1、栄光の過去
ある日、僕に妹ができた。
父の連れ子である僕と、再婚相手の継母の連れ子である義妹。
よくある、よくある胸きゅんシチュエーションだ。
しかも妹は、ほんのニケ月違いの同級生だった。
さらに言うと、モデル雑誌から抜け出してきたような美少女でもある。
これで僕が爽やかなイケメンならば、アニメ化、ドラマ化、間違いなしだ。
だが残念なことに、僕はずいぶん前に詰んだ男だった。
その証拠に、彼女、羅奈は、僕を見るなり眉間にしわを寄せ盛大にため息をついた。
南蒼佑などという、かっこ良さげな名前に期待していたのかもしれない。
だが現実とはこんなものだ。
僕はボサボサに伸び散らかした前髪に顔を隠し、俯きかげんに座る最高に冴えない男だった。
少女漫画のようにすかしたイケメンの兄が現れると思った方が間違いだ。
美少女だからと、イケメンばかりが周りに集まってくるなんて思う方が甘い。
確率的に言っても、片一方が飛び抜けた美少女であるなら、もう片方は平凡以下の相手でなければバランスが悪くなる。世の中とはバランスでできているのだ。
そういうわけで、最悪の出会いから僕たちは始まったのだった。
◇
僕が「この人生は詰んだな」と思ったのは、今から五年前だった。
小学六年生だった僕は、受験の追い込み時期に入っていた。
目指すのは、県内最高峰の有名私学だ。
東大合格率、県内ナンバーワンを誇る中高一貫校が合格安全圏と言われていた。
僕の前には輝かしい未来が待っているはずだった。
「南くん、この間の模試、一番だったんだってね。すごいなあ。私なんて第一志望の龍泉学園も危ないって言われているの。頑張らないと」
そう話しかけてきたのは、学年一可愛いと言われている白藤妃奈子だった。彼女が僕に好意を持っていることには気付いていた。
なぜなら、いつも僕のそばに金魚のフンのようにくっついてくる親友(……と言えるのかどうか分からないが)の真鍋哲太が教えてくれたからだ。
彼女が僕のそばから立ち去るのを見計らったように、哲太が耳打ちした。
「ほらな。あれは絶対蒼佑の事が好きだぜ。いいな、いいな、こんちくしょう!」
哲太の話では、お互い無事に第一志望の中学に合格すれば僕に告っていたらしい。
本当かどうかは……今となっては分からないけど……。
あの頃は調子にのっていたな、と思う。
人生なんて、一寸先は闇だということに気付いていなかった。
自分が確実なものなど何も持たない、ちっぽけな存在だなんて思いもしなかった。
僕は未来を約束された多くのものを持っている人間なのだと疑いもしなかった。
ほんの一つ歯車を失えば、すべてを失うのだということを知らなかったのだ。
――その年のクリスマスの日、母さんが事故で死んだ――
そしてショックも癒されないままの混乱の日々の中で、僕は第一志望の受験日に寝坊した。
そうして、滑り止めに受けていた龍泉学園に入学することになった。
白藤さんと……なぜか絶対受からないと言われていた哲太まで一緒だった。
次話タイトルは「拒否られる兄」です