80.シスターコントロール
目が覚めた時、往々にしてベッドの上と相場は決まっているのだが、俺の場合は寝落ちしたら同じ場所で目が覚めるのが当たり前のことだ。家の中でも車いすで生活している紗由に俺を運ぶことは出来ないし、寝ながらベッドへ移動するほど器用でもない。
「おっと、寝ちまったのか。
もう朝になってるな―― ってもう十四時かよ!
紗由、なんで解析終わってすぐ起こしてくれねえんだよ」
「ん? 解析なんてあの場ですぐ終わったに決まってるじゃん。
そんでカフェ・オ・レに睡眠薬入れて眠らせたのがウチ。
ってことは起こすわけなんてないってこと」
「なんで…… なんでそんなことしたんだよ!
俺はやらなきゃいけないのに……」
「自分の気が済まないから?
虹子のためにやりかえさないと気が済まないから?
正義の鉄槌を下してやらないといけないから?
探索者として許せないやつらだから?」
「全部だ、その全部が理由だ!
胸糞悪くて仕方ねえから八つ当たりでもなんでもいいからやっちまいてえの!」
「そしたらウチが一人になっちゃうじゃん。
おにいが殺人犯になって刑務所入っちゃったら誰がウチの面倒見るの?
ずっと一緒にいてくれるって約束したじゃん」
紗由の目には涙が浮かんでいた。コイツが今までに何度泣いただろうか。二歳くらいの頃は俺がおもちゃ貸さないくらいで泣いてたのに、三歳くらいになってから一度も泣いていない気がする。
そんな妹が今俺を冷静にするために泣いてくれているんだ。そう考えるとあっという間に頭の回転が正常に戻り、まともな思考回路ってこう言うもんだって自分の脳みそに言われたかのように平常心へと戻った。
「そっか、そうだよな…… ちょっと俺焦ってたのかな。
頭に血が上って冷静じゃなかったんだな。
もう昼過ぎてんだから犯人たちだってちゃんと捕まってるんだろ?」
「そりゃもう凄い騒ぎだよ。
能技大にも首都のWDH本部ってとこにも強制捜査だってさ。
後ね、虹子の手術も終わったって連絡あったよ。
おばさんすごい泣いてた…… でも行ってあげなよ。
虹子はおにいのこと待ってると思うよ?」
「うん、すまないな紗由、いつも面倒見て貰っちゃってさ。
やっぱお前はすごいやつだよ」
「当たり前でしょ!
おにいの妹なんだからこれくらい出来て当然ってね。
その感謝の気持ちを表すために、帰りにお菓子お願いだよ?」
「わかった、行ってくる。
しばらく探索は中止になるだろうから食い物がしょぼくなっちゃうしな。
ちょっとまとめ買いしてくるよ」
俺と紗由は両手を合わせパンッとハイタッチをした。




