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 18 カメムシ


 カメムシ……


 はい、今わたしは、毎日カメムシに悩まされております。


 私は今まで、今ほどの田舎に住んだことがありません。仕事や大学などの関係で、一都五県に住みましたが、地方住みでも、県庁所在地に住むことが多く、不便を感じたことはありませんでした。


 今回田舎に住むと決めたのは私自身ですし、訪れるであろう困難は下調べしておりましたし覚悟もしておりました。ですが、異常な数のカメムシは……


 恐らく、私の家に毎日200匹前後のカメムシがやって来てます。これは決して大袈裟ではありません。本当にそれぐらいの数がやってくるのです。


 寒い季節になりましたが、私が住んでる家は大変日当たりが良くて、お昼はぽかぽかして気持ちが良いです。日中は半袖でも大丈夫なのではと思うほどです。そんな陽気に誘われて、ついつい沢山ある窓を解放してしまいます。


 すると…… 


 カメムシたちは、まるで狙っていたかのように開けた窓から家に侵入してきます。引っ越してきた当初、窓を開けていても、虫に侵入されたことは殆どありませんでした。あっても蚊とかハエ、たまに蜂とかでした。

あと、洗濯物です。外に干している洗濯物に、沢山のカメムシが付いており、しらずに室内に入れてしまうのです。ですので最近は、裏側までしっかりと確認しております。とにかく奴らは、あの手この手で家に入ろうとしてきます。そして、侵入に成功したカメムシは、身を潜め、春が訪れるのをジッと待つのです。


 この前なんて、ティッシュペーパーの箱の中にいたんですよ! 取り出したティッシュについてたんですよ! 気づかずに鼻をかんだりしていたら、どんな惨状になっていた事か!? その時は思わず悲鳴を上げてしまいましたわ。


 はぁーーー……


 そんなカメムシたちを、11月のある日を境に、急に目にすることが増えてまいりました。


 そのある日とは、実は大量のカメムシを目撃する前日、裏山の草を刈ってる人がいました。その時私は、その土地の持ち主さんが草刈りしてくれていると思っていました。ですがそれは間違いで、その草刈りをしていた人は、大きな柿の木まで草を刈って道を作り、柿を収穫していたのです。後で聞いた話ですが、その人はその土地の持ち主でも何でもなく、ただの柿泥棒でした。私と目が合うと、バツが悪そうにそそくさと軽トラで退散していきました。

 

 長い間放置されている土地ですので、その人からすれば柿ぐらいと思ったのでしょうか。柿の木まで行くのには、大量の草を刈らなければなりません。私の背よりも高く折り重なった雑草を、10mほどの距離を刈ったのです。その次の日からでした。私の家に大量のカメムシが押し寄せて来たのは。


 ですので当初私は、その草刈りが原因だと思っておりました。大量の草を刈った事で、行き場を失ったカメムシが私の家に押し寄せて来た。そう思って、その柿泥棒を恨んでおりました。ですが、カメムシの襲来は、この時期に毎年起きることらしいです。本格的に寒くなる前に、越冬できる場所を探しているとの事です。


 そんなカメムシと私は、小さなご縁がございます。


 小学生の時、運動場の片隅でお昼休みに友人と花を摘んでいました。その時、私はうっかりカメムシを指でつまんでしまいました。


 首飾りを作るために花を摘む無垢な少女とカメムシ。それが、初めての出会いでした。


 初めて見る昆虫でしたので、指でつまんだカメムシを観察していた私を見て、友人が声をあげました。


「キャー、捨てて!」


 と、悲鳴を上げながら大きな声で。


 私もその友人も、それほど虫嫌いではなかったので、何故そんな大きな声を出しているのか理解できなかったのですが、私は指でつまんでいたカメムシを離して友人に視線を向けました。すると、友人はじわじわ私から距離を取って離れていきます。 え、どうして? と疑問が頭をよぎったその時でした。


「ねぇ、指の匂い嗅いでみて!」


 と言われたので、私は素直にカメムシをつまんでいた指の匂いを嗅ぎました。


「……くさっ!!」


 あの刺激臭を、私は忘れたことなどありません。ただ臭いだけではなく、本当にショックでした。私の指から、嗅いだことのない刺激臭がするのです! すぐに地面の土に指を何度も擦りつけました。


 それでも臭い!


 今度は美しく香水のような香りがする花に、そのカメムシ臭のする指でつまんですりつぶすかのようにこすりつけました。


 でもまだ臭い。


 まさかあの時の花も、カメムシ臭を消すために使われて一生を終えるなど、想像も出来なかったでしょう。


 逃げる友人の後を追うように私は走り、すぐに石鹸で手を洗いましたが、それでもしばらくは酷い匂いでした。そして、その話はすぐにクラス中に広がり、私はしばらくの間、カメムシを知らない女と呼ばれるようになりました。


 ほんとうにもう…… 


 そうです、そんな因縁のあるカメムシが私の家に大量に……


 先ほども申しましたが、田舎に引っ越すにあたって、様々な困難は覚悟しておりました。ですけど…… カメムシは聞いてないよーーです。


 この話を書いている今、12月2日の朝5時43分です。なぜこんな早朝にとお思いでしょう。はい、カメムシの羽ばたく音で目が覚めました。田舎の静かな家の中でカメムシが羽ばたくと、米軍のヘリコプターのような音が部屋中に響き渡ります。その音で、何度睡眠妨害された事か! その音で飛び起きた私は、照明を点灯させるよりも先に、壁に立てかけてある網に手を伸ばし、それから照明のスイッチを入れました。その時は既に羽ばたくのを止め、壁にとまっておりました。


 刺激しないように、そっと下から網を近付けて、中に入りなさいと促すように突っつくと、ぽとりと網の奥に落ちていきました。すぐに網を二つに折り、窓を開けた。冷たい空気が身体の中に入るのを感じながら、網を反対向けて外に逃がしました。


 殺さないの? と思った方もいるでしょう。けど、あの刺激臭を出されると思うと、潰す事も殺す事も出来ないのです。殺されず解放された奴は、また必ずやってくるでしょう。毎日イタチごっこです。


 それでも、窓の外には優しい光が降りそそぎ、静寂に包まれています。まるで、私とカメムシだけの世界のように……


 そうです、これが田舎に住むということなのです。穏やかさと不便さが寄り添う。カメムシは、侵入者ではなく、共に暮らす隣人。


 そう自分に言い聞かせて、私はここで生活していきます。





『オタヤン』の掲載が遅れており、大変申し訳ございません。

近々再開いたしますので、もうしばらくお待ちください。

Xでは、侵入者の画像や、田舎の日常を切り取った短い動画を掲載しています。

よろしければ、そちらもご覧ください。

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