゲームのグループから追い出す。
その後、Aの周囲に新たな変化が訪れる。
Aのマンションの隣室に、新たな住人(D)が引っ越してきた。彼は清潔感のある好青年で、背も高く、Aの好みにぴったりだった。彼は料理が得意で、Aによく手料理を差し入れるようになる。Aの二人の娘もDを気に入り、頻繁に部屋を行き来するようになった。
ネットでの関係ならBに相談するAであったが、リアルで知り合ったDの存在を伏せたまま、新たな恋を楽しんでいた。
一方、Cはグループから追い出された後もBとの交流を続けていた。Bは相変わらずAに貢ぎ続けていたが、かつて嫉妬していたCに対しては、グループから追い出されたこともあり、親しみをより感じて自らの苦しみを吐露するようになっていった。
「Aが好きなんだ。何度も何度も告白したけど、もう俺にはチャンスがない……」
CはそんなBに同情し、親身になって相談に乗る。ときには金を貸し、信頼関係を築いた。そして、次第にBを「洗脳」していく。
ある日、CはBにこう告げた。
「黙ってようと思ったけど無理だ。実はBさんが今まで貢いできたAには、新しい男がいるんだ」
Bは驚き、動揺する。
「ネットで気に入った男がいればBさんに相談して、AはBさんには隠し事せずになんでも言えるってスタイルを見せていたんだ。そうやって、あなたのポジションを上げている様に見せかけて実際は……」
CはBの怒りを巧みに煽り続けた。そしてついに、Bの中で何かが壊れた。
「Aは俺のものだ……」
そして、運命の日が訪れる。
Bは田舎から上京し、Aの家へ向かった。ポケットには包丁が忍ばせてあった。
Aはその夜、いつものように配信をしていた。
チャイムが鳴る。
「宅急便かも。開けてくれる?」
Bは事前に、いつも送っているお菓子をまた送ったとAに告げていた。
Aは娘に玄関のドアを開けさせた。
次の瞬間、Bは娘を襲った。
大きな物音が響く。Aは何事か分からず、マイクを一旦ミュートにして、もう一人の娘に様子を見に行かせる。するとその娘も襲われた。そして、最後にA自身も……
その惨劇の一部始終が、生配信で流れ続けていた。
異変に気づいた隣室のDが駆けつけ、呆然としているBを取り押さえた。
お気づきの方もおられると思いますが、このDこそが、Cだったのです。
CはAの隣室へ引っ越すチャンスを伺っていたのだ。そして、Aや娘たちと仲良くなることで部屋への出入りを許され、至るところに隠しカメラを仕掛けていた。
その夜、Bの襲撃を知っていたCは、隣室から隠しカメラとAの生配信を観ながら、微笑みを浮かべていた。そして、呆然としているBを見ながら平然と隠しカメラを警察が来る前に片付けて、それからBを取り押さえた。
なぜCはそんな事をしたのか、それは…… 明かす事はできません。
と、いうお話です。今回、類似する痛ましい事件が発生してしまったことを受け、この作品の公開は控え、あらすじのみの紹介といたしました。
なぜあらすじを紹介したかというと、実はこの作品は、とある作品のスピンオフなのです。この作品だけではなく、「オタクとヤンキーが異世界にいくとだいたいこんな感じになった」も「レンタルおじさん」も、その同じ作品のスピンオフです。
その作品は、10年ほど前に構想しており、6割程度は書いています。ですが、その過程で思いついた「オタヤン」と「レンタルおじさん」の方に心を引かれてしまい、先にそちらの掲載を始めました。このCの作品も、実は近々発表する予定でした。ですが、上にも書きました理由で、あらすじのみにしておきます。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。